15.首飾り
冒険者ギルドに始終を報告したオレたちは近くの食事屋に入った。
「仕方なかったよ。そんなに気にしないで」
桜が楓を慰める。
クエスト失敗のペナルティは、ギルドランクポイントマイナス査定。
ギルドクエストは成功する度にポイントが加算され、一定以上のポイントを獲得すると上位のランクに格上げされる。
ランクが上位であるほど、クエストの難易度は高くなり報酬も比例していく。
ただし、今回のように失敗するとポイントは減算する。
オレは、数日前に冒険者ギルドの親父と交わした会話を思い出していた。
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「ったく、依頼の一つでも受けて欲しいもんだ」
そのうち気が向いたらな。
「そう言えば、この前道具屋の首飾り盗まれたっていうクエストあっただろ?」
「あぁ、あれか。勇敢なお嬢ちゃんたちの活躍で既に解決済みだ」
「犯罪絡みの依頼は多いのか?」
「いや、そこまで多くないな。窃盗とかは基本的に憲兵たちの領分だ。
あまり素性のわからん冒険者に任せようなんてのは、まぁ、なんだ、それなりの訳がある場合が多いな」
言って親父はしまったなという顔をした。
「そこまで言ったんならごまかしは無しにしようぜ。オレと親父の仲じゃないか」
とびっきり爽やかな顔で言ってやる。
「そんな仲になったつもりは無いんだが。
あーなんだ。憲兵たちに任せたくないってことは、物の出処が後ろ暗いとか、事件そのものを公にしたくない事情があるとかだな」
なるほどな。
「ちなみに件の首飾りに関してはどっちだ?」
「はぁ? そんなのは、直接依頼主に聞けよ」
「あの依頼の顛末は聞いているか?」
「……どういう事だよ?」
親父に、素性のわからん奴に襲われたことを簡単に説明した。
「んなことがあったのか……。
いや、ここだけの話だぜ?
あの首飾り、実はそれなりの代物でな、元々ルノーチの貴族の持ち物だったんだが、訳あって一時的に道具屋で預かってたって話だ。
まぁ、これ以上は本人に聞くんだな」
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「すまなかった」
二人に改めて頭を下げる。
もっと警戒すべきだった。
まぁ、依頼品を首から下げて歩いている楓も悪いのだが。
「まぁ、あれだ。ここはボス討伐記念ということでオレの奢りにさせてくれ」
「「いいんですか!?」」
先ほどまでお通夜だった二人から歓喜の声が上がる。
あ、その、程々にお願いします。
とどまることを知らない注文に、途中でストップを掛けたが時既に遅し。
オレの財布は全損に近いダメージを受けていた。
まぁ、使う予定無かったからいいけど……。
ただ、桜にお願いしていたMPポーションは、後日にしてもらった。
「さて、オレはセンヨーに戻るけど」
「えー、戻るんですか?」
「うん。あっちで色々やりたいことがあるし」
「そうですか。私たちはしばらくここでルノーチにいると思います。
次に会うのは闘技大会ですかね?」
「そうなるかな。
大丈夫だと思うけど、さっきのような奴らがいるかもしれないから注意するように」
「「はい!」」
うん。良い返事だ。
センヨーに戻ったオレが向かったのは道具屋。
首飾りの素性を探るためだ。
「そんなことがあったのか。それは済まないことをしたな。
それにしても、そんな奴らの手に渡ったのか。知らせてくれて助かった」
「出来ればわかるように説明してもらいたいんだが」
「んー、そうだな。
まず、あの首飾りだ。
あれは、所謂神器って奴で、ルノーチで厳重に管理されてた代物だ。
なんだが、どっかのバカが、拵えに手を入れちまった。
そのせいで、魔力の流れがおかしくまっちまってな。
困り果てたバカ共が直せないか俺に依頼して来た訳だ」
