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118.ジャンヌ

 向こうから馬車がやって来る。


 オレは、路地の端に立ちそれを眺めている。



 顔は、拝めないか。


 目当てのフジコさんは、馬車の中のようだ。


 無駄足だったな。


 馬車が、オレの前を通り過ぎ、そして、止まる。


 中から一人、降りてきて、そして、再び馬車が走りだす。


「私に何か用でしょうか?」


 一人残ったのは、他でもないフジコさんである。


「意外だな。こんなに簡単に接触できるとは思わなかった」


「あら? そうですか? 私は貴方とお会いしたかったのですよ。鎖のジンさん」


 へー。


「オレのことを知っているのなら話は早い。で、そちらのお名前は?」


「ジャンヌ、とお呼びください。

 それで、どういった御用で?

 捉えて、火炙りにでもなさいますか?」


 中世の聖人であり、魔女、ジャンヌ・ダルクが名前の由来か。


「まさか。ただ、少しばかり、話がしたいかな」


「では、ここで立ち話も何ですので、どこかに入りますか?

 と言っても、どこもお店は開店休業ですね。

 ま、お茶くらいならどこかで飲めるでしょう」


 そう言って、ジャンヌは町の中央、一番店が立ち並ぶ方へ向かって歩き出した。




 キョウの中心を南北に貫く大通り。

 それに面した茶屋。


 外に置かれた椅子に腰掛け、ジャンヌと二人で茶を飲んでいる。


 個室で、会談、と言うのは流石に相手にも警戒があるのだろう。

 まぁ、周囲にプレイヤーの姿は見えないので多少無茶な話をしても大丈夫だろう。


 さて、何から聞こうか。


「アンタは何者だ?」


 単刀直入に、そう切り出した。


「何者、と言われましても……。只のWCOプレイヤーですよ。ただ、そうですね、他の人より、ちょっとだけこのゲームの知識がある、と言うだけです」


 そう言って、横に座るジャンヌが微笑みを浮かべる。

 先程の、鹿島さんの映像越しに見せていた妖艶な印象は影を潜め、大人しい清楚な女性、と言った印象さえ受ける。

 この掴みどころの無さも、『フジコ』たる所以か?


「質問は、一つづつ交代としましょうか。

 貴方こそ、何者ですか?」


「オレ? オレこそ正真正銘の一プレイヤーだよ」


「そうとは思えない程、ご活躍の様ですが」


「偶然に偶然が重なった結果。

 魔王を復活させたいんだって? 何で?」


「質問が二つですね。

 まぁ良いでしょう。

 確かに私は魔王を復活させようと動いています。ただ、魔王の復活そのものが目的ではないのですよ」


「じゃ何が目的だ?」


「質問は私の番です。

 氷川とどういった関係で?」


 ん?


「氷川って、運営の?」


「そうです」


「どうもこうも、何度かゲーム内で話した程度だけど」


 ジャンヌが訝しげな表情をオレに向ける。


「そうすると、貴方は本当に只のプレイヤーでしか無いのですか?」


「そう言ってるじゃないか」


「そうですか。私は氷川が送り込んだ犬かと思っていました。

 失礼。これでは少し貴方の評価を改めないといけませんね」


 犬、ですか。

 どちらかと言うと猫派何だけどな。

 お茶を一口すする。

 無性に月子さんのクッキーが懐かしくなる。

 明日になれば戻れるのだろうか。

 そこはジャンヌ次第か。


「改めて、お前の目的と言うのを聞いていいか?」


「そんな、大層なものではありませんよ。魔王が蘇る。プレイヤー達は勇者となり、それを討ち滅ぼす。

 そう言う、コンテンツを打ち立てたいんです」


 何だそれ?


「考えてみてください。これだけの世界が存在するのに、プレイヤー達には何の目的もありません。

 随分とつまらない世界だこと。

 であるならば、全プレイヤーに共通の目的、敵を与えましょう。

 手と手を取り合い、強大な敵に立ち向かうプレイヤー達。

 見てみたいと思いませんか?」


「ピンと来ないな。

 別に、魔王でなくともプレイヤー達は協力しているだろう」


「スケールが違います。

 魔王が蘇ると、この世界の町という町全てが破壊されるでしょう。

 そう、させます。

 瓦礫と絶望の中から、プレイヤー達は立ち上がるのです!」


 手振りを交え、遠い目をしながらジャンヌはそう言い切った。


「それは、大変そうな世界だ。オレだったら、ゲーム止めるかもしれないな」


 その前に、その企みを阻止するけどな。

 ジャンヌの目的が本当である確信は無いが、そんな世界、到底受け入れられない。


 そして、改めて思う。コイツは危険だ、と。


「その前に、オレが止める、とか思っていません?

