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129.荷物を下ろす

『今日は、貴重なお話ありがとうございました』


 雪月風花を辞去し、月子さん宅のリビングで考え事をしていると、雪椿から通信が入る。


『お土産も、みんなで美味しくいただきました。ウチのメンバー達も話したがってたのでまた遊びに来てくださいね。今度はみんなで』


「わかった。わざわざありがとう」


 律儀だな。


『で、クロノスの事なんですけど』


 む。


『ジンさんが、今更探りを入れて来たって事は、何か起きてますよね?それも、あまり良くない事が』


 人を不幸の運び手みたいに言うな。


「いや、本当に見かけただけなんだ。

 ……何か起きてるのか、それは定かで無い」


 確信も何も無いのだ。


『もし、クロノス絡みで何かあったら、まずは私に教えて貰えませんか?』


「いいけど、何で?」


『ネフティスとクロノスを引き合わせたくないんです』


 極めて軽く、しかし、冷たく言い放った。

 理解が追いつかず、言葉に詰まるオレに雪椿は続ける。


『ニケさんの引退から、クラウディオスの解散に至るまで、ギルド内のゴタゴタが結構ありまして。それは、そう、外部から見ていても察せるほどに。

 そんな状況で、彼女はギルドを存続させようと必死に動いてました。

 ニケさんの穴を埋めようと、彼女の真似事をしたり。

 そんな彼女の頑張りに周りが感化されて、ちょっとずつ抜けた人の穴をみんなで埋ようと回り始めた時に、クロノスが一方的に解散宣言して、逃亡』


「それは……」


 非道い。


『当時は、すごい落ち込みようで……。

 それで、私が無理矢理彼女をサブマスにしてギルド立ち上げました。

 クラウディオスの元メンバー達も引き受けて。

 何か動いてれば、その分、気が紛れるだろう、そんな風にも考えました。

 極力、あの子に無理させない様にしながら、表面上はみんなで和気あいあいとやってるように盛り上げながら』


 なんか、ギルドって大変。

 そういや炎樹のとこはその後上手く行ってるんだろうか。

 解散したと言う話は聞いてないが。


『そんな経緯ではあるものの、今のところいい雰囲気でやって行けそうな感じです。

 身内の私が言うのも何ですけど。

 なので、今、クロノスなんて問題は抱えたくないのが、正直な所です。

 ネフティスがどう思ってるかは、わからないですけど』


「事情も知らずに申し訳ない」


『や、あやまんないで下さい。

 責めたわけじゃないですから。

 ただ、ジンさんがプリンちゃんを大切に思うように、私もネフティスを、そして出来たばかりのこのギルドを大切にしたいと思ってます。

 それを壊そうとするのは絶対に許さない。

 そう言う意味では、共闘できると、そう思ってます』


 誰か彼女には、ジャンヌに関わる揉め事を話したか?


「共闘って言っても、助けられっぱなしだからな。オレ」


『でもね、みんな助けに行きますよね?

 そういうギルドがウチの、そしてネフティスの理想。

 困ってたら助ける。もちろん、正しいと判断した上で、ですけど。

 だから、ジンさんはある意味ネフティスの理想なのです』


 オレとしては、好き勝手やってるだけなんだけどな。

 どこか、誤解がある気がしないでも無い。


「ニケさんと言い、買い被り過ぎだと思うけどな。

 オレはオレで好き勝手動いてるだけだし」


『結局のところ、ゲームですし、好きなようにやるのはみんな同じなんです。

 その結果、ジンさんは周りを動かしたし、クロノスは傷付けた。

 ま、ちょっとだけ心に留めておいてください。

 スキル情報公開したり、レアアイテム提供しちゃうお人好しのジンさんには要らない心配だとは思いますけど』


「言われなくてもそのつもりだけどね。

 クロノスさんの件、何かわかったら伝える。

 それと、力になれそうなことがあったら言ってくれ。

 さっきも言ったけど、二人は命の恩人だ」


『それこそ、買い被り過ぎですよ。私もネフティスも頼まれたから行っただけです。

 そんな恩を感じられると背中がむず痒くなります。

 恩を感じるなら、スランドとリィリーにですね。ま、言わなくてもわかってると思いますけど。

 じゃ、また、何時でも遊びに来て下さい。

 ただ、今の所、女性プレイヤーばっかりなんで、リィリーと一緒がいいですね。きっと。

 じゃ』


 そう言って、雪椿は通信を切った。



 ふぅ。

 一人、溜息をつく。


 出口の無い問題が多くなってきた。

 ジャンヌの暗躍と、聖剣の警備。

 突然現れたクロノスさんと、知らなかった彼の一面。

 依然取っ掛かりすら掴めていないプリスの蘇生。

 そして……、ま、これはゲーム内の問題ではないか。


 ジャンヌは、待ちに徹する他無い。

 となると、クロノスさん。


 ニケさんに相談してみるか?

