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151.告白

 そう言えば何しに来たんだろう。


 いや、今それを聞くのはまずそうな雰囲気だ。


 何か、適当な話題……。



「そう言えば、ニケさん順調だってね」


 思い付いたのが、共通の知り合いだけども妊婦さんの話って!

 バカか? オレは。


「そうね。映像見た? お腹すごく大きくなってた」


 セーフ、だったのか?


「見てない。と言うかニケさんの顔も知らないや」


「あ、そうなの?」


 産まれたら会いに行く、そう言う約束はしてあるが。


「幸せそうな顔してたわよ。

 その一方で、死んでいった人もいる……」


 月子さんの事だろう。


 手段が無いので確認は取れていないが彼女の最後の言葉から一ヶ月以上経過している。

 もう、現実の彼女は存在していないと思われる。


「でも、月子さんは、この世界に存在している……。

 この世界は、怖いわ。

 何でもある。何でも出来る。

 そんな錯覚を覚える。

 ここにある私は、全部、幻なのに……」


「そうかな?」


 プリスが居て、月子さんが居て……楽しかった日々は確かに存在していた。

 その記憶はオレの中に確実に残っている。


 そして……。




「幻だとしても、オレはリィリーの事が好きだよ」


 うん。

 言ってしまった。


 町を見下ろしながら、何気なく。

 そう、装って。


 リィリーがどんな顔をしているか、とてもじゃないが見ることが出来ない。


「……ホント?」


 ……しまった。

 この流れだと、信じてもらえないのか。


「うん」


「そっか……困ったな……」


 困りますか。

 そうですか。


 返答次第ではここから飛び降りる事もできますが。


「うん。困った」


 そう言いながらリィリーは立ち上がる。

 恐る恐る、そちらに向き直る。


 何だ。笑ってるじゃん。


 リィリーは、にんまりと笑いながら上目がちにオレを見ていた。

 照れ隠しだろうか。

 左手の指に髪の毛を巻きつけ、クルクルといじっている。


「へへへへーっ」


 笑い方が、気持ち悪いよ?



「でも、駄目なんだ」


 リィリーの笑顔が陰る。


 そうですか、駄目ですか。



「そっか」


 オレはバルコニーの手すりに、片膝をかける。


「ちょっと、何してるの!?」


「え、いや、飛び降りようかと」


「何で!?」


「だって、駄目って」


「いやいやいや、違う。違います。

 バカ!

 取り敢えず下りて!」


 何が違うのだろう?

 オレの服を引っ張るリィリー。


 大人しく足を戻す。



「私も、君が、好きです」


 オレに背を向け、たっぷり時間を置いてからリィリーが小さな声で言う。


 ん?


 駄目? 好き?


 意味がわからない。


「言っちゃった……」


 背中越しにそう呟いたのが、聞こえた。



「ねえ」


 リィリーは、振り返って続ける。


「鶴の恩返し、知ってるよね?」


「うん」


「ある日、女の人が訪ねて来ます。

 その人は、決して開けないで下さいと言って、毎晩美しい機を織ります。

 そうなったら、君はどうする?」


 はい?


「開けて確かめたくなるよね?」


「なるね」


「我慢出来なくなって、開けるよね?」


「開けるかもね」


「はい、残念。女の人は君の前から姿を消しました」


 はい?


「……逃げた鶴を探しに行く旅って言うのも面白いと思うけど」


 リィリーが目を丸くする。


「そっか……。君はそう言う人だったね」


 リィリーが笑い声を上げる。


「でも、その鶴は幸せなの?

 もう、鶴だってバレてしまった」


「きっと、魔法で鶴にされたお姫様なんだよ。王子様のキスで元の姿に戻りました。

 めでたしめでたし」


「何、その話」


 強引なハッピーエンドに笑うリィリー。


 何の話だっけ?



「ジン。

 ずっと、好きでした。

 でも、ジンが好きなリィリーは、鶴です」


 え、鶴なの?

 そう言えば、彼女が持つ鎌の形が鶴の頭に似てない事も無い。


「この鶴にとって、開けていけない扉は現実そのものです」


 え、まさか、まじで鶴なの?

 科学は、鳥類にVRギアを装着させて、コミニュケーション出来る所まで来たのか!


