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プランズボード  作者: 有本楓
プロジェクト1
7/14

顔合わせ

 開けられた扉の内側を、佳恋の頭越しに覗くと、そこには目を見開いてこちらを眺める男女三人の姿があった。


 内訳としては、男子一人と女子二人。生徒達は、部屋の中央にくっつけられた二本の長机を挟むように男女に分かれて対面で座っている。


 シンとした空気の中、佳恋は女子二人の方へズカズカと歩いて行き用意されていたパイプ椅子に座った。置いてけぼりを食らった魁斗は、小さく挨拶をした後部屋へ入り、静かに扉を閉めた。


 「えっと、君が新しい子?」


 どうすればいいか分からず、立ち尽くしていた魁斗に気遣って声をかけたのは、佳恋を含めて女子三人の真ん中に座っていた人物だった。


 「は、はい! 新しく企画係に就きます、一年B組平野魁斗です。これからよろしくお願いします!」


 「私は、吉野利奈。二年C組です。一応生徒会長を務めさせてもらってます。こちらこそよろしくお願いしますね、かいとくん」


 緊張気味の魁斗のぎこちない挨拶とは対称的に、立ち上がり礼儀正しく深々とお辞儀をした利奈。


 頭を上げた魁斗が声の主に目のフォーカスを合わせると、そこには落ち着いた声音からは想像ができない程に可愛らしい容姿をした女の子が立っていた。


 垢抜けない笑顔によく似合うふんわりとした黒髪のショートヘア。両隣に座っている状態の、佳恋やもう一人の女子と比べても二十センチほどしか変わらない小柄な身長は、中学生あるいは小学生とも思えた。これで高二というから驚きだ。


 そんな失礼なことを考えていると、利奈が椅子に座るよう促してきた。緊張もほぐれてきた魁斗は、遠慮なく腰掛ける。それを確認した利奈は、残り二人に自己紹介するよう目配せした後、自分も再び席についた。


 残り二人とは、利奈の左隣にいる女子と、魁斗の右隣にいる男子のことだ。ちなみに、魁斗の正面にはブスッとした顔の佳恋が座っている。


 「一年A組濱野司だ。書記をやっている」


 先に口を開いたのは、魁斗の右隣の男子だった。少し高めの声。癖毛に寝癖が少々残った魁斗の髪とは対称的な、跳ねが一切ない長めの髪。座っているため正確な身長までは分からないが、こちらは魁斗と同じような細い体つき。中性的な印象を受ける顔立ちには似合わない、ジト目をして何故かこちらを睨んでいる。


 「しーくん、ちゃんと仲良くして」


 司から魁斗に向けられる視線に気付いたのか、利奈が注意する。


 「会長! しーくんではなくつかさです。それと、僕はこんな覇気のない引きこもりを生徒会に入れるのは反対です!」


 椅子から立ち上がり、叫んだ司。どうやら、魁斗が引きこもっていたという情報はもうここでも流れているようだった。


 引きこもりを糾弾されることは想定していた魁斗だが、気に入っていた自分の平々凡々な容姿を覇気がないと評されたこともあり、予想以上の精神的ダメージを感じた。


 「ちょっと! かいとくんに謝りなさい!」


 本当に怒った様子の利奈に司はたじろぐ。


 「くそっ、失礼します」


 そう言い残し、司は部屋を飛び出した。


 「……ごめんね、かいとくん」


 「いえ。悪いのは僕ですから」


 謝る利奈に、もう一度謝罪を返す魁斗。部屋に居心地の悪い空気が立ちこめる。


 …………。


 「あ、あの……。自己紹介しても、いいですか?」


 小さく震えた声で沈黙を破ったのは、魁斗が名前を知らない最後の一人だった。


 「うん!そうだね、お願い。あやねちゃん」


 利奈に、あやねちゃんと呼ばれた女子は少し表情を明るくして続ける。


 「は、はい。一年C組の橘綾音と申します……。会計を担当しています。よ、よろしく……」


 場が和んだ後もか細い声で続けたということは、普段からこうなのだろう。ぺこりと小さくお辞儀をした後、ずれた眼鏡を直して恥ずかしそうに俯く。


 「こちらこそ、よろしく」


 「あやねちゃんはちょっと人見知りだから、初対面の人には緊張しちゃうんだよね」


 「へー、人見知りなのに場の空気整えるなんてすこいですね」


 「だよねー、ちょっとびっくりしたけど。よく頑張ったね、あやねちゃん」


 そう言って利奈は綾音の、パーマがかかった茶色っぽい肩まである髪を撫でる。絵面だけ見ると、妹に慰められる姉のようだと思った魁斗。実際は年齢的にも関係的にも全くの見当違いなのだが。


 そこで、髪を撫でられていることに嬉しそうな表情を浮かべた綾音が呟く。


 「で、でももう空気を変える必要なんてなさそうですね」


 だな、と魁斗が同調し三人は優しく笑っていた。


 すると…………。


 「ちょっと! そろそろ私に話しかけてよ!」


 ずっと黙っていた佳恋が涙目で訴えてきた。


 「平野君の紹介も、みんなの紹介も全部私がやろうと思ってたのにー」


 「だって、なんか怒ってるみたいだったからさ」


 そう魁斗が指摘すると、利奈と綾音がうんうんと頷く。


 「そ、それは、平野君が……。なんでもない」


 すぅっと息を吸い、気持ちを切り替えた佳恋がさらに続ける。


 「じゃあ、私も自己紹介するかな!」


 「いや、野中はいいよ。昨日聞いたし」


 冷たく指摘する魁斗。


 「ひどい! 私だけしないのは嫌だもん。ということで、ご紹介に預かりました一年B組野中佳恋です。よろしくね」


 誰からもご紹介に預かってない佳恋が自己紹介を終えたところで、利奈がパンと手を叩き立ち上がる。


 「さて、顔合わせも済んだところで。会議を始めよっか!」 

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