表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
151/179

127.クロノス

『随分な好かれようだな』


 呆れたようなスランドの声が、ボイスチャットを通して聞こえてくる。


 空中庭園で手に入れたドロップアイテム[オーパーツ 通信機構]。

 このアイテム同士であれば、周囲の音声を送ることが出来る。

 正直、ボイスチャットと、さほど変わらないのだが今のように盗聴っぽく使える。

 ボイスチャットの場合、周囲に仮想ウインドウが浮かぶからだ。


 難点は、使用時間に制限があり、一定時間経過すると壊れる。


 ま、パーツの在庫はそこそこあるのでそれは良いが。


 こんなこともあろうかと、更紗に頼んでカルセドニーのピアスに仕込んでもらった。


 先程のジャンヌとの会話は、全てスランドに筒抜け。

 まぁ、向こうが聞いていれば、だが。


「あいつ、何しに来たんだよ。マジで……」


『告白だろ?』


 スランドが、楽しそうに言う。


「いや、マジやめろ。そこは誰にも言うなよ」


『わかった、わかった。

 しかし、相変わらず、掴みどころが無い……。

 ま、暫く動きは無さそうだな』


「ん? 信じるのか?」


 どう考えても、嘘だろう。


『ああ。

 言ったとおり、二、三週間は動かんだろう』


「何で?」


『何でって、それが嘘だったらお前は激怒するだろう?

 それは向こうも避けたいはずだ。

 それだけ、気に入られてるって事。

 ま、根拠は無いが』


 ふーん。

 ま、そう思うならそれでも良いけど。


 そんな事より、オレには気になっている事がある。


 ジャンヌと話をしている間、物陰からこちらの様子を伺っている人物がいた。

 果たして、何時からいたのか、そして、ジャンヌが去るのに合わせて姿を消していた。


 クロノスさん。


 C2O、最大手ギルドのギルマス。


 戦争イベントで中心となり、周りを取りまとめ勝利に導いた人物。


 しかし、主要メンバーが次々と脱退し、今年のはじめにギルドは解散。

 その後、少なくともオレの耳に彼に関する話は入ってきていなかったが。


 何をしていたのだ?

 わざわざ、『変装』までして。

 『眼光』が無ければ気付かなかったはずだ。


 偶然?

 いや、まさか。

 とすると、ジャンヌを追っているか、もしくは、ジャンヌと組んだか……。




「イベントお疲れでした」


『おお……、見てたか?』


「ハイ、バッチリ」


 今、イベントフールドから強制転送、つまり、死に戻ったばかりの左之助さんに連絡を取る。


『いやー女の涙には勝てないな!

