9.イベント告知
迷宮に篭りレベル上げに励み現在時刻は8時45分。
そろそろ約束の時間だ。
切り上げて道具屋に向かう。
道具屋の前には既にに二人が待っていた。
「おまたせ」
「いえ、まだ10分前ですよ」
「さて、と、どうする?
立ち話も何だからどこか入るか?」
「ハイ! ケーキが食べたいです!!」
楓が元気よく右手を上げる。
左肩にミーちゃんが上手にバランスを取って乗っている。
おいで、と両手を向けると腕の中に飛び込んでくる。可愛い奴め。
そのままミーちゃんを撫でながら、尋ねる。
「それでも良いけど、食べれる店あるの?」
「はい。食べ物に関してはいろんなお店が揃ってるんですよ」
ふーん、そうなんだ。
オレずっと迷宮に引きこもってたからなぁ。
「じゃ、お店はお任せで」
と、案内されたケーキ屋はやはり女性プレイヤーばっかりだった。
桜と楓はそれぞれ二つずつケーキを注文していた。
オレはなんたら風ブドウゼリーというやつを注文。
とても幸せそうにケーキを食べる二人を眺めながら、オレはミーちゃんにブドウの果実を分け与える。
狐の主食は知らないが、なんとなくブドウを食べる物語を読んだような記憶があったので試しに食べさせたわけだ。
しかし、ミーちゃんのこの毛並みの触り心地は素晴らしいな。
「そういえばお礼のことなんだが」
それとなく楓に言う。
「ミーちゃんは上げませんよ!」
ぐ、なぜバレた。
「欲しければ自分で召喚してみたらどうですか?
まぁ、ミーちゃんより可愛い子はいないと思いますけど」
「召喚獣てのは、好きなモノを選べるのか?」
「いえ、違います。どんな子がほしいか質問があって、それに答えると自動で決定されます。
ちなみにアタシは『もふもふがほしーです!!』て言いました!
でも、希望が叶うとも限らないみたいです」
「へー。じゃミーちゃんは当たりだ」
「イエース! 大当たりです!!」
ドヤ顔の楓と、あまり興味無さそうなミーちゃんが対照的だ。
「私も召喚獣を持ってるんですよ」
と桜。
「あ、そうなの?
でも連れて歩いてないってことは、あー外れ?」
「いえいえ、そんなことないです。
ただ、ちょっと大きくて、街の中は一緒にいれなくて」
なるほど。ちょっと大きい、ね。なんだろう。馬、は街に入れない大きさではないし、熊とかか?
「ドラゴンなんです」
「ドラゴン!?」
いやいやいや、それって最強クラスのモンスターなんじゃないの?
そりゃ街中では連れ回せませんわ。
なんか、どちらかと言うと大人し目のお嬢様と言った桜のイメージから真逆の召喚獣だな。ドラゴン。
「それってどんな風にお願いしたの?」
「空を自由に飛びたいなーって」
ハイ、タケ○プター。
そうかぁ、飛んじゃうかー。
ドラゴンに乗って飛んで行くのか。
サラマンダーより、ずっとはやい!!
やかましいわ。
「それは、是非今度見せてほしいな」
「ハイ。今度三人で一緒にフィールドに行きましょう!」
と、ちょうどそのタイミングで
〈〈〈ポーン〉〉〉
三人同時にインフォが鳴った。
というか、店内の全プレイヤーにも届いているみたいだ。
それぞれ、メニューを開いて確認する。
インフォが二件。
[センヨー西フィールドボス、討伐達成のお知らせ]
ほう。記念すべき最初のボス討伐か?
開いて中身を確認すると、おぉ、討伐メンバーにニケさんの名前がある。
流石はβテスターと言ったところか。
……初回撃破はアナウンスされるのか。
とは言え、縁の無さそうな告知をされて無駄に焦燥感を募らせてもなー。
これは、設定でオフにしておきましょう。
もう一件。
[イベント【闘技大会】開催のお知らせ]か。
[来る8月24日、第1回闘技大会を開催いたします。
1対1のトーナメントバトル!
