14.強襲
ルノーチを歩きながら、桜からボス戦の経過を聞いた。
死ぬ間際のカウンターはしっかりとグレイウルフに突き刺さり、きっちり仕留めていたそうだ。
プラムは全身を噛みつかれながらも、グレイウルフ十二匹を仕留めきった。
ただ、オレが死んだショックで楓は戦意を失ってしまったらしい。
残るはボスだけなのだが、桜がいくら声を掛けても楓はショックで動けない。
と、ミーちゃんが突如、ボスに体当たりをかまして楓に叱責するような鳴き声を上げたそうだ。
その声で我を取り戻した楓の猛攻の末、ボス討伐成功。
プラム、ミーちゃんともにHPを大きく減らしていたが、結果として死んだのはオレ一人。
その後は、なるべく戦闘を避けつつ急いでルノーチへ向かってきたそうだ。
「やっぱりプラムは強力だなぁ」
ボス戦での討伐数だけであれば、オレと同じ十八匹。
オレの場合、魔法の範囲攻撃の上、死に戻りまでしている。
プラムはその全てを己の体のみで葬っているのだ。
何度も狼の噛みつきを食らっているのは見えていたが、恐るべき耐久力である。
この先、成長するとやっぱりブレスとか使うようになるんだろうか。
「まだわかりませんけど、召喚獣も成長していくみたいなので、そうなったらスゴイですね。」
おー楽しみだな。オレも召喚獣欲しくなってきたぞ。
闘技大会終わったら考えてみよう。
「ミーちゃんは、九尾の狐になるんですよねー」
ミーちゃんは今、オレが抱きかかえている。
九尾か。傾国の美女になるわけだな。
「キュ!」
「ねー、そこのお嬢さん。」
冒険者ギルドへ首飾りの納品に向かう道すがら、先頭を行く楓に見知らぬプレイヤーから声が掛けられた。
魔道士であろうか、刺繍が施された赤茶のローブを着込んでいる。
桜に目を向け、知り合いか確認する。
すぐに意図を悟ったようで、首を振り否定する。
「なんですか?」
楓の返答も、若干警戒の色がある。
「いや、君のしているその素敵な首飾り、僕にゆずってくれないかなぁ?」
「え?
これは、ダメです。預かりものなのでお渡しできません。」
「うーん、でもそれ、僕の依頼に必要なモノなんだよね。」
どういうことだ? 楓の首飾りはギルドの依頼、つまりイベントアイテムだ。
それが必要? 僕の依頼? 向こうは向こうで別口のイベントということか?
「そんなこと言われても、ダメなものはダメです。」
楓が両手で首飾りを隠すように抑える。
「あぁ、もう、なんでわかんないのかな。
こっちがおとなしく交渉してやってんのに。
このバカ!!」
突如、大声を上げる。
見知らぬ男から楓を隠すように、間に入り込む。
「そちらの事情は分からないが、こちらとしてもハイそうですかと、渡すわけにも行きませんので」
努めて冷静に言う。
楓が後ろでオレのローブを掴むのがわかる。
「だからぁ、事情がわからないような連中はすっこんでてよ。
無理矢理、取り上げてもいいんだよ?」
イライラした仕草を隠そうともせず言い放つ。
無理矢理取り上げる、そんなことが可能なのか?
プレイヤーの向こうに、いつの間にか人影が増えている。
野次馬が集まって来たか?
チラと後ろに目をやると、そちらにも既に何人か立ち止まってこちらの様子を伺っている。
ひょっとして、仲間か?
だとしたら囲まれている。
この場は転移で逃げるか?
と、その瞬間。
見知った感覚。全身に電気が走るあの衝撃。
膝から崩れ落ちる。
「パラライズ・ケア」
桜の声が聞こえ、オレの体が自由を取り戻す。
「助かった!」
立ち上がりながら桜に声だけで礼を言う。
この前襲ってきた奴、もしくは同類か?
なんでプレイヤーと一緒にいるんだ?
街中で戦闘になるのか?
オレはデスペナのステータス異常中だ。
やはり転移で逃げよう、そうメニューを開こうとした瞬間だった。
「あの」
楓が声を上げる。
「これが、欲しければ差し上げます。
その代わり、今すぐ私達を離して下さい」
両手で、首飾りを差し出していた。
周囲を確認する。ざっと、十六人。全員NPCか? いや、プレイヤーも何人か……。
この中にこの前の奴がいるのか?
前回、顔を拝めなかったのは失敗だったな。
「はじめから素直に渡せば良いんだよ!」
魔道士が楓の手から首飾りをひったくり
後ろの連中に見せつけるように掲げる。
その中の一人が小さく頷く。
痩せた壮年の男だ。アイツが黒幕か?
「オイ。
首飾りを持っていくことはまぁいい。
ただな、女の子に対して怒鳴り声を上げたことを謝罪するつもりはないか?」
オレは魔道士に向き直り、感情を抑えながら、静かに問う。
「は?
何言ってんの? オマエ?
お説教? 騎士気取りですかぁ?」
よし、殺す。
短剣を取り出した瞬間。
魔道士と、周囲を囲んでいた連中の姿が一瞬で消える。
……転移か。
「桜ちゃん、勝手にごめん」
楓が、泣き声でポツリと言った。




