105.再会
出発してから九日目。
西の中心地、キョウに着いた。
これから、数日かけて東、コハまで戻る予定だった。
しかし、予定外の再会によって、穏やかな旅路は突如として終りを迎える。
「スランドが、こっちにいるからみんなと会いたいって」
「へー。そう言えば、あれ以来合ってないな」
「ずーっと、こっちにいるみたい。折角だから行きましょう。あっちのお店」
リィリーに案内され、キョウの街中にある食事屋に入る。
スランドは既に個室で待っているらしい。
「よく来た」
「久しぶり!」
「よ!」
と、軽く手を上げて、挨拶をする。
「よ!」
すかさず、プリスが真似をする。
「お久しぶりね」
「聞けば旅行中だとか。どうですか? こちらは」
「美味しい食べ物やさんがいっぱいあったわ」
でしょうね。
皆さん、ずっと食べてましたもんね。
「まぁ、座って適当に頼んで下さい。後から、もう一人来ます」
「スランドは、今、何してんの?」
椅子に腰を下ろしながら尋ねる。
注文は、三人に任せよう。
「将軍の護衛で、ずっとこっちにいる」
「ふーん。そう言うのってNPCとがやると思ってた」
「基本はそうだな。ただし、まぁ、プレイヤーから襲撃があったとしたら私達の出番だ」
「襲撃って、そんな事あるの?」
「あってからでは遅いからな。安全だと確信できるまでは付いているつもりだ」
「なんか、大変そうだな」
「ま、一人ではないからな。鹿島達とも連携を取っているし」
「あ、そう。鹿島さんは元気? 結構プレイヤーがこっちに移ったって聞いたけど」
「相変わらず色々抱え込んで大変そうにしている。プレイヤーの流失もその一つだな。まぁ、当人もアカウントの引き継ぎが出来るようになったら移ろうかと言っているが」
「引き継ぎとか、出来るようになるの?」
「知らん。ならないと思う」
そう言って、スランドは微かに苦笑を浮かべた。
一頻り、会話が終わった後に、スランドの言っていた、『もう一人』が姿を現した。
「ここか?」
入ってきたのは、オレンジ色の髪をベリーショートにした、軽鎧の女性だった。
「皆、既に揃っていたか、久しぶりだな」
ん?
久しぶり?
いや、この声は……。
「二式葉か!?」
「ん? そんなに驚く事無いだろう」
「いや、だって、別人じゃないか」
「髪切ったー!!」
プリスが、飛んで二式葉に抱きつく。
「そう。切ったんだ。プリスもちょっと大きくなったか?」
なったかな?
「何時からこっちにいるの?」
戦争以降、表に出てきてないはずだ。
「スランドと一緒にこっちに来た。同じ様な事をしている」
「将軍の警護?」
「そうだな。それと市中の見回り」
「見回りって、何を見まわってるんだ?」
「不逞な輩だ」
……それって、まさか。
「新選組か?」
「『将王護衛兵団』と言う名前になっている。
ま、やってることは似たようなものだな。
街中の警備はもっぱらNPCの担当だ。
私は、外に狩りに行っている。普段は向こうとあまり変わらん」
自嘲気味に言ってはいるが、しかし、その顔からは笑みがこぼれている。
「ふーん。団長、いや、局長もいるの?」
「いるぞ。NPCだが、無骨な良い武人だ」
「ひょっとして、左之助さんも、一緒にいる?」
リィリーが、元クラウディオスNo.3の名を口にした。
「いるぞ!」
「やっぱり。それでギルド抜けたのかー」
まぁ、槍使いで、プレイヤーネームが左之助なら、新選組には飛びつくだろう。
「隊服とかあるの?」
「いや、流石にそこまではやってない。どうだ?興味あるか?」
いや、無いよ。
「あんまり」
「そうか……」
西側の状況を色々と聞きながら、大量の食事はあっという間に消えていく。
しかし、月子さんとプリスはこの後、どこでデザートを食べるかの相談をしているから恐ろしい。
「久しぶりに、戦わないか?」
店を出てすぐ、二式葉がそう提案してきた。
「いいね。場所は?」
「ここにも闘技場がある。そこに行こう」
「じゃ、私達はデザートを食べに行くわ。終わったら連絡頂戴。
プリスちゃん何食べる?」
「んー、あんみつか、ぜんざいか……これは、難問」
「両方にする?」
「そうする!!」
そんな会話をしながら二人は目当ての店の方へ歩いて行った。
「あれ?行かないの?」
そんな二人を指さしながら同行せずここにとどまるリィリーに質問をする。
「あんみつとぜんざいは捨てがたい……。けど、ほら、実質ナンバーワンとしては、この戦いは見逃す訳にはいかないの」
「実質ナンバーワン?」
二式葉が首を傾げる。
「今は、私がチャンピオンって事。この人より上なのよ」
「ほう。私の居ないところで随分と面白いことになっているようだな。
よし、二人まとめて返り討ちにしてやろう」
完敗。三戦全敗。
何も出来なかった……。
二式葉に至っては、『鬼神化』すら使っていない。
つまり、闘技大会前に戦った時より、差が開いている訳だ……。
それなりに勝負になる。あわよくば、何て考えは初戦で消し飛んだ。
それでも、一矢報いれないかとあがいた惨めな残り二戦だった。
いま、闘技場の上ではリィリーが二式葉に挑んでいる。
二式葉が圧倒的に優勢だが、それでもリィリーはオレよりも良い勝負をしている様だ。
「まあ、あまり気にするな」
スランドがそう声をかけてきた。
「気にするよ……」
「あれはレベルカンストだからな。並の鍛え方じゃない。
ま、レベルが全てと言う訳ではないが、目安にはなる」
「カンスト……。いくつだ?100か?」
「そうだ。まぁ、私もそこまでは行ってないから確かめた訳じゃないが」
オレの倍。
「実は、また力を貸して欲しい」
今、ボロ雑巾の様に負けたオレに言うか?
