98.サバイバルイベント 二日目①
翌日、ログインするとフレンドから応援のメッセージが。
それだけ、注目されてるって事か。
その中で、リィリーから来ていたメッセージには、機械人形の具体的な対処法に言及が合った。
機械人形達は、魔力を主な目印にして索敵を行っているらしい。
冥術の夜闇ならば視界、魔力のレーダー両方にジャミングを掛けれるため効果的であろう、との事。
調べてくれたのか。
これは、ありがたい情報だ。
各々に返礼をしつつ、下に降りる。
イベント開始まで、もう間も無くだ。
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「これは……」
転送された、フィールドで絶句してしまう。
目の前は、真っ白の雪景色だった。
「さむ……」
あまりの景色に、呆然としてしまったが、プリスのつぶやきで我に返る。
プリスは、両腕を出した、ワンピース姿。
天使であろうと、寒いのだろう。
しかし、困ったことに他に服など持ちあわせておらず……。
「ちょっと大きいけど、これを羽織ってろ」
メニューを操作し、オレの黒鱗のコートをプリスに渡す。
オレのサイズで作られたはずだが、プリスが身につけると、その身に合わせ少し小さくなる。
背中から翼が飛び出しているのは、どういう仕組だろう。
しかし、それでも袖などは長そうでこれだと弓は使えないか? クロスボウなら辛うじて大丈夫か、等とぼんやりと考える。
「おお、ちょっとあったかい。でも、ジンは?」
オレの方も、流石に、雪に中シャツ一枚というわけには行かない。
本当の雪国の比では無いだろうが、微かに体に寒さを感じる。
アイテムから、ローブを取り出し羽織る。
「これで、何とかなるだろう」
気休め程度だが。
さて、雪の中に突っ立っていても仕方ない。
とは言え、周りは雪一色。
点々とオレと同じ様に転送されてきたプレイヤーの姿が見えるのみ。
中央が開けた盆地になっていて、周囲を山が囲っている。
そんなフィールドの様だ。
んー、雪合戦でもするか?
新雪を踏みしだきながら、歩く。
プリスが、オレに雪玉を投げてくるがその直撃を許す訳がない。
躱してお返しとばかりに雪玉を投げつける。
当然のように避けられるのだが。
雪遊びをしながら、フィールドを当てもなく彷徨う。
上空から見ても、敵の姿はない。
イベントの目的が全くわからない。
ただ、リィリーがくれた情報は、全く役に立ちそうになかった。
「あっちに、穴があるよー」
プリスが指差す方には、崖下にポッカリと洞窟が開いていた。
「一度そこに避難しよう。寒い!」
洞穴の前には既に足跡があり、何者かが中にはいった形跡がある。
それも、複数名。
このまま入っても平気だろうか。
躊躇する、オレを横目にプリスが洞穴に中に飛んで入ってしまう。
「こんにちはー」
PKの標的になるかも、何て心配は彼女には無縁だったか。
慌てて後を追いかける。
「お邪魔しまーす」
努めて明るく言ったのだが、中から返事はなかった。
洞穴は高さ二メートル程か。
奥行きは五メートルも無いだろう。
その際、奥に三人のプレイヤーの姿があった。
「いや、凄いところですね。僕らも避難させてもらっていいですか?」
「……どうぞ」
努めて明るく言ってみたのだが、返事に警戒の色がある。
おそらく皆WCOのプレイヤーだろう。
奥まで入らず、入り口付近で距離を保ったまま、プリスと二人、ちらつき出した雪を避けることにした。
「ねぇ、貴方、有名人よね?」
どれくらい、そうしていただろうか。
沈黙に耐え切れなくなったのか、奥からオレに声が掛けられた。
「そうですね。それなりに名前は知られているみたいです」
笑顔を作りながら答える。
「確か、鎖さん?」
それは、名前じゃないから。
「ジンと言いいます。鎖は、何というか通り名みたいなもんですね」
ここで、『変身!』とかやって縛鎖姿に早変わりしたら、受けるだろうかね。
あれはもう持って無いけど。
「私は、ウエラ。WCOのプレイヤー。そっち行っても良い?」
「ええ」
確認の後、こちらに近寄ってきたのは回復役風の格好をした女性プレイヤーだ。
「この子は?」
視線が、プリスに注がれる。
「召喚獣みたいなものです」
「プリスです。よろしく!」
「あ、やっぱりしゃべるんだ。
よろしく、プリス」
すっかり、警戒を解いた顔でプリスに笑いかけた。
状況に変化があったのは、互いに、探り探りの会話で情報交換を始めた頃だった。
ズシーン、と言う、地響きが雪山を揺らす。
慌てて洞穴から顔を出し、原因を探る。
フィールドの中央に、高さ30メートルはあろうかという、巨人が佇んでいた。
その顔には、一つの目。
モンスター:【サイクロプス】 #レベル???
