89.麗しいお姫様
「ただいまー」
月子さんの家に戻って来た。
「おかえりー」
中から返事をしたのはリィリーだった。
「あれ、一人?」
「うん。二人はお手伝いに出掛けたわ」
朽ち果てた塔の攻略のお手伝い。
大分、荒稼ぎしているらしいが。
「それで、どうだった? 上手く会えた?」
「ああ。センヨーまで送り届けてきたよ」
ハイドラとミネアは無事に、冒険の導き手までたどり着き、一通りギルドメンバーと交流が済んだのを見届けて帰ってきた。
「何か飲む?」
「それじゃ、暖かい紅茶を。ミルクで」
「了解」
一旦、リビングのテーブルに腰を下ろしたが、窓から夕暮れの町並みが見えたので庭に出て眺める。
そこにリィリーがティーセットを運んできた。
「お待たせ」
ウッドデッキの上のテーブルにティーカップを並べる。
「ありがとう」
「どういたしまして」
「そう言えば23日に、ギルドでパーティーやるって言ってた。一緒に行く?」
「あ、ごめん。23はウチのギルドもだ」
「そうか。それは残念」
「それと、月子さんがここでもパーティーやりたがってたけど、その、24か25、ジンの予定は?」
「特に無いよ。残念ながら」
「ふーん。それは、残念ね」
……よし。
「ああ。実に残念だ。どこかの麗しいお姫様でも一緒に居てくれたらな、と思うんだけど」
「ジン、現実にお姫様は居ないのよ?」
さらっと、笑顔で躱された。
「まぁ、オレも王子様じゃないしな……」
視界の済に、警告が出る。
「あ、ごめん。そろそろ時間だ。紅茶美味しかったよ」
連続ログインの上限、五分前だった。
「どういたしまして。じゃ、また明日」
「うん。また明日」




