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138.放心

「というのが、結論なんだけど、どうかな?

 ……ん、どこかに穴があるかな?」


「あ、すいません。何ですか?」


 聞いてなかった。

 その反応に、顔を見合わせる鹿島さんとスランド。


「だから言っただろう? 今日は無理だって」


「ふむ……」



 三人で、センヨーの食事屋、個室で会談中。


 ルノーチはざわついてるし、キョウは誰の目があるかわからないので避けたいとのことでセンヨーに招集された。

 のだが。



「すいません。ちゃんと聞きます」


 先程から、二人の話が頭に入って来ない。


「じゃ、簡潔に。

 聖杯の無事は確認できていないので、クロノスは引き続き警戒中。

 それと、王宮内の書物を調べた結果、聖杯を使うには数日必要になる様だ。

 なので、万が一、聖杯が盗み出されていて、魔王の復活が始まったとしても、準備を整え駆けつけるだけの猶予は与えられていそうだ」


 なるほど。


「その猶予と言うのは、どの程度ありそうなのだ?」


「聖杯に力が満ちるまで14日の昼夜、と合った。二週間だね」


「ふむ。

 クロノスについては、関所に人相書きを預けてある。

 北に抜けたらすぐわかるだろう」


 へー。


「という、状況だ。理解したか?」


 えーっと……。


「関所って解放されるの?」


「だから、メンテ明けの明日、開放されると言っただろうが」


 聞いていませんでした。




 先程、リィリーに従い、ルノーチからコハに転移。


 何を言われるだろうかと恐々としていたのだが、「急にごめんなさい。気持ちの整理をつけてきます。また今度」と言ってログアウトしてしまった。


 その後、月子さんの家のリビングで、呆然とするオレに鹿島さんから連絡が入り今に至る。




「一体何があったんだ?」


 流石に、オレの様子に不安を覚えたのだろう。

 鹿島さんがスランドに尋ねる。


「それは……」


 スランドが、言い淀みながらオレに視線を投げる。

 どうぞ、と手で合図を返す。


 オレの口からはとても説明できないので。




「若いなぁ!」


 一通り話を聞いた鹿島さんが楽しそうに感想を漏らす。


「ま、リィリーの気持ちもわからんではないがな。すごい形相だったぞ。

 画像に残しておけば良かった」


「しかし、とんだ災難だったな」


「あの、オレはどうすれば良いんですかね?」


 助けて。


「うーん、明日、新マップに誘ってみれば良いんじゃないかな?」


 鹿島さんが、ニヤけながらそう答える。

 適当に言ってません?

 信じますよ? その言葉。




 翌日。


 ログインし、リビングに下りる。


 既に全員揃っていた。


「おはようございます」


「「「おはよう」」」


「北の新マップへ足を伸ばそうと思ってるんです」


 用意された朝食を食べながら、今日の、そしてそれ以降の予定を伝える。


「まずは、エアスの墓地。

 それから、魔王の封印があるヘラーイへ。

 プリスも、連れて行こうと思います」


 確認するように月子さんに言う。


「うん!」


「そう。じゃ、しばらくお願いね」


「月子さんは一緒に行かないんですか?」


「そうねー、ちょっとお家の片付けをしたいの。

 だから私はここにいるわ。

 寝る時はちゃんと帰ってきてね」


「はい」

「うん!」


 そして、もう一人。


「リィリー」


「はい」


「一緒に、来てね?」


「うん」


 彼女は小さく頷きながら返事をした。




「いらっしゃい」


 Creator's Homeの扉を開ける。


「こんちはー」


 カウンターに立つミックに挨拶をする。


「よう」


 テーブル席に座っている、楓と幼女姿のミーちゃんに軽く右手を上げる。

 しかし、オレに続き入ってきたリィリーを見て、楓の顔が強張る。

 ミーちゃんは、煙を上げながら白い狐の姿に变化する。


 椅子の上でかしこまる、楓とミーちゃん。

 ミーちゃん、震えてないか?


「あの……昨日はごめん」


 リィリーが頭を下げる。

 プリスが、恐る恐るミーちゃんに近づく。


「や、こっちこそバカ狐がごめんです」


 椅子に座ったまま頭を下げる楓とミーちゃん。

 そして、手を伸ばしてその頭を撫でようとするプリス。


「ハイ、それでは、仲直りの、印に、サービスです」


 タイミング良く、ミックがテーブルに飲み物を並べる。

 ナイス!

 ……変なもの入れてないよな?


「取り敢えず、座って下さい」


 オレとリィリーは、促されるまま、椅子に腰をおろす。


 プリスはミーちゃんにちょっかいを出そうとしている。

 ミーちゃんは大分嫌そうだ。


「それにしても……」


 運ばれてきたドリンクに一口つけてから、楓が切り出す。


「お二人、結婚してたんですね。言ってくださいよ! 何時からですか?」


「「はい!?」」


 オレとリィリーは同時に素っ頓狂な声を上げた。


「何言ってるの? そんな訳無いじゃない!」


 否定するリィリーにオレも首肯する。


「へ? でも昨日リィリーが『配偶者』って言い切ってましたよ?」


「「あ!」」


 言ってた。


「あれは、そう言う意味じゃなくて、称号的なヤツなのよ」


「え、そうだったんですか?

 でも、既に取り消しできないぐらい拡散してますよ?」


 マジか!?


「ハ、ハハハ……」


「……ごめん」


 隣でリィリーが呟くように謝る。


 うーん、良いんじゃないかな。別に……。


 ワシャワシャと撫で回すプリスに、ミーちゃんが本格的に威嚇を始めだした。

 そろそろ、行くべきか。

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