16.第一回闘技大会 予選
そして、闘技大会初日。
ログインすると、ウインドウが出現する。
[闘技会場控室へ移動しますか?
予選開始まで12:21
YES / NO ]
時計はカウントダウンをしている。
YESにふれると、強制で転移が発生した。
飛んだ先は、一人部屋。
鏡と机、そしてソファーが置いてあった。
ゆったりとしたソファーに腰掛けながら、桜と楓から届いていた激励のメッセージに目を通し、そしてルールの再確認。
げ、極めて重要なルールを見落としていた。
アクセサリー類禁止。
つまり、ローブは着用出来ないのか……。
いや、なくても戦力には何ら影響は無いのだけれど……。
そんな動揺を抱えながら、初戦開始時間を待っていた。
予選開始時間、30秒前。
〈ポーン〉
システム音と共に、
[予選開始90秒前。60秒後に試合会場へ自動転送されます。]
とメッセージが目の前に浮かび、カウントダウンが始まる。
[89]……[87]……[86]…………[61]……
[60]になる瞬間、視界が一変し、円形の闘技場の端にいた。
見渡すと、円形に等間隔でオレを含めて十人のプレイヤーが並んでいる。
中心にはカウントダウンの数字が浮かんでいる。
残り、[50]。
『予選のルールの説明をします。
勝利条件は他のプレイヤーのHPを0にするか、場外へ出すこと。
試合時間は10分。
10分後に複数のプレイヤーが残っている場合は、残りHPの多いほうが勝利となります。
それでは皆さん健闘を!』
カウントダウンは残り[10]。
もう一度、並んだプレイヤーを見渡す。
事前のプラン通りに行けそうだな。
カウント、[2]……[1]……[0]、と同時にオレは闘技場の中心へダッシュする。
そして、【術式分解】で調整済みの魔法を発動する。
「風圧」
オレを中心に暴風が吹き荒れ、他のプレイヤー全てを場外へ吹き飛ばしていた。
【風圧】。
本来であれば対象を中心に空気の流れを作り出し、矢などの飛び道具から身を守る防御呪文であり、攻撃力は無いのだが、【術式分解】で全MPの八割を消費し、[範囲]と[威力]に手を加えた結果は、ご覧のとおりである。
吹き飛ばしきれないような、重量級がいた場合に備えて、残り二割のMPは確保しておいたが今回は杞憂で終わったようだ。
まぁ、四メートル級に成長したミノタウロスでさえ吹き飛ばしてたからな。
『勝者・ジン』
勝ち名乗りが響くと同時に控室に転送された。
予選第二戦は、およそ二十分後か。
暇だなー。出入りは自由らしいが、特に行くところもない。
仕方が無いので、ネット上の有力プレイヤー情報でも見て時間を潰す。
当然、オレの名前は無いわけだが。
続く、第二戦も同じ戦法で瞬殺。
見事、本戦出場の切符を勝ち取った。
で、控室に転送されると、見知らぬ女の子が立っていた。
「はじめまして〜。私、イベント担当AIのメノゥです!
予選突破、おめでとうございます!!」
「あ、ありが」
「で、お願いがあって来ました!」
食い気味に話しかけてくる。
「明日の本戦ですが、開始前に全選手入場を予定してます!
それぞれ簡単な紹介とお名前を読み上げる演出なんですが、どんな感じがいいですか?」
ちょっと、意味がわからない。
「例えば、ジンさんの場合、『闘いたいからここまできたッ。キャリア一切不明!!!』、がオススメです!!」
いや、ちょっと待て。それはちょっと、いや、かなりマズそうだ。
「そうですかー?後は……」
その後も、どこかで聞いたことがあるよう紹介文を提案してくるが尽く却下。
「むー。じゃ、、、、これは? 『西のボス、ソロ討伐の噂は本当か?今大会のダークホース!』」
え、噂になってんの?
「いえ、噂ってほどではないです。
でもジンさん、人に知られてなさすぎてグッとくる紹介が無いんです!!」
若干キレ気味に言われた。
「んじゃ、それでいいすわ」
「了解です!
勝ち進んだら、会場の反応見ながら勝手に変えるのでヨロシクです!
明日の進行は私が担当します!
遅刻とか、絶対しないでくださいね?
じゃーまた明日。健闘をお祈りします!」
と言って、消えていった。
さーて、この後どうしようか。
強敵に会いに行こうか。
ひとまず楓と桜に予選突破のメッセージを送るとすぐに楓から返信がある。
[おめでとーございます!!
祝勝会しましょう! 祝勝会!!
闘技場の前で待ってます!]
闘技場の前で二人と再会し、祝勝会という名目の、スイーツ食べ歩きに連れ回されることとなる。
途中、見知らぬ人から「明日は僕の分まで頑張れ」的な声を掛けられたが、誰だろう? 予選で対戦した人だろうが、スマン記憶に無い。
二人との別れ際に楓から、「明日の試合前に食べて下さい!」と四食分の弁当を手渡された。
決勝までの分だ。無駄にならないよう頑張ろう。翌日の弁当とかリアルで考えると危険きわまりないが、その辺はバーチャルなので問題なし。気分的な事はさておき、例え一ヶ月後でも大丈夫だそうだ。
二人と別れた後、ログアウトし明日に備えることにした。




