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120.追いかける

 え?


 皆の視線がオレに集まる。


 いやいや、訳が分からないのはオレも同じだ。


「……良いのか?」


 そう秋丸が尋ねて来るが、良いも悪いも……どうしろと?


「追いかけなさい」


 月子さんが、オレの肩を叩きながらそう言った。


「いや、でも」


 モンスターが……。

 それに、追いかけるって、どこに?


「ほら、早く行け!」


 ヨーコが、手でシッシッというジェスチャーをしながら言った。


「連れ帰ってくるまで、お家に入れないわよ?

 ここは、任せなさい」


 月子さん、笑顔でそう言った。

 ただ、目が笑っていない。


 でも、心は決まった。


「わかりました。任せます。色々すいません」



 とは言え、リィリーの行き先は?

 真っ先に思い浮かんだコハへ転移する。


 月子さんの家へ走る。

 しかし、入り口には鍵がかかっている。

 ここに帰った様子は無い。



 他は、何処だ?

 何も伝えないまま飛んできたが、キョウは大丈夫か?

 鹿島さんと知り合いのメンバーなんか、あの中にいただろうか?

 いや、優先すべきはリィリーだ。

 キョウは、皆を信じ任せよう。


 リィリーの居場所……。




 いた。


 思いついた所は一つだけだった。

 ルノーチの墓地。


 リィリーがお気に入りと言っていた場所。


 前に一緒に座ったベンチに座っていた。


 さて、何て声を掛けるべきか。

 そもそも、何でここに居るんだろう。


「隣、座っていい?」


 掛ける言葉は思いつかなかったし、更にリィリーから返事も無い。


 人、一人分間を開けて、ベンチに腰を下ろす。


「何してるの?」


 リィリーが、視線を前方、墓地の方に向けたまま尋ねる。


「迎えに来た」


「放っておいて」


 怒っている原因は、ジャンヌの事だろう。

 それ以外、考えられない。


「アレは、誤解だよ」


「もう、良いの。気にして無い」


「アイツは」


「気にして無いって言ってるじゃない!」


 取り付く島がないって、こういう事を言うんですかね?

 くっそ、ジャンヌの策略通りなのか? これは。

 ヨーコ先生、助けて!


 何か言わなきゃいけないと思うのだが、何を言っていいか分からない。


 暫し静寂が支配する。


 どうしよう?

 多分、いや、絶対にオレが悪い。

 いや、悪いのはジャンヌなんだけど。

 オレが謝るべき、そう思う。

 となると、アレか?

 ジャパニーズ・ドゲザ。

 そうだ、それだ!


 それならば、事態か解決しそうだ!


 そう思い、腰を上げようとした時だった。


「三日間、何してたの?」


 相変わらす、こちらに顔を向けぬまま、リィリーがそう尋ねる。


「え、えっと……」


 キョウに隔離されている間にやっていたこと……。


「これを、作ってた」


 そう言って一本の紐を取り出した。


「何? それ」


「組み紐。伝統工芸品らしいよ」


 いかにも中世欧風の町並みで、純和風の品が伝統工芸ってどうなの?

 と思ったが、まぁそう言う事らしいので深く考えないことにした。

 キョウの町中に工房があったので、頼み込んでお邪魔させてもらい、教えてもらいながら一本作り上げた。

 他に、やることが無かった、とも言えるのだけれど。


 手にした紐をリィリーに差し出す。

 黒に朱を織り込んだ紐。

 後で、更紗にお願いして何かに加工してもらおうと思っていた。


 紐を受け取りながらリィリーが小さくため息を付き、そして微かに笑う。


「私達が、こっちであれこれ走り回っている時に、君はこんなものを作ってたのか」


 こんなものと来たか。


「でも、綺麗ね」


 手にした組み紐を見つめながらそう呟く。


「リィリーが気に入るような組み合わせにしたんだけど、どうかな?」


 その、ゴスロリの死神に似合うように。


「私に?」


 紐から目を離し、こちらを見る。

 ここに来て、初めてリィリーがオレを見た。


「更紗にお願いして、加工してもらおうと思ってたんだけど。

 何か、リクエスト、ある?」


 再び、視線を紐に戻す。


 そして、少し考えた後、言った。


「……このままが、良い」


「え?」


「うん。このまま。もらえるなら、このままが良い」


 只の、紐だけど良いのか?

 ま、本人がそう言うなら。


「じゃ、初めて作ったから、あんまり上手にできてないけど、貰って下さい」


「……ありがとう」


 再び、静寂。


 ……やはり、土下座か?


 そう考え始めた時、リィリーが、口を開いた。


「ジン、ちょっと、立って」


「はい」


 起立!

 素直に従う。


「こっち向いて」


 回れ右。


 立ち上がった、リィリーが正面にいる。


「……目を瞑って」


 言われたるままに目を閉じる。


 これは……平手か?

 それとも、腹部にグーパンか?

 まさか、あの紐で首を締めるなんてことは……。


 平手、そう判断して、奥歯を噛みしめる。


 しかし、衝撃は顔ではなく、上半身にやさしくやって来た。

 顔に、何かが当たりくすぐったい。

 オレの背中に、彼女の腕が回る。


 これは……。

 さっき、ジャンヌが……。


 そっと目を開ける。


 すぐ下に、リィリーの後頭部がある。


「……これで、おあいこ」


 オレの胸の中でリィリーの口がそう言った。

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