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126.イベント中継

 ルノーチの墓地。


 ベンチに座り、仮想ウインドウを流れる映像を眺めている。


 今、まさに開催中のイベント。

 その中継。


 イベント名はトレジャーアイランド。

 プレイヤーは、イベントフィールド各所に隠されたヒントを元に、宝を探しだす。

 もちろんフィールドのあちこちにモンスターが配されている。


 映像は、顔見知りののパーティーを映し出していた。


 先頭を走るのはパンクドール。

 その後ろには左之助と、かつて彼と同じギルドに所属していた雲助。

 さらに、フレグレイと言う魔術師。強力な火魔法を使う。

 年末のイベント二日目、巨人に初撃を与えたのは彼だ。

 最後尾にデザンと言うヒーラー。


 最近、彼らとパーティーを組むことが多くなった。

 行き先は主に、空中庭園。


 もう何度か挑戦すれば完全踏破出来るだろう。


 映像を切り替える。


 二式葉が、リザードマンの一団と戦闘をしていた。

 その奥に、リィリーの姿も見える。


 一時共闘か?


『今回のイベントは中継で面白さが伝わってこないな』


 繋ぎっぱなしのボイスチャットの向こうで、スランドがぼやく。


 彼女は今、ルノーチの城内にいる。


「そう? 前回もこんなもんじゃないの?」


 前回、年末のイベントだ。

 あの時はオレは映像の向こうにいた。


『いや、前回はもう少し面白かった気がする』


 ふーん。


「スランドはさ、参加しようとは思わないの?」


『この手の目立つイベントは、どうもな……。

 それに、私にはやることがある』


 城内の警備。

 来るか分からないジャンヌへの警戒。

 オレも、今回はイベントの参加を見送り、スランドに付き合っている。

 とは言え、城内には入れないので人気のない墓地で待機している訳だが。


「止めたいとか、思わない?」


 別に感謝されるわけでも、オイシイ報酬が有る訳でもない。

 何故、彼女は裏方で地味な、しかし、大変な役割を引き受け続けるのだろう。

 今回はオレもその手伝いに回っているが、うん、正直しんどい。


『正直に言って良いか?』


「ああ。別に責めないし、他の誰にも言わないよ」


『辛くないと言ったら嘘になる。

 正直、何で自分でこんな事をしているんだろう、と思うことも有る。

 ただな、今投げ出して、ジャンヌの思い通りになってしまったら、その方が嫌だからな』


「律儀だな」


『それに、報酬が無いわけじゃないしな』


「へー。何が有るの?」


『誰にも言うなよ? コハのずっと西に、廃城があるのを知っているか?』


「ああ。アンデットの巣窟になってる所だろ?」


 一度、リィリーと行っている。


『そう。あそこに住む権利だ!』


「は? 城主になるの?」


『ま、あと半年ほどは勤め上げないといけないがな!』


「それは大層な。リィリーが知ったら悔しがるな」


『たまになら遊びに来ても良いぞ!』


「いっそ、宮廷魔術師にでもしてもらおうかな」


『無給でこき使ってやるぞ!』


「そりゃ、怖い」


『まぁ、部屋数はあるだろうから、何なら全員で引っ越してくれば良い。歓迎するぞ』


 全員、か。


 映像が切り替わり、月子さんとプリスの姿が映る。

 一緒にいるのは、フェイだな。


「そう、ね」


『ところで、何かあったのか?』


「いや、異常なし」


『そうじゃない。リィリーとだ』


「ん? 別に何も無いよ」


 何も、無い。

 ヨーコ達がオフ会を開いていたバレンタインには、月子さん、プリスの三人でオレにチョコケーキを焼いてくれた。

 それからも、ログインすれば、ほぼ毎日顔を合わせている。

 今まで通り。


 ただ、会うことを拒否した、あの寂しそうな笑顔が、たまに脳裏に蘇る。


 ただ、それだけだ。


『離したら、ダメだぞ?』


「は? 何言ってるの?」


『ちゃんと、手を掴んでおけ。そういう事だ。これは、そうだな、年上からのアドバイスだ』


「オレの年、知らないだろ?」


『酒が飲めない程度だというのは聞いてる』


 二式葉か!


