23.露店の店先
案内されたのは、中央通と呼ばれている大通り。
その一画で何人かのプレイヤーが露店を開いていた。
「あのお店です。
更紗ー!」
リィリーがそのうちの一つに手を振る。
そこにいたのは、黒いゆったりとした服を着た女性だった。
「あ、リィリー。
ちょうど良かった。また組合員総出で素材ツアーに行こうって話があって、今週末なんだけど、どうする?」
「え、うーん、今週末は……ちょっと、ムリかなー」
「だよねー。アタシも厳しい。
ただ、リィリーの活躍のおかげでこれから、結構な注文が入りそうなんだよね」
「えへん! 広告塔ですから!」
完全に二人で盛り上がってしまっておられる。
おーい。
「あ、ごめんなさい!
えっと、防具職人の更紗さんです。
私の服もメイドイン更紗なんです。
こちらはジンさんです!」
更紗と呼ばれた女性は物珍しそうな目でこちらを見ている。
「はじめまして。ジン君。
私は、服飾系の防具を取り扱っている。なので、守備範囲は革まで。金属鎧とかが欲しければ他の店だな」
ほう。そういうものか。
確かに並んでいる品物はローブ類が多いようだ。
ローブは持ってるんだよな。
「ただ、まぁ闘技大会の準優勝者に下手なものは売れないからねぇ。
ちょうど、今試作している服があるんだが、よかったら試着してみないか?」
と勧められた装備が、白の襟付きシャツ、ファー付きの黒のロングコート、黒のパンツ、黒の編みこみのロングブーツである。
性能は比較対象が無いので分からないが、破格なのだろう。見た目も、悪い方ではない。
そして、ロングコートなのに動きを阻害しない謎技術。
ブーツも重さを感じない。
まぁ、VRだから、と言ってしまえばそれまでなのだが。
性能は、と。
アイテム:【黒鱗のコート】 #ランク3 製作者:更紗
ブラックリザードの皮を使ったロングコート。
ファーは白銀狐を毛皮を使用している。
白のインナーはセット。
物理防御値:6
魔法防御値:9
重量:8
AGI:3
INT:6
耐寒 耐熱
装備部位:体
アイテム:【黒闘牛のブーツ】 #ランク3 製作者:更紗
黒闘牛の皮を使ったロングブーツ。
物理防御値:5
魔法防御値:2
重量:2
AGI:2
装備部位:足
「流石はリィリーさんの服の作者ですね」
そうとは悟られないように嫌味を言う。
全身メイドイン更紗に身を包んだオレは、なんというか、ビジュアル系? 若干厨二ファッションぽいとことがある。
まぁ、若干だし、鎖に比べれば全然マシだけどな!
「へっへー! 良く出来てるだろ?」
「すごく似合ってますよ!!」
まぁ、二人共そういうセンスなんだろうな。
「性能は折り紙つき。
コートの方は、物理防御こそ、金属製に及ばないが、耐寒、耐熱は現時点では他にない性能だ。
さらに素材を厳選してAGI、INT補正まで付いている。
ブーツも補正付きの高ランク物だ!」
ふむ。オレの戦闘スタイルにちょうどいい感じか。
しかし、おいくらだろうね。
「試作品ということも考慮に入れて、お代はこれくらいでどうだろう?」
ゲ! 高いんだなオーダーメイド装備って。
昨日の賞金が半分近く飛んで行く。
ただ、まぁここで二人の期待を無下にすることなど出来るはずもなく。
「わかりました。じゃこれ一式もらいます」
「まいどー!! 後からでも気になるところとかは直すからいつでも言ってよ!」
「リィリーさんも、ありがとうございました。
おかげでいい買い物が出来ました」
支払いを済ませながら、改てお礼を言う。
「とんでもないです。
それと……リィリー、でいいです!
そう呼んで下さい」
「そう? じゃ、オレもジンでいい……よ」
「わかりました。ジン。
これからもよろしくお願いします」
「うん。よろしくリィリー。
敬語も使わなくていいよ」
「店先でイチャイチャしないでくれるかーい?」
と更紗。
イチャイチャはしてないだろうが。
そろそろ、約束の一時間なので二人に丁重に礼を言って辞去する。
リィリーと一緒に狩りに行く約束をしつつ。
■■■■■
楓から連絡が来た祝勝会の場所は、店の個室だった。
既に中で待っているというので店員に案内された扉を開けると、
「「ジンさん! 準優勝おめでとーございます!!」」
楓と桜の声に迎えられる。
その直後、『パーン』という乾いた音と、紙テープが飛んでくる。
「うぉお、ビックリした」
これは、クラッカー?
「生産職の皆さんにお願いして作ってもらったんです」
桜が開けっ放しになっていたドアを締めながら言った。
「さあ、座って下さい」
楓が椅子を引く。
机の上には料理とケーキがホールで置いてある。
ホールのケーキを三人で分けるとか、現実だとちょっと考えられないな。
「それにして、ジンさん。
何ですか? そのカッコ?
イメチェンですか!?」
「あぁ、まぁ色々あってなー」
「眼帯の下は邪気眼だと思ってたのに、ガッカリです!」
お前な。
「どうだろう? おかしいかな?」
「よーく似合ってますよ。
厨二ファッションが高二ファッションにランクアップしましたね!」
うーん、まぁ、否定はすまい。
「現実は残暑真っ盛りなのに、ファー付きコートとか季節感まるで無視なのはいかがかとちょっと思いますがー!」
「ひょっとして更紗作ですか?」
楓が料理を取り分けながら訪ねてくる。
「そう。知ってる?」
「ええ。私も【調合】で消耗品とか作るので、生産者の皆さんは結構知り合い多いです。
そのうちの一人が、ついこの前、共同の作業場と、売り場を備えたギルドを立ち上げましたよ」
ほー着々といろんなことが進んでるなー。
「それで、闘技大会準優勝として一躍トッププレイヤーに躍り出た、ジンさんはこれからどうするんですか?」
それな。特にまだ決まってないのだ。
呪いのおかげで、半縛りプレイしてきたが、ここに来て色々やれることが増えてしまった。
極端な話、全身鎧を着込んでタンクにもなれる。
「次かー、特に決めてないが、近くのフィールドを気ままに攻略するよ。
まぁ、ログイン時間も多少減るだろうしなー」
「あー、その辺は私達も一緒ですね。
と言うか、もう今週からいろいろ忙しくなってます」
もう、夏も終わりだ。
だが、現実にはやらねばならないことが、まだ残っている。
八月、最後の週末にイベントを当ててこなかったのは運営なりの優しさなんだろう。きっと。




