113.再戦
それから、三日後。
二式葉への再戦を申し出る。
準備は整った、と思う。
称号の効果で全体的にスキルの精度が向上してる。
更に、リィリーとの関係により増えたスキルが一つ。
スキル:【絆】#必要SP 50
配偶の神使専用。
侍者に対し、補助効果向上(大)。
この、【絆】と言うスキル、他にも幾つか候補があったのだが、対象が全てリィリーに作用するスキルであったため、リィリーと相談の上これに決めた。
ちなみにリィリーの方も同じスキルを取得しているが、効果が異なる。
スキル:【絆】#必要SP 50
配偶の侍者専用。
神使に対する死へ至る一撃を肩代わりする。
紙防御の身としては有難いスキルだが、ダメージがリィリーに行くのは些か気が引ける。
ま、背に腹は変えられないが極力使わないくらいに強くなろう。
他に、【溟術】と【祈り】を融合させている。
スキル名は【溟術】のままではあるいが、その威力、精度は数段向上している。
キョウの闘技場。
観客席には、リィリー、スランド、そして、左之助さん。
目の前には、二式葉。
「たかだか、数週間で差が埋まるなんて甘い考えだ」
「それが出来たかどうか確かめに来たんだよ。じゃ、約束通り一本勝負で」
「ああ」
一本勝負。
何度やっても同じだと言う、二式葉の意見でそうなった。
逆に、好都合である。
オレの切り札。タネがバレると弱い。
ならばその前に、勝ちを拾おう。
[0]
試合開始と共に、両手に溟剣を出現させる。
そして「溟盾」。
二式葉は?
待ちの構えか。
ならば、全力で行こう。
「纏風」
AGIを強化しつつ、じっくりと間合いを詰める。
「雨燕」
突進を伴う武技で、一気に間合いを詰める。
しかし、二式葉はそれを半身になるだけで躱す。
そして、そこは二式葉の間合い。
手にして二刀から剣戟が繰り出される。
盾と剣で防ぎながら、後ろに飛んで距離を取る。
「岩盾」
追撃に来る二式葉の前にモノリスを出現させ、視界を遮る。
「溟風」
千里眼を飛ばし、壁を回り込もうとする二式葉の進行方向から溟風を浴びせつつ、反対から壁を回りこむ。
「圧風」
二式葉の体勢を崩して、武技を。
そう放った魔法は、しかし、二式葉の体勢を崩すには至らない。
構わず、間合いを詰めつつ両手の溟剣を振るう。
しかし、刀で軽くいなした二式葉の反撃が襲い来る。
ミノさん六頭の攻撃にも匹敵する、鋭い連撃。
辛うじて、その全てを交わしつつ、再度距離を置く。
間合いの先の、二式葉が、左手の刀を鞘にしまう。
そして、鬼神化。
朱いオーラが、二式葉を包む。
今まで、出させなかった奥の手。
次の瞬間、今までの比でないその速度で、間合いを詰めた二式葉が眼前に迫る。
「戦果の天秤」
半身になって躱す、そのつもりであったが、予想以上の速さ。
強化されているはずの溟盾をも砕き、肩口を二式葉の刀が捉える、その瞬間を狙いダメージを無効化。
戦争で肩代わりした総ダメージが解消したのは、つい先日。
前回は使えなかった切り札。
ダメージ覚悟で突っ込んできた二式葉をカウンターの形で斬りつける。
しかし、その一撃すら、致命傷には程遠い。
距離を取るのは、不利か。
「溟風」
溟術を放ちながら、それに合わせ、二式葉に突っ込む。
溟風の氷に、オレ自身のHPを削られながら身を投げうち武技を放っていく。
「月時雨」
冥術に気を取られたその一瞬、確かにオレの武技が二式葉の肩口から袈裟斬りに一撃を与えた。
しかし、それでも足りないか……。
渾身の一撃を受け、それでも尚、体勢を崩さない二式葉の一刀が、オレの胴を薙いだ。
オレのアバター体が光の粒子と化す。
それを確認し、鬼神化を解き脱力した瞬間、魔法陣と共にオレの霊体が二式葉の眼前に現れる。
次の瞬間、右手に出現させた溟剣が二式葉の腹部に深々と突き刺さっていた。
そして、止め。
