134.花見
インターバルを挟んで、ゲーム内は夜。
昨日まで篭っていたラーマの近く。
何時の間にか屋台が立ち並んでいた。
リィリーによると、イベント期間中、鍛錬場へ行くプレイヤー達へアイテムの露店が出始め、その内、鍛錬場の周囲の山々が桜に覆われ始めたため、食べ物屋が続々と出店。
今や、一大花見スポットと化しているらしい。
「お、嬢ちゃん、今日も来たか!」
屋台を出しているプレイヤーがプリスに次々と声をかける。
今日も?
プリスの食欲に従いながら、焼きそば、お好み焼き、ピザ、唐揚げと次々に食料を買い込んでいく。
それらを持って、レジャーシートに腰を下ろす。
ライトアップされた、桜の木から、花弁が舞い落ちている。
周りにも花見に興じるプレイヤー達で大騒ぎだ。
「凄い盛り上がりだ」
「毎日お祭り騒ぎね」
「外は、こんなことになってるなんて」
「本当にずっと篭ってたのね……」
「いやー、何度出てこようかと思ったか」
「褒めてないけど?」
ですよねー。
周りの喧騒とは裏腹に、のんびりと静かに時間が流れていく気がする。
まだ、暫くは屋台は出ているらしいから、今度は月子さんも一緒に来よう。
そうやって、のんびりと過ごしている所に通信が入る。
「スランドだ」
「呼んだら?」
リィリーの提案。
首肯しながら、通信に出る。
『久しぶりだな』
「久しぶり」
『今メッセを見た。どういう事だ?』
「どうもこうも、説明するからラーマに来なよ。鹿島さんも誘って」
『ん? 何をしてるんだ? 今』
「花見」
『呑気だな』
「もう剣に危険性は無くなったみたいだしな」
『だから、それはどう言う事なんだ?』
「良いから来いってー」
『……お前、若干ハイになってないか?』
「うん? そう?」
多分、久しぶりにこっちで話をしているからです。
『……暫くしたら鹿島と行く』
そう言って通信が切れた。
「来るって」
「そ。じゃ、何か買って来てもらお!」
「アイス!」
まだ、追加必要ですか。
そうですか。
「待たせた」
スランドと鹿島さんがやって来た。
言うほど待ってない。
「プリス、お土産だ」
「ありがとー!」
「やあ、久しぶり。
イベントもう良いのかい?
みんな必死に追い上げてるぞ」
「いやー修行とイベントが偶然重なっただけで、後は落ちてく一方ですよ」
「そんな話は良い。
それより、何があった?」
買って来た食料をレジャーシートの上に広げながら、スランドが尋ねてくる。
「ジャンヌから連絡があった。聖剣が無いから聖杯使って封印そのものを壊すって」
「何時だ?」
「今朝」
「仲良いのね」
リィリーがジト目で睨む。
「聖杯かー。
王宮内部にあるらしいけど、基本的にプレイヤーが自由に出入りできる場所じゃないからね」
でも、そんな場所に出入りしてるんですよね? 鹿島さん。
「それより、聖剣が無いと言うのは、どう言うことだろう?」
「王座の間にあったはずだが……」
「あ、それ、試してみたいんだけど。
聖剣が扱えるかどうか。
どうにか、城に入れないかな」
「どういう事だ?」
「いや、これだろってスキルを手に入れたんだよ。
このために、ここ暫くずっと戦い通しだったわけ」
ま、後半は聖剣関係無かったけどね。
「ふむ。検討してみる」
スランドって、実際の所、城内でどれほど発言力あるんだろうか?
ま、ここは任せよう。
「よろしく」
「ジン、聖剣持つの?」
話を聞いていた、プリスが不安げな顔を向ける。
「持てるかどうか、試すんだよ。
嫌か?」
しかし、プリスは首を横に振る。
「もともと聖剣は、夜の神の為に作られたものだから、ジンが持つのは、間違ってないと思う。
でも、持てないと思う」
え。
「何で?」
「もやしだから」
もやし?
確かにSTR値低いけど。
「あー、確かに。そもそも、似合わんな」
え、スランドもそんな反応?
そうか、聖剣を見たことあるの、この二人だけなのか。
と言うか、オレの72時間の忍耐を挫くような発言、止めてくれ。
「さて、そろそろお開きかな」
スランドが、そう言いながら腰を上げた。
買い込んだ食料は全て無くなり、プリスはリィリーの上で寝てしまった。
「そうだね。今日は楽しかったよ。
今度、時間があったらキョウで会おう。
いま、珍しい人もいるんだ」
と、鹿島さん。
「珍しい人? オレの知ってる人ですか?」
「ああ。クロノス氏だ。
王宮に戦術指南役として招かれてきた。
前回の戦争の指揮役と言う実績があるからね」
クロノスさん!?
ピースが……繋がった。
「……やられた」
そう言いながらこめかみを抑え天を仰ぐ。
「鹿島さん、多分、クロノスさんは聖杯が狙いです」
「何!?」
「どういう事だ!?」
スランドが座り直す。
「前回ジャンヌと接触した時、彼の姿を見ました。
偶然にしては、おかしいタイミング。
ジャンヌを追っているか、或いは、仲間か。
そう思いました」
「何で言わなかった!」
スランドが睨むように言う。
「確信が無かった……」
しかし、結局、掌で踊らされてただけか。
「聖杯目当てでジャンヌが送り込んできた、と考えられるか。
ちょっと確かめてこよう。
後でメッセを送る。
ただ、仮に聖杯を手に入れたとしても、北へ抜ける関所は越えようがない。
まだ、焦らなく大丈夫だ」
鹿島さんは、そう、オレとスランドに言い聞かせるように言った。




