85.オレの部屋
『オレの部屋』そう案内された月子さん宅の一室。
家具は、真新しいシングルベッドが置かれているだけだった。
隣の部屋にはプリスが、更にその隣にはリィリーが泊まっている。
とは言え、ログイン、ログアウトする場所でしか無いので一つ屋根の下で、などと色気のある雰囲気ではないが。
色々あったな。
一人になって改めて思う。
無茶をし危機に晒され、こちらの仲間と向こうの同士に助けられた。
良かれと思ってやったことが、結果スランドを怒らせてしまった。
「繋がりを大事にして欲しい、か……」
スランドに言われた事を反芻しながら、掃きだし窓を開けてバルコニーに出る。
世界は何時の間にか、宵闇の中だった。
三部屋分繋がった、バルコニー。
一番向こうの掃きだし窓から、偶然リィリーが顔を出した。
そう言えば……。
手招きして呼び寄せる。
プリスを気にしてか、足音を殺して静かに近寄ってくる。
「闘技大会、悪かったね」
「うん。悪い。
事前に相談したかったけど、メッセ送るって約束したのに、全然送ってこないんだもん。
覚えてる?」
「うん。ごめん」
「いいわよ。もう。大変だったんでしょうし。
ちゃんと帰ってきたから、それで良い」
「でも、スランドには怒られたな……」
「あれはね、ジンの事を心配してたから怒ったんだよ」
「そうなのかな」
「そう。
だって、彼女の依頼から始まったんでしょ?
自分の所為で、もしもの事があったら、とても悲しいじゃない?
無事に帰ってこれて、安心して、それで感情が抑えられなくなったんじゃないかな。
『何で、そんな呑気な顔をしてるんだ。私の心配を返せ!』って事よ」
そう言って、リィリーは少し笑った。
「私も怒ってたんだからね。
連絡は来ないし、その上、実は危険だったって聞かされて。
でもね、転移した時のジンの顔。
あれみたら、どうでも良くなっちゃった」
そう言えば、そんな事言ってたな。
「オレ、あの時どんな顔してた?」
「秘密」
うーん、気になる。
「どうやって、助けに来たの? スランドのスキル?」
「それはね、ジンがちゃんとお守りを持ってたから……」
「お守り?」
オレは、リィリーから貰ったネックレスを服の中から引き出した。
ペンダントヘッドに付いていた、ラピスラズリが無くなっていた。
「ごめんね。実は、ネックレスに付いていた宝石、『座標石』って言うアイテムを【偽装】で宝石に変化させた物だったの」
「座標石?」
「何時でもアイテムの場所がわかる。そして、そこを目標にして【転移】が出来る。
でも、【転移】の目標に出来るのは一度きり」
目を、逸らしながら説明してくれた。
「それで、オレの場所がわかったのか。
でも、何時でもって……」
「うん。ジンがどこにいるか、チェックしてた。
ごめんなさい」
……見張られてたのか。
「いや、でもそのお陰で助かったんだよ。オレもプリスも。
ありがとう」
「……怒ってない?」
「怒ってないよ」
実際、リィリーには、救われてばかりだ。
怒れるはずがない。
「それってステータスとかもわかるの?」
「ううん。場所だけ」
「じゃ、何でオレがピンチだって分かったの?」
「プリスが居なくなったから。
出発する前にそう言ってたでしょ?
だから、急いでスランドに連絡取って、そしたらスランドがネフティスと雪を連れて来てくれて」
「そうだったのか。あれ? あいつは? 炎樹」
「待ち合わせのポータルに偶々いたのよ。それで勝手に付いてきた」
なんて奴だ。
「でも、あれは、もう作れないから」
「そうなの?」
「うん。座標石は、アイテムカタログ産のレアアイテムだったの」
それは、貴重な品を。
「はい。これ。
代わり、じゃないけど」
そう言って、オレはアイテムを取り出しリィリーに渡した。
「え?」
目を丸くして、驚くリィリー。
「約束のお土産。
趣味に合うかわかんないけど」
キョウで買った、小さな百合をあしらった簪。
「かわいい……。
ありがとう。嬉しい」
リィリーが満面の笑みを返して来る。
あれ? 何だろう。 変な感じだ。




