87.交流
「あれ?プリンちゃんは?」
「置いてきたし、プリンちゃんじゃねーから」
東西にゲームを分断していた関所。
その、東側のポータル。
約束より、少し遅れてやって来たのは田中こと、フェンリルナイトだ。
関所の開放が発表されたのは、桜楓のコンビが優勝を飾った闘技大会から一週間後。
「しかし、すげー人だな」
周りを見渡しながら言ったのは秋丸。
発表から一週間。今日が、その開放の日。
新マップ。
そして、プレイヤー交流。
そう言った、期待を胸に今まさに旅立つプレイヤー達でごった返していた。
オレ達三人も、ここで西からの訪問者を待っていた。
待ち人は、クラスメイトの倉本。
こちらではハイドラ。
二つのゲームの交流に伴い、PKは個人の設定で、有無が選択できるようになった。
NPCへの攻撃行為は、即ペナルティになるとの告知もあった。
スランドによると、明日、こちらの十四代将軍がキョウへ赴くらしい。
和平工作は上手く行った様だ。
オレ達が魔人召喚の邪魔をした事もプラスに働いたとの事。
それに伴い、闘技大会上位入賞者の内、希望者数名が護衛名目で同行するらしい。
優勝者である、桜と楓は辞退した様だが。
併せて、両ゲームで、新イベントが告知された。
【集めろプレゼント。サンタを助けて】
期間内に、モンスターを退治すると、稀に『プレゼント』と言うイベントアイテムがドロップ。
期間、二週間の間により多くの『プレゼント』を集めたプレイヤー上位が、賞品ゲット。
まぁ、ランキングイベントだ。
内容を見て、早々にオレは能動的不参加を決めこんだ。
こういうイベントは、根気とそして、それ以上に張り付く時間が必要。
正直、学生の身には厳しいのである。
人混みの中、こちらに手を上げる戦士の姿が見える。
ハイドラだ。
手を上げ返す。
その横に、見知った顔が二つ。
鹿島さん、それに、忘れもしないあのメガネ。
「よう、久しぶり、と、初めましてだな」
倉本には、既にオレがWCOにいた事情を話してある。
「久しぶり。ようこそC2Oへ」
ハイドラが秋丸達と自己紹介をする間、オレは鹿島さんの元へ。
「お久しぶりです」
「ああ。あの時はロクに礼も言えないままで。
君のお陰で、今日ここまで来ることが出来ました。
本当に、ありがとう」
「オレなんて、大したことはしてません。
好き勝手暴れただけですよ」
「ハイドラが、君に合うと聞いて、我儘を言って付いて来たんです。
こうして、一言お礼を言いたくて。
本当は、一緒にそちらの世界に行きたんですが、明日の警護等で忙しくて、すぐに戻らないといけないんです」
鹿島さんは、そう言って、心底残念そうな顔をした。
「今度、時間の取れるときに冒険しましょう。
スランドも一緒に」
「うん。そうですね」
さて、問題はもう一人だな。
既に、秋丸達とは自己紹介が済んだようだ。
ショートボブにして、髪色もピンクに変え以前と印象は変わっている。
ただし、その黒縁メガネは、はっきりと覚えている。
「初めまして。ミネアです」
にこやかな笑みを浮かべ、右手を差し出してきた。
オレはその右手を握り返したまま、笑顔で問う。
「ミネア、さんね。PK設定は?」
「え?」
いきなり聞かれて理解できなかったようだ。
オレは左手にオリハルコンナイフを出して、そっと、ミネアの首元に押し付ける。
「君に対してPKは、アリ?」
「ひ……」
「お、おい、何してんだよ!」
異変に気付いてたハイドラが声を上げる。
構わず、オレはそのままナイフを首に押し付ける。
しかし、ミネアに刺さる直前で、見えない力に押し戻される。
「PK不可、か」
「な、何ですか? いきなり」
暴れて、オレから離れようとするが、オレは右手を掴んだまま離さない。
「ヤメろよ!!」
流石に、秋丸達も止めようと近づいてくる。
オレは、左手でメニューを操作して、【変装】を使う。
『軽業師』、以前WCOへ忍び込んだ姿へ。
「この姿に、見覚えは? ミニアさん」
「え……あ!」
更に、メニュー操作。
「この格好の時も、お会いしてますよね?」
「うっ……」
気付いたな。
やはり、オレをPKした奴、そして、濡れ衣を着せて牢屋へ放り込んだ奴と同一人物だ。
「いい加減放せよ!」
フェンリルナイトが、飛びかかってくる。
オレは、ミネアの手を掴んだまま、身を翻してそれを躱す。
「ちょっと、訳ありでね」
「ちょっと、いい加減放してよ。何よ、一回PKされてくらいで。
ちっちゃい男ね!」
「ち、ちっちゃ!? お前のせいで牢屋にぶち込まれたんだぞ」
「そのお陰で、鹿島に会えたんでしょ? 願ったり叶ったりじゃない!」
「そういう問題じゃねぇ!」
「まあまあ。コイツの悪事も俺達が色々頼んだ結果ではあるんだ。
俺と、鹿島さんも謝るから許してやてくれ」
事態を察したのか、ハイドラがそう言って仲裁に入った。
「ほら、お前も謝れ」
「……手を離したら謝るわ」
そうか。
拘束していた右手を離す。
するとミネアは、両手を自分の頭の上に持って行き、一言。
「許してニャン!」
再びオレが殺気を放ったのに気付いた秋丸が、後ろから羽交い締めにする。
「まて、落ち着け!!
悪気はないんだ。多分。素数だ。素数を数えろ。
ほら、一、三、五、七、九……」
……それは奇数だ。




