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「お、今日からサービス開始か」
八月一日。
夏休みの四分の一を消化し、有り余る暇を解消すべく、VRソフトの配信ポータルで手頃なゲームを探していた。
所謂フルダイブ型バーチャルリアリティ。
その中でもMMOと呼ばれるゲームジャンルは大ヒット作からクソゲー、挙句丸パクリまで数多のタイトルが配信されている。
そのいくつかのゲームを試してみた中で得た事実。
先行者有利。
有名ドコロのヒット作には、時間と金をつぎ込んだ先行廃プレイヤー達が、壁として君臨している。
学生の身分としては、時間は制限されるし。湯水のようにつぎ込めるほど小遣いが潤沢ではない。
そんな中で。多少は有利な条件でゲーム進めるためには、せめてスタートくらいは他人と同じでないとダメだ、と結論付けたわけだ。
サービス開始直後にバタバタして、課金アイテムとかを配るってのは割とよく聞く話だし。
そんな理由もあり、オレはまさに今日オープンしたばかりの『Create and Contradiction Online』の世界に足を踏み入れたのだ。
■■■■■
『ようこそ。
Create and Contradiction Onlineへ』
周囲は宇宙空間。床も無く、遠くに星の瞬きがみえる。
『これより、初期設定をいたします』
暗く誰もいない空間に、音声だけが響く。
『ご案内は、私ナビゲータAIのアレィが努めさせていただきます。
本来であればアバター姿で皆様をお迎えする予定だったのですが、開発遅延に伴うリソース不足の影響により、本日は音声のみでのご案内となりますこと、ご容赦いただけますようお願い申し上げます』
「だっさ」
実装間に合ってないけどサービスインとか、地雷のクソゲーじゃないですか。やだー。
しかも、それを言う必要合ったか? 初期設定なんて、それこそ一度きり、言わなければわからないものを。
『まずはプレイヤーネームを設定してください。
プレイヤーネームは変更ができませんのでご注意ください』
「えーっと、ジン。カタカナでジ、ン」
『ジン様ですね。
漢字での表記はいかがいたしますか?』
え?
「漢字?」
意味がわからない。
『漢字とは、古代中国に発祥を持つ文字。古代において中国から日本、朝鮮、ベトナムなど周辺諸国にも伝わり、』
「いや、そう言うことで無く!」
いまの、wikiかなんかの読み上げ?
「プレイヤーネームは、漢字表記が必要てこと?」
『必ずしも必要ということではございません。
ですが、Create and Contradiction Onlineに於いては、より世界観を体感していただくために、プレイヤーネームの漢字表現を推奨しております。
ジン様ですと、例えばヤイバと書いて刄、ちりやほこりを表す塵、神という字でジンと読ませるなどがオススメかと思います』
目の前に、刄、塵、神と言う漢字がふわりと出現する。
「いや、ちょっと意味がわからないんだけど。必要じゃないんだよね?」
『はい、必ずしも必要ということではございません。
ですが、Create and Contradiction Onlineにおいてはより世界観を体感していただくために、プレイヤーネームの漢字表現を推奨しております』
ループかよ。
「このゲームってどんな世界観なの?」
『Create and Contradiction Onlineの世界は、魔法が存在する中世異世界のファンタジーワールドになっております。この世界の在りようは、これからジン様の目と耳でお確かめ下さい』
全然わからん。
中世異世界のファンタジーワールドで、漢字表現?
いや、下調べしなかったオレも悪いけども、これクソゲーか?
ちょっとやってダメなら他のゲームを探そう。
「後でも設定できるの?それ」
『はい。メニューのプロフィールから設定、変更が可能です』
「んじゃ、ひとまず後で良いや」
『かしこまりました。
続いてアバターの設定になります。端末内の共通設定から自動作成いたしますか?』
「うん。共通で」
オレの前に共通アバター、オレのスキャンデータを元に、デバイス内に登録されているアバター体が出現する。
現実よりも、髪の毛は青く黒くしている。
顔は、少しだけ加工を加えている。外ですれ違う程度ではわからない程度にちょっとだけ。
いや、ホントにちょっとだけですよ?
『アバター設定ですが、Create and Contradiction Online専用のカスタマイズもご利用可能ですがいかがでしょうか?』
「……パス」
『そうですか。
装備などで世界観に合わせていただくことも可能となっております。髪型などはメニューのプロフィールから設定、変更が可能です』
何だよ。世界観て。もう面倒になってきたぜ。
なんだろう。このアレィとか言う天の声にアバターが無い所為か、事務作業やらされてる感が満載だ。
『続きまして、Create and Contradiction Onlineの説明に移らせていただきます』
「あーアレィさん」
『はい』
オレのアバター体が消えた後、直上を向かいAIに話しかける。
「えーっっと、簡単に頼む」
『……承知しました』
何だよ、その間は。
『Create and Contradiction Onlineは、豊富なスキルが特長で、スキル取得にはSPと呼ばれるポイントを消費します。
その辺どうするかは、プレイヤーの行動次第。
魔法の使用にはMPを使います。
以上』
すげー簡単に終わらせたっぽい。
「えーっと……」
『以上です』
「怒った?」
『以上です』
「……」
『以上です』
「はい」
『詳細はメニューのヘルプからもご確認いただけます。
また、Create and Contradiction Online公式コミュニティスペースでプレイヤー同士の交流や、イベント情報などをご覧いただけますので、是非ご利用ください』
「あ、はい」
『……失礼しました』
「え?」
『公式コミュニティスペースは、現在鋭意準備中でございました。そちらのオープン日時は、後日ゲーム内メッセージにてご連絡させていただきます』
うん。クソゲーだ。
「アレィさん」
『はい』
「いろいろと、ポンコツですね」
ぐふ。
軽くAIをからかったつもりだったが、腹部に鈍い衝撃が響く。
まさか、ナビゲータのAIが攻撃してきたのか?
チュートリアルで?
いや、まぁ、悪いのはオレだけど。
『ジンさん』
「……」
『ジンさん』
「はい」
『覚悟してCreate and Contradiction Onlineを楽しみやがれ!でございます。
では、行ってらっしゃいませ。クソが』
ボロクソに言われ、しかし、文句を言う前に目の前が暗転。
宇宙空間が消え去り、Create and Contradiction Onlineの世界に立っていた。