 いや、彼女は既にゲームから離れている。

 今、余計な心労を与えても仕方ない。


 残るは、プリス。

 これこそ、手段が何も見えていない。


 はぁ。


 再度、溜息が漏れる。


「何か困り事?」


 いつの間に居たのか、後ろから月子さんに声を掛けられた。


「……色々と出口が見えない事ばかりで」


 彼女の運んできたティーカップを受け取りながら、そう答える。


「何時になく、深刻そうな顔をしてるわ。

 君らしくもない」


 オレらしくない?

 軽く、首をかしげると月子さんは続ける。


「ジン君は、本人がどう思ってるか知らないけど、いつもちょっと上から目線で根拠の無い自信を持ってる、そんな感じ」


 端から見るとスゲー嫌な奴。


「でもね、気が付くと周りも乘せられて、上手く巻き込んでる。

 そんな人。

 私の知り合いにも一人いたな」


「それ、褒めてるんですか?」


「褒めてるつもりよ。

 だから、顔を上げなさい。

 荷物が重いなら、一旦置いて身を軽くして高いところから見渡すの。

 そうすると、今まで見えなかったものが見えるし、高かった壁はとっても小さく見える。

 そうやって、余裕を持ったところで、荷物は取りに戻ればいいし、何だったら人に運ばせれば良い。

 これは、似ていたって言う知り合いが言ってた言葉」


 そうか、励まされてるのか。


 確かに、視野が狭くなっていたな。


「プリスちゃんは、任せなさい。

 あの子は、私の娘でもあるんだから」


「え……あ、はい」


 娘とそう言い切った月子さんに違和感を覚えたが、しかし、その優しげな表情はいつもの月子さんだった。


「少し、気が楽になりました」


 ハーブティーを飲みながら彼女の言葉を反芻していた。


 満足気に頷く月子さん。



 高い所、か。

 問題を再確認してみよう。


 まず、ジャンヌ。

 彼女の目的は魔王の復活。

 その為の聖剣。


 ジャンヌは聖剣を手にする手段を今まさに用意しているのだろう。


 その阻止が目標。

 その為に、スランド達が警護している。

 それによって、聖剣の安全は確保されている。


 それだけか?


 聖剣が無ければ、そもそも、ジャンヌは封印を解けないのでは?

 聖剣をジャンヌより先に確保してしまう、と言う手もある。


 そうか。

 聖剣の確保。

 城の中にあるから、常に警護が必要でジャンヌの出方を待たねばならないのだ。

 聖剣、封印を解く鍵、それ自体を秘匿してしまえば良いのでは?


 そのためには、聖剣を動かす必要がある。

 どうやって?

 調べねば。

 エアスと言うプリスのご先祖様だけが聖剣を扱えた理由を。



 そして、ジャンヌの目的。

 魔王。


 なぜ、復活させたいのか。


『魔王が蘇る。プレイヤー達は勇者となり、それを討ち滅ぼす。

 そう言う、コンテンツを打ち立てたいんです』


 つまり、魔王はプレイヤーに討伐させる事が目的。

 裏を返すと、魔王と言えど、プレイヤーに勝てない敵ではない、と言うことか。


 ならば……。

 こっちは、単純だ。


 強くなれば良い。


 魔王が蘇ったところで何もさせずに打ち倒せるほどに。



 そして、クロノスさん。


 彼があの場にいたのは、偶然ではない。


 最悪を想定しよう。

 彼は今、ジャンヌの側にいる。


 だとしたら、この後どこかで再びまみえるだろう。


 彼に対する判断は、そこまで保留。

 彼の存在に気付いている、それだけでもジャンヌに対するアドバンテージに成り得る。

 今、下手な接触を画策するのは止そう。

 そもそも、接触する術は無いのだが。



 気になるのは、聖剣と魔王に対するプリスの反応、か。


 当面、プリスには気付れないように動こう。

 そのためには協力者が必要だ。

 月子さん。

 任せてしまおう。


 ここは、今までと変わらないか。



 よし。

 方針は決まった。


 聖剣について調べる。そして、あわよくばこの手に。

 さらに、魔王に負けない程の力。


 時間の猶予は?


『準備が整うまで、そうだな、一ヶ月ぐらいかな』


 ひとまず、一ヶ月が目安か。


 うん。

 それで行こう。



 オレは、一人大きく頷いていた。


「答えが出たみたいね」


 顔を上げたオレに月子さんが静かに微笑みながら声を掛ける。


「ええ。

 月子さん、また当分プリスをお任せします」


「はい。任されました」

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