86.穏やかな時間
ログイン。
メッセージ一件。
スランドからだ。
[昨日は、本当に済まないことをした。ごめんない]
律儀だな。
[昨日は助かった。ありがとう。和平工作ガンバレ]
そう返しておく。
リィリーがログインしているのを確認して、メッセージを送る。
部屋から出て、隣の部屋をノック。
「プリスー」
ごそごそと音がして、中から返事がある。
「先に下に行っててー」
「了解」
階段を降りて、リビングに行くと、月子さんとリィリーが朝食を並べていた。
朝食で良いんだよな?
「おはようございます」
「「おはよう」」
「プリスもすぐ下りて来ると思います」
そう言いながら、ダイニングテーブルに付く。
リィリーの髪に、昨日渡した簪が刺さっていた。
テーブルの上には、数種類のパンが盛られたバスケットとサラダが並ぶ。
「おまたせー」
そう言いながら、プリスは上から落ちて来た。
文字通り、吹き抜けの上から。
「こら、階段を使え」
「こっちの方が早いもん」
全く。
だが、久しぶりに訪れた、穏やかな時間だった。
「それでー、今日は何するのー?」
「うーん、レベル上げかなー。トリカ辺りで」
「私、ちょっとギルドに顔出すわ。プリスも一緒に行こう」
「いいよー」
「んじゃ、オレも後から行くよ。そこで待ち合わせ」
そう言ってリィリーにプリスを預ける。
「そうそう、これお土産。
プリスにはネックレス、月子さんにはブレスレット」
「わーい」
「あら、ありがとう」
「リィリーのは?」
受け取ったネックレスを付けながら、プリスがそう尋ねる。
「私は昨日もらったの。これ。かわいい?」
そう言ってリィリーは自分の頭にある簪を指差した。
「うん!かわいい。でも、こっちもかわいい」
そう言ってネックレスを掲げた。
「気に入ったか?」
「うん!」
「そうか。それじゃ、それは無くさない様にするんだぞ」
「わかった!」
「じゃ、行こっか。プリス」
「はーい!」
オレは、パンを食べながら、手を振り二人を見送る。
「それで、話って何かしら?」
月子さんが、オレの向かいに座り直す。
このために、リィリーに人払い、いや、天使払いをお願いしておいた。
「はい。
プリスの事です」
プリスがNPCである時に起きた出来事。
生前の身分。
渡した首飾りが神器である事。故に予期せぬトラブルが起こりかねない事。
あと、あの子を、もう一度自由な、「生きている」存在に戻すと言う、オレの勝手な目的。
そういった事、全てを月子さんに話した。
「預かった時は、良く周りを見てる賢い子。AIって良く出来てる。
ただ、そんな風に思ったわ。
でもね、暫く一緒に居て、とても楽しかったの。
まるで、そう、まるで本当の子ども見たい」
オレの話がひとしきり終わった後、月子さんは、静かに語り出した。
「一緒に料理して、夢の様……」
そこまで言って、月子さんは俯き黙りこんでしまった。
どれくらい、間を置いただろうか。
「それで、これからどうするの?」
顔を上げ、明るく言った。
「具体的な事はまだ何も……。
あの子を蘇らせる方法は、まだ糸口すら掴めていなくて……」
「生き返るまで、ここに住まない?
お姫様のお作法は教えて上げられないけど、お料理とか、他にもいっぱい教えたい事があるの。
もちろん、プリスちゃんが生き返えれるよう協力する」
「それは、きっとプリスも喜ぶでしょうが……。
どうしてです?」
口調こそ、穏やかだが目つきは真剣そのものだ。
「……いつか、私の事も話すわ」
いつもは、穏やかで飄々としている月子さんなのだがどこか歯切れが悪い。
詮索は止めておこう。
「実は、月末に試験がありまして。
また暫く預かってくれると助かるなーなんて思ってます。
後、あの部屋、良い眺めですね。
良かったら暫く居候させて下さい」
そう。
お互いに損は無いはずだ。
「もちろんよ」
顔を上げた月子さんはいつもの笑顔だった。
■■■■■
Creator's Homeのドアを開ける。
ここも、久しぶりだ。
カウンターに座るリィリーとプリス。
そして、その向かい、カウンターの中に更紗が立っていた。
「ようこそー」
「久しぶり」
プリスの横に腰を下ろす。
「話は?」
「終わった。
暫くあの家に居候する事になった。
プリスはまた月子さんと居てもらうけど良いか?」
「うん!
アナタの攻略を手助けする、私達、ムーン・アンド・プリン!」
は?
ドヤ顔に両手でポーズを決めるプリス。
「何それ?」
「しまった! プリンの正体は秘密なのだ!」
リィリーと更紗が、苦笑している。
「飲み物は?」
フォローのつもりか、すかさず更紗が割って入る。
「んじゃ、ミックスジュース。
そう言えば、彼氏が出来たそうで、おめでとうございます」
にこやかに言ったつもりだったのだが、更紗はガンッと手にしたグラスをカウンターに叩きつける様に置く。
反動で、ジュースが三分の一程溢れる。
「もう、別れたわよ!!」
えー。
こんな所で地雷踏むとは……。