そういえば、この道具屋、消費アイテムの他にアクセサリーも置いてあったな。
「ふむ。親父にしか直せないのか?」
「んなこたぁねーよ。それなりに腕のある職人なら大丈夫だろう。
ルノーチにもいたはずだ。
ただ、敢えて俺に依頼してきたのは訳があったんだろうよ。
ルノーチで依頼したくない訳が」
「それが、よくわからん連中につながるのか?」
「まぁ、そうなんだろうな」
「あいつらは何者なんだ?」
「知らん。神器の魔力を狙ってる奴らじゃなーかな。
そんな連中、五万といるだろうがな」
そんな大層な代物を運ばせてたのか。
「そんなに魅力的なのか?」
「まぁ、使いようによっちゃ、それこそ世の中をひっくり返せるだろうさ」
なんで、そんなもんが街の道具屋に修理に出されてるんだよ。
「いやぁ、俺もきな臭い話だとは思ったさ。
ただ、その分コレがな?」
下衆い笑みを浮かべて親指を人差し指で円を作る。
「嬢ちゃんたちに会ったら、謝っておいてくんねーか。今度店に来たらサービスするからよ」
二度と来るか。
その足で冒険者ギルドに向かいクレームを入れる。
「そりゃ、悪いことをした。
そういう事情なら依頼はこっちからキャンセルさせてもらう。ペナルティも取り消しだ。
こっちからも連絡入れるようにするが、兄ちゃんからも伝えてやってくれ」
それは朗報だ。
「ところで、冒険者ギルドで同じものを取り合うなんてことがあるのか?」
「いや、ちょっと待ってな」
親父は台帳のようなものをめくる。
「うーん、そんな依頼はないな。」
「ルノーチの冒険者ギルドは?」
「こいつは全ての冒険者ギルドの依頼がわかるようになっている。
つまり、そんな依頼はどこの冒険者ギルドにも存在しないってわけだ」
便利だな。
データベースが共通化されているて事だろうが、ファンタジーな世界観にそぐわないシステムだ。
魔法の台帳とか言うことで済ませられそうだが。
「じゃ、個人で受けた依頼とかか」
「ルノーチには地下ギルト、所謂闇のギルドってやつが存在している。盗みや殺しを生業としている連中が利用しているんだが。
そっちからの依頼の可能性もあるわな」
なるほどな。あのプレイヤーは早速闇堕ちしている訳か。
まぁ、所詮ゲームだからどう遊ぼうが自由だが。
オレも基本迷宮に引きこもりで、他人をどうこういう資格は無い。
今日からまた引き込もる予定だし。
「まぁいいや。二人にはオレからも伝えておく。
で、迷宮を【強敵モード】に変えてほしいんだが」
「あいよ。しかし飽きないね。
闘技大会出るのかい?」
「おう。優勝しろと言われてるんだ」
「ここに引きこもってる奴に優勝されちゃ他の奴は何やってるんだって話だな。
オレは兄ちゃんが優勝しないことを祈るとするか」
桜と楓には親父共の話を簡単にまとめて、怪しい依頼は受けないように忠告を入れつつメッセージを送ってくこととする。
翌日から四日間、オレはミノタウロス道場で1vs1の猛特訓を開始するのである。
いやー、ハードだった!!
倒せば倒すほどに奴は強くなる。
他方でオレは、全くレベルが上がらない。
後半、彼我のレベル差に負け続けてうんざりしたオレは、ルノーチ周辺でレベル上げをした。
そのおかげで、意外な収穫を得たりしたのだが。
今の最後の一戦は熱かった。
互いに、手の内は知り尽くしている。
決定打の無いまま、三十分近く戦っていたのだ。
ミノタウロスのHPを全損させた瞬間、こちらに向き直り、会心の笑みでサムズアップしながら消えていきやがった。
強敵よ。
お前のおかげでオレはまた一つ強くなった。
オレがお前との友情に応える術は、闘技大会を勝ち抜くことだけだ。
と、なんか変なテンションで迷宮を後にした。
【ジン】 #LV.14
HP:100
MP:290
STR:14
VIT:5
AGI:53
DEX:41
INT:87
MIN:25
SP:0