「おそらく、この先、ここへ襲撃がある。
今、その対処をするために力を持つプレイヤーを選別して声をかけている」
「おそらく?」
「ああ。おそらく、だ。
実は、それが私達がここにいる目的でもある」
「どういう事だ?」
「将軍は、キョウに聖剣を携えてやって来た」
聖剣。
魔王の封印を解く鍵。
普段ならば、ルノーチの城内にあるはずだ。
「エサ……か」
「そうだ。その情報を流しておびき寄せる」
「出てくるのか?」
「お前ならどうする?」
「狙うね。日を見定め、計画を練る」
「だろう?実は、二月三日に将軍はオーシカーから海上列車で東に戻る予定となっている。
そこまでの間で狙うとしたら何時だ?」
「その列車を襲う」
「それは、システム上無理な様だ。
だから、それまでの間に、襲撃を仕掛けてくる。
可能性として一番大きいのが二月一日だ」
「何故?」
「その日に新マップがオープンするからだ。空中庭園。知らないのか?」
「あー、運営からのメッセージ来てたな。ちゃんと見てない」
「なので、当然通常マップからは人が少なくなると予想される。
人が少なければその分、邪魔が入る可能性が少なくなる。
と、言うのが鹿島の意見だ」
「ふーん。しかし、エサが大きすぎないか? 万が一を考えたほうが良い。将軍様は承知してるのか?」
聖剣は将軍家が命を賭して守り継ぐ物のはず。
「いや、将軍の耳に入れていない」
だろうな。
反対するに決まってる。
スランド達は、単純に聖剣をただのイベントアイテムとしか認識していないのだろう。
闘技場は、決着が付いたようだ。
リィリーも奮戦したが、やはり二式葉の三連勝。
二人が客席に戻ってくる。
「スランド、見込み違いだった」
そう、二式葉が言い放った。
「……そうは言っても、他にアテはない。幾分マシだろう」
幾分……。
そう言ったか?
「いや、邪魔になるくらいなら居ないほうが良い。足手まといになるだけだ」
「何の話?」
リィリーが険しい顔で聞き返す。
「何でもない。こちらの話だ」
「足手まといって事は無いだろう?」
流石に、黙っていられない。
「話したのか?」
二式葉は、スランドに尋ねる。
「話した」
「そうか。
ならわかるな? 失敗は許されない。
機械人形に四苦八苦している様を見て、もしやとは思ったが、今日戦って確信した。
鍛錬が足りない。
お前に以前の強さは最早無い」
そう言うと、二式葉は一人闘技場から出て行った。
……何も言い返せなかった。
「全く。どこまでも自分勝手だな。あいつは。
気にするな。たかがゲーム、のんびりと旅をするのも、楽しみ方の一つだ。
ただな、さっき言ったことは忘れてくれ。
当分ここにいるから、また会おう。
今度は鹿島も呼ぶ。改めてちゃんと礼したいと言っていたしな」
そう言い残し、スランドも闘技場を後にした。
残されたのはオレと、事情を理解していないリィリーだけだった。
「クッソ!」
オレは、闘技場の椅子を蹴り上げていた。
一つ挟んだ席にリィリーが腰を下ろす。
「ちゃんと、説明して」
そう、静かに言った。