「そうですか。よく分からんアドバイスだが、心に止めておくよ」


 その時、誰かが墓地に入ってきた。


「人が来た」


 そう言って一度通信を切る。



 墓地に入ってきたのは、女性プレイヤーだった。


 腰まである、長い金の髪が風に揺れている。


 彼女は、まっすぐオレのところまでやって来て微笑んだ。


「隣、座ってもいいですか?」


「どうぞ」


 長椅子の中央に腰をかけていたが、右にズレすように移動する。

 気付かれないように、然りげ無く、左耳に嵌めたピアスに手を触れる。


「静かなところですね」


「そうですね。人が余り来ないので、内緒話をするには持って来いですよ」


「今日はイベントに参加していて、人が少なくなってますもんね」


「盛り上がってるみたいですね」


「貴方は、参加しなかったのですか?」


「ええ。ここで世界の平和を守ってるんですよ」


「まぁ素敵。どんな悪役がいるのかしら」


「例えば、長い金色の髪をした、掴みどころの無い女性。名前はジャンヌ」


「それは、私の事ですか?」


 女性はわざとらしく首を傾げる。


「そうだけど?」


 茶番はもう良い。


「何だ、つまんない」


 姿を現した時から、その正体は見破っていた。


 【鑑定】と【識別】を融合して、【看破】。

 それに、更に【集中】を融合させ【眼光】。


 果たして、ジャンヌ相手にどこまで通用するか疑問ではあったが、その有用性がたった今証明された。


「何の用だ?」


「暇そうにしてるから声を掛けたの。いけない?」


「誰のせいだと思ってるんだ」


「え? 私のせい? 何で?」


 本当に、疑問に思っているようだ。

 こうやって、誰か、今回はオレとスランドがイベント中に何かをしでかしないか警戒しているんだが、それを本人に言っても面白がるだけか。


「何でもない。気にすんな」


「久しぶりの再会なのに、テンション低いね。

 一ヶ月ぶり?」


 それくらいになるか。


「じゃ、オレが楽しくなるような話を聞かせてくれよ」


「うーん、今はまだ、聖剣は手に出来ないから、見張らなくても良いよ、とか?」


 と言われた所で、真偽の程が分からない。


「準備が整うまで、そうだな、一ヶ月ぐらいかな」


「それは楽しい情報だな。本当なら」


「ははは。本当だよ。わざわざ嘘を付きに出てくるわけ無いじゃん」


「わざわざ本当の事を言いに出てくるわけは無い思うんだよ」


「いやいやいや、君に会いに来たんだよ? 嬉しくないの?」


 ジャンヌは、不服そうな顔をする。


「混乱するだけだからな」


「良いじゃん。混乱。カオス。決まりきった世界なんて、つまらないじゃん?」


「それに振り回されるの方は、大変って話」


「振り回されてるって、思うからだよ。一緒にやれば楽しいよ?」


 やらないって。


「うーん、この姿が不満なのかな?

 あの子の姿になればいい?」


「やめてくれ」


「そう? お望みとあらば何時でも変身するけど。

 ハイ、これ」


 そう言って、ジャンヌはストローが刺さったドリンクを二つ取り出し、その一つをこちらに差し出した。

 氷が入った、何かのジュース。


「何、これ?」


 受け取りながら、尋ねる。


「フルーツミックス。別に毒とか入ってないから安心して」


 いや、入ってるだろ。

 【眼光】で浮かび上がる、成分。

 その中に『惚れ薬 製作者:ミック』の文字。


「じゃ、犬にでも毒味してもらうかな」


「ちょ、止めて!」


「バレてるから。これ、飲むとどうなるんだ? 試したことあるのか?」


「きっと、楽しいことになるよ」


 怖いなぁ。

 そういや、結局、司教は試したのだろうか。


「良いから飲みなってー」


「嫌です。おっかない」


 口を付けずに、横にジュースを置く。


「うーん、なかなかに手強い」


「や、マジで何しに来たの?」


「君を引き入れたいんだよ! ずっと言ってるじゃん」


「ずっと断ってんじゃん。何でオレなんだよ」


「スキだからだよ」


 は?


 突然の告白。


「え……」


「うっそでーーーす!」


 思わず、背筋を伸ばし見返したオレに、ジャンヌが大声を返す。変顔のおまけ付きで。

 もうやだ、この人。


「……お前、今のはPKされても文句言えないぞ……」


「本当の方が良かった?」


「もう無理。何も信じられない」


「そうかぁ。失敗したな。よし、じゃ次の作戦を考えよう。

 じゃーまた」


 ジャンヌは手を振って立ち去って行った。


 いや、マジで、何しに来たんだよ……。

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