剣を持つ右腕に左手を添える。
「死の触手」
二式葉のアバター体内部の溟剣が、魔力に応じ、その刀身を全方向へ成長するように急激に伸長する。
二式葉の体を突き破り、氷の刃が生える。それも、一本や二本ではない。
次の瞬間、二式葉のアバターは光の粒子となり、掻き消えた。
樹木のように刃の枝を大きく広げてた溟剣を消滅させ、観客席に戻る。
霊化は、状態異常扱いなのか、観客席に戻ると同時に解消されていた。
満面の笑みで出迎えたリィリーとハイタッチを交す。
「もう一戦だ!」
激昂した二式葉が、詰め寄ってくる。
「嫌だよ」
「ふざけるな!」
「一回勝負って言ったのはそっちだろ?」
「勝ち逃げは許さん」
「勝目がないから逃げるんだろ? タネがバレた手品に価値は無い。
でも、今回はオレの勝ちだ!」
「落ち着け、二式葉。
ジンの言う通りだ」
スランドが助け舟を出してくれる。
「クソ、油断した……」
「最後は油断だとしても、鬼神化まで使わせたんだ。十分だろう」
「次、私の番だけど?」
リィリーが二式葉にそう問いかける。
「最早、そんな気分ではない……」
そりゃそうだろう。
オレが知る限り、この人が死に戻った記憶は無い。
「あら、残念。じゃ、私の不戦勝と言うことで」
「好きにしろ」
「よし、じゃ、オレが相手になろう」
遠巻きに様子を眺めていた、左之助さんがそう申し出た。
「共闘することになるなら、その力は見ておきたい。
ま、問題無いだろうが、一応な」
ふむ。
槍か。
相性は悪く無いはず。
「良いですよ。じゃ、一本勝負で」
「ああ」
大丈夫だろう。
リィリーも、相応に強くなっている。
闘技場の上、対峙する二人。
カウント、ゼロ。
リィリーが飛び込む。
「どう見る?」
スランドが勝負の行方を問いかけてきた。
「左之助さんとは戦ったことがないからな。ま、リィリーが勝つよ」
「そうか」
リィリーの大鎌と、舞うような体術が左之助さんを襲う。
「なぁ、気になってたんだけど」
「何だ?」
それを捌きながら、伸ばす槍がリィリーを捉える。
「前、会った時さ、スランド、オレに勝てるとそう思っただろ?」
「……ああ。そうだな」
被弾に構わず、鎌を振るい続けるリィリー。
「やっぱり。幾分ってそう言う意味だったか」
「気付いていたか」
槍の柄を上手に使い、鎌の刃を捌いていく。
戦闘の巧みさは左之助さんの方が上か?
「で、今日、改めてどう思った?まだ、勝てる気でいる?」
「さあな。タネがバレた手品に価値は無い、そうだろ?」
そう言って、スランドは不敵な笑みを浮かべた。
コイツも、何か隠し持ってる口か。
「相変わらず、被弾が多いな。アイツは」
戦いの様子を眺めていた二式葉がそう、感想を口にした。
「実戦になったら、オレがフォローするよ」
それに対して反応は無かった。
そして、闘技場の上は決着が付きそうである。
体を大きく捻らせ、右手の大鎌が左之助さんの胴を狙う。
槍を立て、柄でその一撃を受け止める。
しかし、その直前、リィリーの右手に大鎌が消滅。
その勢いのまま更に反転、左手の大鎌が左之助さんの首へ刃を突き立てた。
[オーパーツ 転送]。
それを、リィリーの武器の強化に使用した。
彼女は時として、大鎌を投げる事もあるし、そして、今のような奇襲の攻撃にも使える。
戦闘スタイルにピッタリとハマったわけだ。
「今のは?」
「イベントアイテムによる、武器強化」
「なるほど」
先に転送されて来たのは左之助さん。
「くあー負けた!」
続いて勝者のリィリー。
ハイタッチで出迎える。
「二人の実力は分かった。是非、力を貸して欲しい」
オレとリィリーを見ながら、スランドが言う。
「ああ、もちろん」
「細かい話は、後でメッセで送る。ただな、まだ何が起こるか、そもそも本当に何か起こるのか、誰も確信が持てていない」




