22.補填
オレは、今、はじめに設定を行った時と同じ宇宙空間にアレィといる。
オレの出した条件、アレィを殺すこと、それはつまり、この縛鎖の呪いを解くことである。
それで十分。
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「そんなことでいいのか? 他にもそれなりのプレゼントはできるが」
氷川さんは怪訝そうな顔で聞いてきた。
当然だろう。
「元々バグを利用したチートだったんですよね?
それと引き換えに何かをいただいても、それってチートじゃないですか。
だったら、そもそもの原因となったこれらを外してほしいです。
闘技大会の賞品もなんだったら返上しますけど」
「うん。非常にまっとうな意見だ。
闘技大会の件はコチラの不手際ということで受け取っておいてほしい。
補填の件はそういうことでお言葉に甘えさせてもらう。
後でアレィに処理をさせるよ。
それで、ついでにもう一つお願いがあるんだ。
ここまで炎上してしまったんで、いっそこれを利用して大々的に今回の経緯を公表しようかと思ってる。
まぁ、呪いの件とか詳細は言わないで、バグが有りましたてへぺろ的な発表にする予定ではあるけどね。
その件についても、了承してもらいたい。
我々としても、君が誹謗や中傷を被るのは本意ではない。その辺を踏まえた形にするつもりだ」
氷川さんが何を企んでいるのかよくわからないが、その辺は任せることにした。
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「では、呪いを解除します」
アレィが言うとオレの全身から鎖が掻き消える。
鏡!
「はい、コチラに」
アレィの前に全身鏡が出現する。
鎖から開放されたアバターを見てガッツポーズする。
「そして、これは、私からのプレゼントです!」
と、鎖のブレスレットを右手にはめられる。
「なにこれ?」
「これはですね!」
言われたとおりにブレスレットを顔の前に掲げ、「変身!」と叫ぶ。
あら、不思議。一瞬で縛鎖姿に早変わり!
「要らんわぁ!!」
「ふぇぇぇぇ??」
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アレィに呪いを解除させ、ゲーム内に戻ったオレは元の闘技場の控室にいた。
結局、鎖のブレスレットはアレィに押し付けられて左手に巻かれている。
ただし、変身機能は外させた。
今度はちゃんと装備しても解除可能。
ステータス向上効果などは無い。
まぁ、後で捨てればいいか。
メニューを開く。
メッセージが一件届いていたが、後回しにして、ステータスを確認。
<縛鎖>シリーズは全て外れ、アイテムボックスに入っていた。
スキルは?
【瞬間移動】は無くなっていた。
その代わりスキル融合素材として消滅した、【千里眼】と【転移】がある。
称号にも変化がある。
【反逆者】がなくなり【解呪者】になっていた。
その説明は?
称号:【解呪者】
最高位の呪いを解いた者。
呪具、束縛具、拘束具に対し耐性。
んー、呪いのアイテム平気ってことですかね?
よく分からん。
後回しにしたメッセージを確認。
『多数ご質問いただいてる事項につきまして』というタイトルで運営から、プレイヤー全員に向けたものだ。
内容は、今日21時から、ここ、闘技場で運営から直接説明の場を設けたこと、観客席への出入りは自由なこと、発表内容は後日正式に告知することなどが書かれていた。
氷川さんが言っていたやつだろう。やることが早い。
楓にメッセージを送りつつ、控室から退去する。
受付で確認したが、控室は闘技大会参加者に今日まで貸出していたとのこと。残念。
しかし、今後、闘技場で開催される、レギュラーバトルに勝ち抜き、闘技場ランキング上位となれば専用の控え室が与えられるらしい。検討しておこう。
闘技場を出たところで、楓から返信がある。
[今、フィールドに出ているので、祝勝会は1時間後からです!]
了解。
時間が空いてしまった。
センヨーの冒険者ギルドに行って、親父に準優勝報告するか。
そのついでにミノタウロスの顔を見てくるのもいいかなぁ。
と、闘技場の周りをフラフラしていると、声を掛けられた。
「あ、あの……ジン、さん……ですよね?」
声の主は、白ゴスの女の子。
先程フレンド登録したリィリーだった。
「あ。そうです。リィリーさんですよね? フレンド登録ありがとうございました」
「いえ、こちらこそ」
互いに頭を下げる。
「ぐ、偶然ですね? 何してたんですか?」
「えっとですね、さっきログインして闘技場から出てきたんですよ。
それで、知り合いと約束があるんですけど、一時間くらい空いちゃって、どうやって時間潰そうかなーと」
「そうなんですか。あの、その服、初期装備ですよね?
昨日の服は着ないんですか?」
あぁ、なるほど。
鎖姿のオレを『同類』と勘違いして昨日声かけてきたんだな。きっと。
「アレは、ちょっと訳あって、紛失しちゃったんですよね。
……そうか、防具を買い揃えるのもアリだな」
忘れていた。呪いから開放されたから防具の装備が可能なのだ。
「それなら!」
リィリーが突然声を張る。
おおぅ、びっくりした。
「……それなら、私の知り合いのお店とか見てみませんか?」
先ほどより、声を抑えながらいった。大声を出したのが恥ずかしかったの耳が赤くなっている。
「そう? じゃ、案内してもらえますか?」
「ハイ! きっと、気にいると思います!」
こちらを見上げた彼女は、昨日と同じ、いや、それ以上の笑顔だった。




