2.反逆者
ファンタジー系ゲームでよく見るような明るいレンガ造りの街並み。所謂、中世ヨーロッパ風。
その中心部と思しき、広場に立っていた。
オレと同じくチュートリアルを終えたばかりであろうアバター達の姿もある。
〈ポーン〉
システム音が響く。
〈称号【反逆者】を獲得しました〉
と、同時に肩から両腕にかけて少し重みを感じる。
見ると、両腕に黒い鎖が巻かれていた。
そして、肩から顎、いや口元あたりまで何やら違和感を感じる。
なんとなく嫌な予感がしたので、メニューを開く。
インフォが2件ある。
1つ目は『ようこそ。Create and Zealous Onlineへ』と言うタイトル。
ひとまず後回し。
2つ目、『称号獲得【反逆者】 』。
これだ。
メニューから、それらしい項目を開き、片っ端から確認していく。
[ステータス]の項目内にそれはあった。
称号:【反逆者】
世界を律する者への反抗の証。
警告を受け入れよ。
説明が!抽象的すぎる!!
両腕を持ち上げると、鎖が揺れてチャリと軽い音が鳴る。
周りのアバターを見渡しても、そんな物つけてるのは、オレだけの様だ。
いや、逆に周囲から奇異の視線を向けられている気がする。
オレは今どんな格好をしてるんだ?
鏡。鏡があるところ。
どこだ?
防具屋か?
防具屋はどこだ?
メニューに町の地図はあるか?
あった。
開いて防具屋を探す。多分この盾のマークだろう。
そのマークを触ると
[ - 防具屋・盾の館 -
ナビゲートしますか?
YES / NO ]
とポップアップする。
すぐさまYESに触れる。
すると、目の前の道路に淡く光る赤い線が出現した。
その線の向かう先へとオレは駆け出す。
チャリチャリ、チャリチャリと鎖の音がうるさい。
その音で周りからの視線が、更にオレに集まっている気がする。
ナビの終端、盾マークの看板を掲げた店のドアを勢い良く開け中に入る。
「らっしゃーい」
NPCであろう、太い声に構わずオレは店内を見渡し鏡を探す。
既に店にいた、プレイヤー達の視線が一斉にオレに突き刺さったような気がする。
構わず、店の奥、先程の声の主と思しき親父が座ったカウンター、そこを挟んで手前にある姿見の前に立ち、自分の姿を検める。
「……なん、だ、これ?」
鏡に写っているアバター体は、幾重にも巻かれた黒い鎖でマフラーのように口元を隠し、そして、その鎖は両腕に巻き付いている。
紺色寄りの黒髪、その前髪の中に白のメッシュが一房。右目に眼帯。
それは、厨二ファッション言うべき風体をしたオレの姿だった。
■■■■■
気づいたらログアウトしていた。
冷蔵庫から、炭酸を取り出して気分を落ち着ける。
あの格好で、バーチャルとはいえ町中を駆け抜けていたのか。
明らかに異彩を放っていた……。
痛い。恥ずい。痛い。
うわぁぁあぁー。痛いなー。
黒歴史として、忘却の彼方に葬り去りたい。
どうしようか。
ひとまずあのゲームについて情報収集でもするか。
うん。そうしよう。
さすがに、正式オープン初日ではネット上にはそれほど情報は出ていない。
公式コミュニティはまだない。これはポンコツAIが告知してたとおり。
βテストのWikiや掲示板やらでざっと調べた結果、
称号入手は、結構レアで取得条件は公にされていない代わりに称号には、ステータスアップやスキルランク向上などの恩恵があることが判明。
ただ、【反逆者】についての記載は無かった。
うーん、恩恵はまだ確認していないが、称号取得自体、レアだとするとスタートダッシュには有利なのか?
取得条件は初期設定の時の件だと思うが、恩恵とか含めてログインし、ゲーム内で確認しないとわからない事柄ばかりだ。
となると、必然的にあの格好なわけだが。
そこで思い至る。
あの鎖が、装備品であるならば、解除してしまえば良いのではないかと。
よし、ログインしたらまずアバター操作。
そう決めて、再度Create and Contradiction Onlineへログインした。
■■■■■
装備中:【縛鎖<視界拘束>】
装備中:【縛鎖<身体拘束>】
装備中:【縛鎖<両腕拘束>】
ぐ、名前からして既に痛い。
すぐさま、装備解除。
〈解除不可:呪いの装備品〉
装備解除!
〈解除不可:呪いの装備品〉
orz
再ログインしたさっきの広場でオレは崩れ落ちた。
アカウント作りなおそう……。
いや、そこまでこのゲームに思い入れ無い。アンインストールして忘れ……
「orzしてる人間を久しぶりに見たわね」
上からかけられたであろう声に、顔を上げる。
そこに、金髪の美女がオレを見下ろしていた。