受付は、西フィールドの先、戦都ルノーチの闘技場。
ルール等の詳細は闘技場に掲示いたします。
受付締切は8月17日。
来たれ、強者。掴め、栄光!]
ふーん。
「闘技大会か……」
「参加するんですか!?」
楓が身を乗り出して聞いてくる。
「うーん、受付までたどり着けるかわかんないしなー」
受付がある戦都とやらへ行くためには、先程討伐されたばかりの西フィールドのボスを倒さねばならない。
参加者は必然的に、現時点で一線級の猛者に絞られそうだ。
「ジンさんなら大丈夫ですよ! 優勝できます! と言うか、して下さい!!」
いや、君、オレの強さとか知らんだろう。
「だって、今日あの悪役を軽く捕まえたじゃないですか!!
『死体を探っても良いんだぜ!?』て、超カッコ良かったです!!」
やめろ。人が言った恥ずかしいセリフを繰り返すな。
それに、そんなに気障ったらしい言い方では無かったはず。
「恥ずかしいからやめてくれ」
楓に言うと、
「『死体を探っても良いんだぜ!?』」
とドヤ顔で繰り返しやがる。
こいつ、計算だな?
無言で楓を睨む。
「まぁまぁ。
格好良かったのは事実ですよ。私もそう思いました。
それで、すっかり遅くなっちゃいましたけど、
これ、今日のお礼です」
と言って、机の上に小瓶を二つ置く。
これは、まさか。
「MPポーションです。
今日、道具屋で調べてらしたので、ひょっとしたら要りようかなと思って。
と言っても私が作ったものなので、店で売っているものより品質は良くないですけど」
「これは嬉しい。
とても助かる。けど……」
良いのだろうか? 品質低いと言ってもそれなりの値段のはず。
「こんな高価なものは受け取れないなぁ」
「二人からの感謝の気持ちです。
是非受け取っていただきたいのですが……」
どうしようかと悩んでいると、楓が人差し指を立てグイっとこちらに顔を近づける。
「これはね、ジンさん。
今日のお礼と先行投資です!
今のうちに恩を売って後で十倍返しにしてもらおうと言う、私達の下心です!!」
と、元気によく言ってのけた。
上手い。そんなつもりは無いのだろうがそう言われるとこちらとしても遠慮する必要は無くなる。
「ありがとう。
じゃ、これは素直に受け取るよ」
実際、これで迷宮攻略の目処が立ったのだ。とてもありがたい。
「はい。感謝して使って下さい!
私とミーちゃんが集めた材料を桜ちゃんが調合した霊験あらたかな一品です!
そして、闘技大会で優勝するのです!!」
「いや、どうしてそこまで闘技大会優勝させたがるんだ?」
「え、知り合いが優勝とかすごいじゃないですか」
この子、天然なのか計算なのか全然わかなんない。
「あの、使ったあとの感想を聞かせて欲しいです。
なので…………」
なので?
俯いてしまった桜から次の言葉が出てこない。
あ。
「わかった。送るよ、感想。
じゃ、フレンド登録してもらっていいかな」
「はい!」
「ついでに、ミーちゃんの飼い主さんも」
「アタシはついでですか!?」
桜、楓とフレンド登録を済ませ、ケーキ屋から先に退散することとする。
二人は、いつの間にか三皿目のケーキ注文していた。
翌日、翌々日と迷宮九階で戦闘を続け、レベルアップと同時にミノタウロスへと再戦を挑んだが、しかしあえなく返り討ちにあった。
【ジン】 #LV.7
HP:100
MP:185(↑15)
STR:14
VIT:5
AGI:25(↑4)
DEX:24(↑3)
INT:38(↑7)
MIN:14(↑1)
SP:20(↑10)