 そっちはどうだ?』


 森のなかで、マンティコラの大集団に遭遇しその全てを撃破した時に彼らのパーティーは左之助さん一人になっていた。

 そして、森を彷徨った末、人魚の姿をしたモンスター、ルサルカと遭遇。

 既に他のプレイヤー達との戦闘を経て、瀕死で湖畔に佇むルサルカに対し、一度は向けた穂先を、静かに下ろす。

 ルサルカは、しかし無抵抗の左之助さんに魔法を放ち……。


 二式葉だったら、問答無用で斬りつけただろう。

 そして、涙とか言ってるけど、多分、水が滴ってただけです。

 ま、男臭いと言ってしまえばそれまでだが。


「一度、接触があって、当面動き無さそうってのがスランドの結論です」


『そうか、これからキョウの店で反省会兼打ち上げなんだが、来れるか?』


「大丈夫です」


『じゃ、待ってるぞ』


 クロノスさんの件は、彼に聞くのが一番だろう。




「クロノス?」


「ええ。最近どうしてるんですかね?」


「うーん、ギルド辞めてからは、会って無いな。

 何時の間にかフレンドも解除されてたしな」


 反省会兼打ち上げは、結果に反する盛り上がりを見せていた。

 そんな中、頃合いを見計らって左之助さんに聞き込み。


「雲助はどうだ?」


「ん? 何スカ?」


「クロノス、連絡取ってるか?」


「いや、解散から会って無いスネ」


「だよな」


 ふむ、二人共近況は知らないか。


「しかし、何でだ?」


「いや、今日似た人を見かけたんで」


「本当か? まだゲーム続けてるのか」


 左之助さんが、少し驚いた様に言う。


「え? 引退したんですか?」


 そう言えば、ギルドを解散した事情とか全然聞いて無い。


「しててもおかしく無いとは、思ってたんだ」


「何かあったんですか?」


「んー、まぁニケが引退したからな。

 あのギルド、実質運営してたのは、彼女だったんだわ」


「あ、そうだったんですか」


 そんな内部事情があったのか。

 それで運営が破綻したのか?


「それでも、何人かはちゃんと運営しようとしたんスヨ。

 でもね、結局、ギルマスが全部放り投げたんスヨネ」


 雲助が悔しそうに言う。


「まあ、オレはニケが引退した時点で予想してたがな」


 話が見えない。

 困惑気味のオレの表情に気付いたのか左之助さんが補足をする。


「クラウディオスは、元々βをやり込んでたクロノスと、攻略情報とりまとめてたニケが立ち上げたギルドでな。

 ま、その流れで本サービス開始直後からβ勢が集った、と言うかニケが集めたんだよ。

 クロノスは、アレでβのトッププレイヤーだったんだ」


 アレ?


「β時代は、時間が許す限りログインしてレベリングしてたみたいスヨ。

 でもまぁ本サービスだと、それがあんまり通用しなかったんすヨネ」


「そ。

 結局、一回目の闘技大会も逃げたしな。

 でもまぁ、本人も何とかしようとしてたし、周りも協力的だったんだ。

 なんだかんだでβ勢って、仲間意識もあったしな」


 んー?

 思ってた印象と随分違うぞ?


「でも、戦争の時とか……」


「ああ言うハッタリ的な事は得意だったんだよ。

 だからこそ、トップに向いてるとも言える。

 でもなー、裏で色々と手を回してたのはオレ達だったんだ」


「でも、実際ボロが出なくて良かったスヨ。

 あの戦争。

 そうと知らず活躍していた皆さんには頭が上がらないス」


 そう言って、雲助はオレに頭を下げた。


「で、その後ニケさんが引退。

 この人も、新撰組ごっこで離脱」


「ごっこじゃねーよ!」


「何で好き好んで敗者の側にまわるんだろーな?」


 新撰組に反応したのか、パンクドールがそこだけ突っ込みを入れる。


「敗者には敗者のドラマがあるんだよ!」


 左之助さんの反論に、首をすくめるパンクドール。


「その辺りからスカね。

 露骨にギルド運営放棄し出したのは」


「いや、ニケの引退話が出た時から投げてたぞ」


「あの、その二人って、どういう関係だったんですか?」


「クロノスはなー、ニケのこと好きだったんじゃなーかな」


 左之助さんの言葉に雲助も頷く。


「でも、ニケはなー。

 元々既婚者だし。出来の悪い弟程度にしか見てなかったんじゃねーかな」


「そうだったんですか」


 ニケさんが、何度もオレをギルドに誘ってたのって彼のサポートを託したかったからなのか?


「つー訳で、元ギルドメンバーでも積極的に連絡取り合ってる奴は少ないと思うぞ」


「なるほど。何となく状況理解しました」


「ネフティスには聞いたんスカ?」


 ネフティス?


「いえ、全然」


「彼女は最後までギルドを存続させようと頑張った一人ス。

 当時は大分無理してる様に見えたんすヨネ。

 でも、クロノス自体を悪く思ってる節は無さそうかなんで、まだ連絡取ってるかも知れないス」


 ネフティスか。

 今度、ギルドに挨拶に行こうかな。


 二度助けてもらっていながらちゃんとお礼をしてない。

 雪椿にも、だが。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
新作もよろしくお願いします。
サモナーJK 黄金を目指し飛ぶ!
https://ncode.syosetu.com/n3012fy/
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