 んなわけないわ。


「それはつまり、扉を開けるなって事?」


「そう。でも、君はいつか扉を開けると思う」


「開けないよ」


「開ける」


「鶴は逃げなければ良いんじゃない?」


「逃げるわよ。鶴だと思われたく無いから人に化けたのよ?」


「追いかけるよ。追いかけて、捕まえる」


「それでも、私は逃げる」


 リィリーは、オレの胸に顔を埋める。


「だから、開けちゃダメ。それまでは側にいるんだから」


「……わかった」


「……この家、売るの?」


「一緒に住もう」


「うん」


 オレは、リィリーをそっと抱きしめた。



『ビーッビーッビーッ!』


 あー……。

 大音量の警告音。


 すぐ横にピンクの着ぐるみ。


「どうも。運営です」


 オレとリィリーは一歩離れる。


「たく、甘酸っぺーな。オイ」


 お? 今日の運営は、ガラが悪いぞ?


「お前らへのペナルティ、アレだアレ。

 告白リプレイ一時間」


 何だ、それ?


 いや、それよりも聞きたい事が。


「あの、質問が」


「何だよ?」


 不機嫌だ。


「どうして、こんなペナルティを設定してるんですか?」


「はぁ? そんな事もわかんねーのかよ。

 C2O、このゲームの略名だ。

 知ってるな?」


「はい」


「このC2って何の事だか知ってるか?」


 着ぐるみがオレに顔面を近づけながら問う。


 近いって。


「CreateとContradictionの頭文字C、二つって事ですよね?」


「バーカ!違ぇよ。

 バーーカ!」


 ムカつくな。こいつ。


「正解は、中二。

 中学二年生。

 ここは厨二病的創造力最強!

 そう言う世界。

 当然、中二だから不純異性交遊なんか10年早いっつーの!」


 はぁ?

 何それ?

 初耳だ。

 そんな事、どっこにも書いて無いじゃん。


「最初にアレィさんが言ってたのって、そういう事だったの!?」


 リィリーが驚いた様に言う。

 そうなの?

 アレィがそんな事説明してくれるの?

 オレ、飛ばしたよな。確か。


「そうだよ。わかったか? ジャリガキ共!

 そう言う事は、現実でやりやがれ!

 ほら、ペナルティだ。ペナルティ。

 覚悟すんだな!」



 視界が暗転。


 オレは椅子に座らされていた。

 両手、両足、そして首が椅子に固定されている。


 周囲は暗く、何も無い。


『ではー、これからペナルティを開始しまーす!

 自分のした事をー、よーく見て、反省して下さーい!』


 先程の運営アバターの声が響く。


 目の前に、仮想ウインドウが現れる。


 映像の中、バルコニーの手すりに寄りかかる人物……オレか?


『幻だとしても、オレはリィリーの事が好きだよ』


 映像の中のオレが、カメラ目線で言う。

 ご丁寧に、字幕付き!


 カメラが切り替わり、リィリーの横顔を捉える。


『……ホント?』


 リィリーの台詞。字幕付き。


 これ、さっきの出来事だよな……。

 告白リプレイって、こう言うことか!?


『うん』


 今度はオレの後ろ姿と、オレを見上げリィリー。


 カメラワーク、凝りすぎ!

 いや、問題はそこじゃない!!


 恥ずかしくて、正視出来ない!

 硬く、瞼を閉じる。


『はーい。目をつむるとその間、映像もカウントもストップするよー。ちゃんと見てー』


 運営の声。

 諦めて、目を開ける。


 映像が、再開。


 ……



『だから、開けちゃダメ。それまでは側にいるんだから』

『……わかった』

『……この家、売るの?』

『一緒に住もう』

『うん』


 抱き合う二人を、ぐるりと一周し、そのまま視点を残したままカメラ位置が上空へ。

 二人重なった影が徐々に、徐々に小さくなる。そして、スターダストと共に『Fin』という文字が現れ……。



 やっと、終わった……。

 これ以上の拷問があろうか? いや、無い! 断言出来る!

 リィリーが可愛く撮れていたのが唯一の救い! 眼福!



 映像は再びオレの姿を映す。


『幻だとしても、オレはリィリーの事が好きだよ』


 な!? 初めからだと!?


「おい、いつまでやるんだよ!」


 上に向かって叫ぶ。


『ペナルティは一時間。あと、55分だー!』


 マジか……。

 あと、11回見ないといけないのか?


「いっそ、殺してくれー!!」


 そう叫んでいた。




 バルコニーに戻されました。


 途中で暴れた分、オレの方が遅くなったか。

 リィリーが、しゃがみ込んで両手で顔を覆っていた。


「……トラウマだわ……」


 顔を上げずに呟く。

 オレもっす。


「……お茶でも、入れるよ……」


 そう言えば、結局リィリーは何をしに来たんだろう?

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