130.聖剣の伝承
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『魔王の軍団に対抗し得る武器を』
王命を受け、馬を飛ばす騎士エアス。
行き先は、イズクモの更に奥地。
鍛冶神ワカダの化身が鎮座するという集落。
しかし、エアスが集落に着いた時には既に、魔人の軍団によって集落は火の海と化していた。
逃げ惑う人々を助け、武器を手に取る人々を導きながら、エアスは三日三晩その剣を魔人に振るう。
激しい戦闘に、悲鳴を上げたのは、エアスでも魔人でもなく、エアスが持つ剣であった。
幾多の魔人を討ち取り、刃は全て零れ落ち、血に塗れたエアスの剣。
魔人の強力な一撃を受け、その剣身半ばから二つに折れる。
しかし、エアスはかまわず折れた剣を手に魔人の軍団に襲いかかって行く。
折れた剣身は、まばゆい光を放ち魔人を討滅す聖剣と化していた。
鍛冶神ワカダが、エアスへ聖剣バリアクスを賜ったのだ。
かくして、エアスは聖剣を手に入れ、その力を持って、魔人を討伐して行くのである。
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これが、図書館で見つけた魔王討伐の英雄エアスが聖剣を手に入れた時の物語。
三日三晩て。
尾ひれ付きすぎじゃないですかね。
それか、人外であったか。
ま、そこは置いておこう。
ここから読み取れる可能性をC2Oと言うゲームシステムを踏まえ考えてみようか。
まず、聖剣。
イベントアイテムと思われる。
特定個人にしか使えない、と言う制限を持つアイテムは、今のところ無いらしい。
おそらく、制限として存在しないだろう、との海猫さんの意見。
となると、扱うために一定条件がある可能性。
ステータス、若しくは、称号。
エアス以外誰も扱えなかった、となると、ステータスの可能性は低いと見ていい。
万が一、三日三晩戦い通せるような人外であったなら話ば別だが。
残るは、称号。
可能性としては、鍛冶神ワカダの神使、若しくはそれに類するもの。
幾多の魔人を討ち滅ぼしたとあるから、魔人討伐数が一定以上。
それか、後は三日三晩のところか。
うーん、魔人討伐は再現不可能だな。
三日三晩戦い続けるのも、システム上無理だし、残るは鍛冶神か。
一度、イズクモの奥にあるらしい集落へ行ってみるか。
よし、明日はそこに行こう。
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「おはよう」
ログインすると、リビングにリィリーがいた。
「おはよう。今日も空中庭園散歩?」
「ん? いや、違うけど?」
あれ? 何で知ってるんだ?
空中庭園をソロでレベル上げ。
MP尽きるか、死に戻るまでずっと。
その後、図書館で調べ物して、それからミノさんとトレーニング。
最近の行動パターンである。
今日は、空中庭園じゃなく鍛冶の集落とやらへ行くつもりだけど。
「なんか、噂になってるわよ。空中庭園で大暴れしてるって」
いや、そこまで暴れたつもりは無いんだけどな。
ま、MP尽きるか死に戻るまで、ってのが今のオレには結構高いハードルなだけで。
だって、溟剣はMP吸収効果付きだし、一度死んでもゴーストになって物理無効で復活、だもん。
「ま、レベルカンストに向けて本格的に動き出したと言うことですよ」
そう、当面の目標はレベルカンスト。
あと、26……先は長い。
「どうしたの? 急に」
「更なる高みへ」
「あ、そう。
無茶はしないでね」
言葉とは裏腹に、ジト目で睨むリィリー。
でもね、今無茶しておかないと、手遅れになってからでは遅いんだよ。
イズクモの奥、鍛冶神を祀る集落。
想像通り、鍛冶屋、武器防具屋が多い。
しかし、予想外だったのが、祀られている鍛冶神。
集落の中心に、巨大な鍛冶神の彫像が鎮座している。
筋肉美を湛えた上半身に、褌のような腰布。
豊かな髭と対照的に、禿げ上がった頭。
両腕の筋肉を誇示するようなポーズ。
なんだっけ、アレ。たしか、サイドチェスト?
そう、まるでボディビルダー。
とりあえず、その彫像の近くにいたNPCに話を聞く。
「あのー、この彫像って鍛冶神ワカダ様ですか?」
「おお、旅のお方ですか?どうです?見事でしょう?特にこの、上腕二頭筋の美しさ」
いやいや。
「は、はあ。
えっと、英雄エアスの聖剣伝説に出てくる集落は、ここですか?」
「いかにも!
三日三晩休みなく動くその肉体に惚れ込んだワカダ様が英雄に聖剣を授けたたと、そう伝わっておりますな」
……三日三晩。
キーワードはそれでしたか。
この、脳筋が!
「剣も、夜の神なんという軟弱者ではなく、エアスという筋肉、いや、英雄に使ってもらえて幸せだったでしょう。
あなたは、魔道士ですかな?
もっと筋肉をつけた方が良い」
「は、はあ……」
ほっとけ。
軟弱な神は、吸収合併されたオレの上司だ。
しかし、聖剣の条件に三日三晩戦い続ける説が急浮上してきたな。
いや、でも、システム上連続ログインは5時間が限度だしな……。
まさか、肉体美?筋肉量?
なんか、そんな気がしてくる。
したら絶望的なんだよな。
ステータス的に。




