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115.イベントの裏で

 2月1日午前9時。

 ログインし、スランドにコンタクトを取る。


 新機能、ボイスチャット。


 ……いや、待て。


 スランドの前に。


『ジン?』


 リィリーがログインしている事を確認してそちらに連絡。


「やぁ、おはよう」


『おはよう。どうしたの?』


「いや、記念すべき一人目のボイスチャットなんで何となく」


『……まだ宿屋よね?』


「うん」


『だったら直接な話せば良くない? 隣同士なんだし。ちなみに私はもうスランドに連絡済みだから』


「……了解」


 思ったよりドライだった!

 こんなことで舞い上がっていた自分が恥ずかしい。


『下で待ってるから、スランドに連絡したら朝ごはんにしましょう』


 ついさっき食ったんだけどな。現実で。


「了解。じゃ下で。すぐ行く」


 リィリーとの会話を終了し、続いてスランドへ。


「おいす」


『少し遅れたな』


「すまんね」


『今のところ何も無い。次、一時間後にまた』


「了解」


 今日は、一時間毎にログインして、状況の確認をする約束になっている。

 もちろん、リアルの予定優先で無理な時間帯があっても構わないと言う話ではあったのだが。

 その一回目が今。

 メンテ明け一発目。

 ちょっと遅れたくらい良いじゃないか。


 今日に限っては、スランドと鹿島さんは細かにログイン時間のタイムスケジュールを組んでいるらしい。

 大変だなーと半ば他人事のように考えながら、宿屋の階段を降りていく。

 リィリーが待っているはずだ。



 10時、定刻、異常なし。

 11時、定刻、異常なし。

 12時、定刻、異常なし。

 13時、定刻、異常なし。

 14時、定刻、異常なし。

 15時、定刻、異常なし。

 16時、定刻、異常なし。

 17時、定刻、異常なし。

 18時、定刻、異常なし。



「これ、動きあるのか?」

 流石に愚痴の一つも言いたくなる。


『どうだろうか。鹿島とも相談したのだが、今日、日付が変わるまでここままなら体制解除だな』


「ふーん。何でその時間?」


『一応、こちらの世界で昼の間は目を光らせておこう、と言う話になった。

 それ以降は、明日に差し支えるしな』


「了解。

 このあと、19時丁度は入れないから少し遅れるけど、次は20時までインしないのか?」


「いや、19時半に一度インする予定だ。

 そこで合わせられるか?」


「了解。大丈夫。じゃ、次は19時半で」


 いざ事が起きた時に、連続ログイン制限に引っかかってしまってはマズいと言うことで、一時間おきの状況確認なのだが、事が起きないと不毛この上ない。

 ま、起きて欲しいわけじゃないけどね。



 そして、約束の19時半。


『動きがあった』


「マジか!?」


『ああ。北の山中にモンスターの集団が確認された。

 今、パンクドール以下数名のプレイヤーが駆逐に向かっている。

 リィリーも行ったみたいだぞ』


 モンスター集団、か。


『お前も行くか?』


 出遅れてるんだよな。

 パンクドールとリィリー、この二人がいたら目ぼしい獲物は全て刈り取られている気がする。


「んー、パスかな。

 戦力的には、問題ないんだろう?」


『それは大丈夫だろうな』


「じゃ、ここの警戒を続けよう」


『とはいえ、それ以外目立った動きは無いな。次は20時だ』


「へーい。了解」


 リィリーに様子を聞くか?

 いや、戦闘中だろうから止めておこう。



 20時。


『更に動きがあった』


「ほう」


『一度、こちらに来い。茶ぐらい出すぞ』


「ん、そりゃ良いけど、オレは動かなくて良いのか?」


『ま、こちらに来てからじっくり説明する。場所はわかるな?』


 キョウにある、将軍家の屋敷。

 その一番近くの宿屋。


「わかる。が、部屋までは知らん」


『猿の間だ。受付に聞け』


「了解」


『そして、途中の茶屋でわらび餅を買ってきてくれ。これ重要』


「……それが、呼び出す理由だな?」


「そんな事は、無い!」


 そう言って、スランドは一方的に会話を切った。




「で、何が起きた?」


 猿の間。

 小さなテーブルの上には、お茶が入った湯のみとオレが買ってきたわらび餅が並んでいる。

 部屋に、給湯設備は備え付けられていないので、宿の人に言って用意させたのだろう。


「まず、19時前、北にモンスターの集団が発生した。

 これは、言ったとおり、パンクドールとリィリーが討伐に向かった。

 今も交戦中とのことだ」


 スランドはわらび餅を平らげ、そして皿に残っていたきな粉と黒蜜をキャンパスにして爪楊枝で器用にキョウの町とその周辺の簡略図を描く。

 そして、皿の上方にモンスターを表しているのつもりであろうが、どうしてもふざけているとし思えない、可愛い猫の顔を描く。


「うん」


「そして、20時少し前、南からシシメタン伯爵という人物が、軍を率いてキョウへやって来た」


「軍を?」


「ああ。ただ、軍はキョウの南方の平原に展開したまま、動いていない。

 攻め込んできた、と言うより、護衛として、かなりの数の私兵を連れてきた、と言う事のようだ。

 兵を残して、伯爵とその護衛数名がキョウへ入ってきている。

 しかし、その軍へ睨みを利かすため、将王護衛兵団も町の外に陣を張っている。

 二式葉と左之助もそこにいる」


 皿の下には、兵隊を示す犬の絵。

 そして、町と犬の間に、横線を一本引く。

 この線が将王護衛兵団、ということだろう。


「ふむ。こちらの守りは綺麗におびき出されたわけか」


「結果として、そういう事になる」


「で、そのシシメタン伯爵、もしくは、護衛と言うのが本命?」


「まだわからん。今鹿島が情報を取りに行っている。

 とは言え、今何かが起きたら、動けるのは、ジン、お前だけだ」


 そう言って、町の真ん中に鎖を描く。


 でも、護衛兵団はともかく、モンスターを狩りに行った集団はその内帰ってくるだろう?


 そう言おうと瞬間、ズシンと大きな地響きがする。

 皿の上に描かれたスランドの傑作は一瞬にして、只のきな粉と黒蜜に戻ってしまった。


「「何だ?」」


 二人共、慌てて、窓の方へ近寄る。


 窓から、見えたものは、青色の空ではなく小豆色の壁であった。

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