単眼の巨人。
人を食らうとも。
アイツと、戦えということですかね?
しかし、巨人は暴れる様子もなく呆然とそこに佇んだままである。
振動に驚き、奥にいたプレイヤー達も入り口まで這い出てきた。
全員、言葉が無い。
当然だろう。どうすればいいかわからないのだ。
仕掛けて、勝算は?
無さそうだ。
一人、二人でどうこうできる相手では無い、と思う。
昨日の生存者数がおよそ500人。
その全員がこのフィールドに転送されていたとして、全員で仕留めるか?
無理だ。
分断されて意思の疎通すらままならない。
「どうするの?アレ……」
ウエラが、誰に向けるでもなく呟く。
その直後、巨人の足元で小さな爆発が起きる。
暴走か? 誰かが、仕掛けた。
それが、巨人にとって一体どれほどのダメージだったのかは不明だが、向けられた敵意に対し、明確な拒絶反応を見せた。
手にした巨大な棍棒を振り回し、辺り構わず地面に打ち付ける。
その度に、周囲には、地震と錯覚するような振動が走る。
ここにいて、雪崩でも起きたら生き埋めになるのだろうか。
しかし、あんなもの、止めようがない……。
だが、そう思わないプレイヤーも中にはいる。オレには、信じられない事だったが。
巨人の上空から急襲し、炎の息を浴びせつけるドラゴン。
見覚えのある、その姿は桜の召喚獣、プラムだろう。
躊躇した自分が恥ずかしかった。
「プリス、オレ達も行こう!」
返事を待たずに、飛び出した。
雪の斜面を駆け下りる。
振り返る余裕すら無いが、後続はプリスだけの様だ。
「プリス、先に行け。アイツの目玉に、お前の矢をお見舞いしてこい!」
「らじゃ!!」
元気よく返事をすると、天使はあっという間にオレを置き去りにし飛び去った。
中心では怪獣大戦争の様相だが、オレはそこにたどり着くまで一苦労。
斜面を文字通り、転がり落ち、雪を掻き分け一歩一歩進む。
雪が、邪魔だ!
オレと巨人の間に他のプレイヤーがいないことを、確認。
メニューを開いて、術式融合を組み立てる。
広範囲に、炎と風を。全MPぶち込んで雪を溶かしてやる。
「炎嵐・全魔力」
周囲を炎が荒れ狂い、雪を溶かして行く。
大失敗!
残ったのは、巨大な水溜り。
まるで泥沼。
巨人が、こちらに気付き、オレ目掛けて棍棒を振り下ろそうとするのが見えた。
直後、巨人は一瞬顔を後ろにのけぞらせた後、手で顔、いや、目を抑え屈みこむ。
クロスボウを構えたプリスがオレのもとに飛び寄ってくる。
「やり過ぎー!」
「アレは、プリスのお陰?」
「そう。ジンに注意が向いた隙!」
ドヤ顔のプリス。
「さすが!」
視界を完全に潰されたであろう、巨人はしゃがんだまま、両手をデタラメに振り回す。
手が、空を切る。
立ち上がり、一歩踏み出す。
その下、そこは、まさに今、オレが大火力で泥沼にした場所だった。
泥に、足を滑らせ、盛大に地面に転ぶ巨人。
今までで一番大きな振動が辺りを揺らす。
そして、その巨体へ全方位から魔法が、弓が、そしてプレイヤー自身が飛びついて行く。
命知らずのバカ共がこんなにいたのか。
オレは、MPポーションを使いながら、目の前の泥の中へ、巨人目掛けて駈け出した。




