96.サバイバルイベント 一日目①
「なんだ、これ……」
オレは、眼下に広がる光景を目の当たりにして、絶句した。
殺戮、蹂躙そう表現しても差し支えないような光景が、そこにあった。
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「じゃ、今回は敵同士と言うことで。
ま、他に誰もいなかったらその時は共闘しましょう」
月子さん宅のリビング。
リィリーとイベントに向けての話し合い。
サバイバルバトル。PKあり。
詳細は、それしか明かされていない。
全ては、始まってからのお楽しみ、という事だろう。
リィリーは、Creator's Homeの一員としての参加になる。
一方、オレはどこにも属さず一人。
ま、月子さんが不参加ということなので、プリスと共に参加することになるので二人とも言えるが。
公表された、最終的な参加者は三万近く。
イベントフィールドが、どの程度の広さかわからないが、周りに三万人の敵がいることになる。
ギルドに所属していれば、当然共闘することになるので、その分有利と言える。
内部で裏切りとかおきない限りは。
とは言え、オレと同じくソロで参加するプレイヤーであれば、一時的な共闘をすることも可能だろう。
裏切りの恐怖に怯えながら、と言う条件付きになるが。
ま、始まる前からあれこれ心配してもしょうが無い。
まさに出たとこ勝負。
「お互いに、最終日まで残れるといいね」
「最後の二人になったら、その時は、譲ってくれたりするのかしら?」
「まさか。この前の雪辱もあるし」
そう、闘技場の雪辱がまだだ。
「そっか。この前、楓にジンが勝って、それに私が勝ったらか、実質私が一位なのね。ふふ、返り討ちにしてあげる!
と、そろそろね。じゃ、私はギルドの方に行くわね」
[転送開始まで3分]
仮想ウインドウにそう、表示されていた。
「さて、プリス、おさらいだ」
「はーい。最初は高く飛ばない。無茶をしない。でしょ?」
「そう。頑張ろうな」
「うん」
「大丈夫よ。今のプリスちゃんなら何が来ても返り討ちに出来るわ」
「へへー」
確かに。
現在のオレ達のステータス。
【ジン】 #LV.46
HP:146
MP:629
STR:44
VIT:34
AGI:166
DEX:125
INT:249
MIN:88
SP:50
スキル:
【長剣】【細剣】【短剣】【棍棒】【体術】
【二刀流】【溟剣・二刀流】
【火魔法】【雷魔法】【土魔法】【風魔法】
【溟術】
【鑑定】【識別】【隠遁】【集中】【気配察知】【千里眼】【転移】【突進】【跳躍】【技能融合】【救魂】【取憑】【死霊契約】【戦禍の天秤】【幸運】
【言霊の宿る手】【術式融合】【死霊使役・詠唱破棄】【変装】【偽装】【完全耐性】
称号:
【解呪者】
【魔導実践者】
【技能体得者】
【夜と死の神の神使】
【夜と死の神の祝福】
【雨の女神の祝福】
【優良健康体】
【プリシア・リブ・ビアーシェ】エンジェル #LV.60
HP:136【+27】
MP:989【+197】
STR:31【+6】
VIT:19【+3】
AGI:172【+34】
DEX:310【+62】
INT:342【+68】
MIN:164【+32】
【】は契約霊強化による補正値
スキル:
【弓技】【弩技】【天聖技】【神聖術】【加護】【冥術】【聖歌】【呪歌】【浮遊】【料理】【お菓子作り】【仮装】【霊化(物理攻撃無効)】【魔術耐性(中)】
プリンとして、月子さんが連れ回しているのでここまで差がついてしまった。
さらに、仮装と言うスキルまで。
ま、これには触れまい。
オレの方は、レアドロップ率を上げるため幸運スキルを取得した。
効果があるのかイマイチはっきりしないスキルではあるのだが、結果的に、とても大きなお返しを貰えたのでオレ的には絶大な効果と言える。
[カウント 10……9……]
「じゃ、行ってきます」
「行ってきます」
「行ってらっしゃい」
月子さんが、手を振った瞬間、景色が入れ替わる。
転送されたのは、街中だった。
建物の風化が始まっているので、おそらく廃墟だろう。
ただし、その様相は、ルノーチ、センヨーと行った見慣れた中世風と異なる。
もっと、未来的。
そんな雰囲気を感じる景色だった。
ただ、どこかで見たことがあるような……。
しかし、のんびりと観察している暇は無い。
素早く建物の影に身を隠し、千里眼で上から様子を探る、それが最優先だ。
■■■■■
廃墟の中を、大量に動いているのは、デウス・エクス・マキナ。
以前、フィールドボスとして相対した敵だ。
それが、そこかしこに居る。
うっじゃうじゃいる。
そして、逃げ惑うイベント参加プレイヤー達。
しかし、そんなプレイヤーの行く手を遮るように、転移する、デウス・エクス・マキナに成す術無く、HPを全損させられて行く。
三日間、見つからずに逃げ切れ。
そんな、イベントなのか?
「ジン、何かくるよ」
プリスの警告。
千里眼を解除し、様子を窺う。
今オレ達がいるのは、建物の二階。
ワンフロアに、テーブルと椅子が置かれている。
壁にはソファー。
おそらく、飲食店、コーヒーショップの飲食スペースだったのだろう。
ここへの通路は階段のみ。
追い込まれたら、窓を突き破って逃げるしか無いか?
ここに入りこんだのは失敗だったな。
考慮が足らなかった。
階下から、物音が聞こえる。
静かに窓際に移動しプリスと二人、息を殺して待つ。
やがて、静かに階下から上がってきたのは……。
モンスター:【デウス・エクス・マキナ Model Production】 #レベル??
魔法技術により製造された機械仕掛けの兵器。
その技術は失われて久しい。
戦うには少し、狭い。
ならば、逃げるか。
しかし、どうやって?
幸い、まだ気付かれてはいない様だが……。
弱点は確か、頭部と、下半身の宝石。
……いや、待てよ。
試して見る価値は、あるか?
ずっと逃げ切れはしないだろう。
ならば、緒を掴み取りたい。
よし。
人差し指を、口に当て、プリスに静かに、と言うジェスチャーを送る。
「纏風」
強化を掛け、機械人形の前へ一気に飛び出す。
こちらの姿を捉え、そして攻撃の体勢と取る、デウス・エクス・マキナ。その正面へ一気に間合いを詰める。
「暗檻」
敵の攻撃が、実行される前に、魔法の檻へ閉じ込める。
「プリス、吸魔でコイツのMPを全部吸い出せ」
「らじゃ」
相手が、魔法で作られた、兵器なら、MP枯渇すれば、動きは止まるだろ。
勘だ。
それくらいの弱点は、あるだろ?
あってくれ。
牢の中で、MPを吸い付きされた機械人形は、静かにその動きを止めた。
「ふう」
牢を解除する。
地面に、転がった機械人形。
まだ、微かの青く光る頭部の宝石へ、溟剣を突き立てる。
それが、失敗だった。
次の瞬間、機械人形は、盛大な爆炎と爆音を発しオレを吹き飛ばした。
ガラスの窓を突き破って、外へ投げ出される。
そのまま、二階の高さから、地面に叩きつけられた。
辛うじて、HPが1残ったのは、完全耐性のせいか、それとも幸運のお陰か。
とっさに、プリスが近寄ってきて、HPを回復。
プリスは無傷か。
回復を受けながら、千里眼を上空へ。
今の爆音を聞きつけ、四方から機械人形が迫るのが見える。
「バカじゃねーの!?
プリス、逃げるぞ!!」
こんなのどうしろと言うんだ。