 そう何度もやられませんよ。

 ま、今のところ負け惜しみでしか無いですね。

 実際、貴方には何度も計画を潰されていますし」


 微笑みながら、しかし、睨みつけるようにオレを見る。


「ただ、今回は私の勝ちですね。

 聖剣は、頂きます」


 うん。

 今回、計画は上手く行っていると思いますよ。敵ながら。


「その、聖剣なんだけどね。実際持って来て無いらしいぞ」


 オレは、努めて軽く言ってやる。

 ジャンヌは、眉間に深いシワを刻む。


「やはり、釣り出された訳ですか。

 まぁ、将軍の心象を失墜させただけでも良しとしましょう」


 小さな声で、そう呟く様に言った。


 次の質問は、ジャンヌの番だったか。

 しかし、暫く待っても口を開かない。


「なあ、蘇生の魔法とか儀式とかってあるのか?」


 代わりにオレが質問をする。


「『復活リザレクション』の事ですか?戦闘中、死後三秒以内なら蘇生可能ですよ。

 神聖術の最高位術です。

 主神殿で取得儀式を行わないと獲得できません」


 死後三秒、か。

 オレには丁度良いが、プリスには使えないか。

 しかし……。


「だったら、魔王は何で復活できるんだ?

 何百年も前に死んでるんだろう?」


「魔王は死んでいるのではありません。

 魂と体を分離し、封印されているのです。

 この場合、体は水風船の様な物です。

 中に魂という水を注ぐことで蘇る、そう言う仕組みです」


「水風船に例えられる魔王って、少し惨め。

 中身は水なのか」


 そこは、毒とかのほうが良くないか?


「水が嫌なら、墨汁でも入れますか?」


 そう、ジャンヌが冗談を言った。

 その、真面目な顔とのギャップが可笑しくて、オレは声を出して笑っていた。


「私の、仲間になりません?」


 少し、間を置いてからジャンヌがそう切り出した。


「お断りします」


 即答。


「まぁ、そう言わないでください。

 そうすればもう邪魔されることもないんだから」


「瓦礫の世界とか、興味ないです」


 ジャンヌは、こちらを見つめ少し考える。


 コハの月子さんの家で、お茶を飲みながら、その日の行き先を相談する。

 そんな、のんびりとした空間のほうが、居心地が良い。


 しかし、ジャンヌは違ったようだ。

 一瞬、そのアバター体がブレて、そしてその姿を、幼い少女の物へと変化させた。

 その顔に少しプリスの面影がある。


「ねぇ、お願い」

 少女が、上目遣いでこちらに懇願する。


「……何のつもりだ?」


「あれ? ちっちゃい子連れてるから、そういう趣味かと思ったんですけど」


 ジャンヌはわざとらしく首を傾げる。


「ふざけるな」


 少し、声に怒気が交じる。


「それじゃ……」


 再度、ジャンヌのアバターが変化する。


「こっち、かな?」


「ッ!?」


 絶句。

 目の前にいるのは、リィリー。

 姿も、そして、声も。


「ねぇ、ジン、一緒にやろうよ」


 話し方も、同じ。

 いや、声が同じだからそう感じるのか。



 やられた……。

 その気になれば、誰の姿にもなれる、そういう事だろう。


 この先、出会う誰かは、ジャンヌかも知れない。

 その懸念が常に付きまとう。

 これは、結構な精神攻撃。そう思った。


 いっそ、ここで始末するか?

 いや、ここでPKした所で何も解決しない……。


 そんな戸惑いを感じ取ったのか、ジャンヌはリィリーの姿で続ける。


「そう言えば、ジンはPK設定、オンにしてるみたいね。

 気を付けないと、この先、死神の少女にいきなり殺されちゃうかも知れないよ?」


 リィリーと全く同じ様に笑いながら。

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