125.ヨーコの誘い
ジャンヌの脅威は、やはりあの変身。
最優先はその対策。
オレとスランドの意見はそう一致した。
しかし、その能力が何であるのか、魔法なのかスキルなのか、それともアイテムか、それすら判明していないので対策の取りようが無い。
運営によるペナルティが解除されたので、図書館で調べているがその成果は芳しくない。
そんな感じで数日が過ぎた。
さて、今日はどうするか。
新マップ、空中庭園に足を伸ばすか?
バルコニーでぼんやりとその日の予定を考えていると、ヨーコがこの家に入っていくのが見えた。
珍しい。
月子さんか、リィリーに用事だろう。
顔ぐらい見せてくるか。
そう思い、リビングへ。
「で、中止になっちゃったので、それならいっそオフ会にしようって話になってるんです!」
リビングに顔を出そうとする、オレの耳にヨーコの声が届く。
中止?
オフ会?
なんだろう。
廊下で足を止め、聞き耳を立てる。
「もし良かったら、お二人も参加しませんか? 2月14日。場所はこれからですけど」
2月14日、オフ会?
というと、中止と言うのはバレンタインのことか。
先日運営からこんなお知らせが来ていた。
[バレンタイン中止のお知らせ
2月14日のバレンタインに合わせ、2月10日〜2月16日までの間、一方的なアイテムの贈与を禁止といたします。
当該期間に於いて、プレイヤー間でアイテムのやり取りが発生する場合は、同程度のアイテムとのトレード、もしくは金銭での売買を行って下さい。
2月14日は、セクシャルペナルティの多発が予想されますので、その為の緊急処置となります。
ご理解の程、よろしくお願いいたします。]
要約すると、チョコとか一方的に渡すの禁止、と言う事である。
流石に、女性からチョコ貰って、その場でお金を返す、と言うのは雰囲気ぶち壊し、そう考えたのだろう。
これに対する反応は様々で、秋元、倉本の貰える当てがある奴は不満を漏らすし、逆に田中は「ナイス!運営」と言い切る。
ただ、その代わりにオフ会を企画したか。
「折角だけど、私は参加出来ないわ。ごめんねー」
しかし、月子さんは不参加。
「私も、そう言うのはちょっと……」
リィリーも不参加。
「そっか。わかりました。急にスイマセンでした!
もし、気が変わったら教えて下さい」
ん、マズい。
ヨーコが出てくる。
立ち聞きがバレる。
慌てて引き返して、曲がり角に身を隠す。
しかし、二人共不参加、か。
二人に会うチャンスだったのかもしれないのに。
いや、オレが誘われて無いか。
ヨーコが立ち去るのを見届け、念のため十数えてからリビングに入る。
「おはようございます」
「「「おはよう」」」
ゲーム内ではもうすぐ昼だけど。
「私達、出掛けるから戸締まりよろしくね」
「よろしく!」
入れ違いで、月子さんとプリスが出て行った。
また、塔の攻略お手伝いかな?
「今日も、調べ物?
座ったら?」
促されるままに、椅子に腰掛けるとすぐに紅茶が出てくる。
「うーん、まだ決めかねてる」
「そう」
紅茶をすすりながら、遠くを見つめ空返事を返すリィリー。
暫しの間。
「さっきね、ヨーコが来たわ」
「へー」
「今度、オフ会やるんだって。
知ってた?」
「いや」
立ち聞きしてたなんて、言えやしない。
「何だ。ジンは行くのかと思ってた」
「聞いてないな。リィリーは?」
そう、立ち聞きなんかしてないから、聞き返すのが正しい、よね?
「折角だけど、断った」
「そう。何で?」
何気なく、聞いたのだが。
「ん、ここにいる私は、ここにしかいないの。
だから、誰かとアッチで会うことは無いかな」
それって……。
「……オレでも?」
「……うん。ジンでも……」
そう、ですか。
……。
そうかぁ……。
いや、正直「ジンは、特別」とか期待したんだけどな……。
自惚れてた……。
……。
……。
「オレは、会いたいかな」
そんな言葉が漏れていた。
しかし、リィリーは少し寂しげに微笑みながら、静かに首を横に振った。
拒絶。
彼女の瞳が、全てが、そう伝えている。




