114.フジコ
1月31日。
スランドの読み通りならば、メンテ明けの翌日、何かが起こる。
オレは、その兆候を探っている鹿島さんと会っていた。
と言っても、只の再会と軽い情報交換。
そして、WCOプレイヤーとの交流。
「それじゃ、後でねー」
リィリーも、同じくWCOプレイヤー達と女子会らしい。
「さて、我々も何処か入ろうか」
場を仕切るのは、鹿島さん。
「肉だ肉!」
そう言ったのは、イベントで共闘したパンクドールだった。
「じゃ、アッチにすき焼きの店があるな」
そう言って、鹿島さんが先導で移動を始めた。
「で、明日は何が起こるんだ?」
望み通り肉を頬張りながらパンクドールが、鹿島さんに問いかける。
「まだ何とも。
賊が、将軍を襲撃してくるか。
他に、考えられるのは、前に起きたような、モンスターの大量発生。
とある貴族が軍を率いて攻め込んでくるとか、そんな噂もある」
「狙いは聖剣なんだろ?
だったら、単純に将軍とやらを狙うんじゃないか?」
「その場合、話は単純なんだが……。
仮に、貴族が攻めこむ、なんて事なら一大事だ。
NPCを巻き込んだ大掛かりな仕掛け、根回しが必要だろう。
そして、その経過如何によっては、プレイヤーが関われる話で無くなる可能性もある」
「なるほど。噂の『フジコ』らしいやり口とも言えるな」
「そうだな」
「あの、その『フジコ』って?」
放っておくと、二人の会話に取り残されそうだ。
「ん、ああ、WCOのサービス開始直後から、何かを企んで、プレイヤーを誘導しようとしている人物がいる。
と言うのが、今のところ我々の一致している意見だ。
ただ、その人物に関しては、様々な意見があってね。
実は運営サイドの仕込みキャラで、イベントの進行役をしている、とか、ゲームバランスの崩壊を目的とした愉快犯だ、とか、そもそも都市伝説だなんて意見もある。
それで、嘘か本当か、その人物に唯一接触したプレイヤーがこう言っていた。
『凄い妖艶な美人だった。そう、まるで、ミネフジコの様に』と。
ミネフジコ、知っているか?」
聞いたことがあるような……。
「昔のアニメにそう言うキャラがいたそうだ。漫画だったかな。
変幻自在の謎の女盗賊。目的のためなら手段を選ばない絶世の美女。
暗躍している様が奇妙に重なった事もあるが、ネタとしてそう言う呼び名が定着した」
「へー。で、今回もそのフジコが動くと?」
「ま、そうだな。と言うか動いて欲しい。今までの噂を信じるならば彼女はなぜか魔王にご執着だ。
聖剣をエサにしているならば動く可能性は高いだろう」
「顔ぐらいは拝んでみたいな。ま、アバターで美女だから何だって話だが。
何にせよ、オレは大暴れ出来ればそれで良い。
満足行くまで暴れて、その後ビールを飲んで寝る。最高だ!」
二式葉みたいな事を言う、パンクドール。
再会するなり、もう敬語はヤメろと言われてしまった。
「同じようなことを言う知り合いが居ますよ。
今は新選組の真似事してますけど」
「ん、槍の奴か?」
「いえ、二刀流の方っす」
「あっちか。強いらしいな。
それにしても、物好きな奴らだ」
「物好き?」
「将王護衛兵団、だったか?
大層な名前つけているが、結局この後将軍と共に負けを歴史に刻む事になるだろう?
わざわざ敗者の側に立つなんてな」
それは、実際の歴史と照らしあわせての事か。
「それは、負け惜しみだろう?」
鹿島さんがニヤリと言う。
「負け惜しみ?」
どう言うことだ?
「この前の戦争。こっちはあれで負けたっきりだからね。
そのリベンジの機会を伺っているプレイヤーは未だに結構な数がいる。
そう言った所に、将王護衛兵団だなんて大層な名前でC2Oのプレイヤー達が乗り込んで来ている。
普通ならこんな状況、面白いわけ無いだろう」
なるほど。
禍根、未だ消えず、か。
「野良のプレイヤーなら挑んでもいいんだがなぁ。流石に今挑んで転職条件をフイにするのは避けたい」
仲良く闘技場、と言うのは無いようだ。
「転職条件って言うのは?」
「WCOのシステムでね。
通常転職できる上位職の他に、NPCとのイベントをこなすことで転職が可能になる、言わば隠しジョブみたいなものがある。
多大な恩恵がある分、相応に条件が厳しい」
「因みに、コイツは……」
「まぁまぁ、僕の事は良いじゃないか」
言いかけたパンクドールを鹿島さんが遮る。
何だろう、とても気になる。
そう言えば、鹿島さんの戦闘スタイル見たこと無いな。
純粋な物理アタッカーでは無さそうだけど……。
「しかし、その『フジコ』と言うのは、魔王を復活させてどうしたいんですかね?」
「それはそれで面白そうではあるがな」
ま、ゲームとして盛り上がりはするだろう。
「そうですね。でもそうなると悲しむ奴がいるので、オレは全力で阻止します」
「ほー? あの鎌の姉ちゃんか?」
パンクドールが下品な笑みを浮かべる。
「いや、別人です。NPC。ま、彼女も悲しむと思いますけど」
そういや、パンクドールはイベントでプリスと共闘してるな。
ま、敢えて言うこともないか。
「NPCか。まぁ、この世界の住人にとっちゃ迷惑この上ない話だよな。確かに」
「ま、その辺をどう受け止めるかは、人それぞれ、ですね。
個人的な意見としては、余り思い入れを持たない方が良いとは思っていますけれど」
忠告のつもりだろうか、鹿島さんはオレを見つめながら、静かにそう言った。
でも、もう、遅いです。
プリスは、愛すべき……何だろう? 妹、でもないし、まさか娘でもないな。
うーん、親戚の子どもみたいな感じか。すると月子さんはその母親、親戚のおばちゃんだな。
うん、こんなこと本人たちには絶対に言えやしない。




