復帰
前日、生徒会副会長こと野中佳恋から命じられ企画係という重大な任に就いた平野魁斗は、その後すぐに職員室へ出向き、担任教師の愛川碧の元へ不登校について謝罪の挨拶に行った。
幸い、かどうかは分からないが怒られることなどなく優しく迎えてくれた。魁斗との会話を終えた愛川先生は、続いて隣にいた佳恋を褒め称えた。どうやら、魁斗の連れ戻しを佳恋に頼んだのは、この人らしい。授業中に生徒を学校から出す教師は、どうかと思うが……。
それでも、魁斗の心は二人に対する感謝の気持ちでいっぱいだった。
その日は久々の登校ということもあり、明日からきっちり登校することを誓わされた後、それで帰ることになった。ちなみに佳恋は、六時間目の授業に出るため学校に残った。
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翌日、午後一時。約束通り登校し、授業を終えた魁斗は佳恋と共に生徒会室へ向かっていた。いや……引きずられていた……。
「なあ、今日はもう帰らせてくれよ。久々の授業で疲れたんだよ……」
「土曜日の半日授業で泣き言いわないの! さっさと行くよ。みんな待ってるみたいだから」
「みんなって?」
「勿論、生徒会の人だよ。君ももう生徒会の一員なんだから、ちゃんと挨拶しないとね」
副会長にそう言われては仕方ない。魁斗は、ようやく普通に歩き始めた。
「それはそうと、野中さ、朝家まで迎えに来るのやめろよ」
そう。今朝、睡魔との闘いを制した魁斗が学校の準備をして外へ出ると、すでに佳恋が家の前に立っていたのだ。そしてそのまま、二人仲良く登校してきたのだった。
「だって、平野君がちゃんと学校来るか心配だったんだもん」
「お前は、俺の母親か! ともかく、ちゃんと来たんだしもういいだろ」
「そこまで拒まなくてもいいでしょ。私なりの親切なんだから」
はあ、とため息を吐く魁斗。
「感謝はしてるよ。でもなぁ、おかしいだろ。付き合ってもいない男女が二人で登校なんて」
「そう?」
首をかしげてこちらを見てくる佳恋に、魁斗は少しドキッとしてしまった。
「そ、そうだよ。二人で歩いてると、お前目立つから恥ずかしいし」
そこまで言い終えると、佳恋が突然怒り出した。
「そんなこと言うなら、もう知らない! ……勝手にすれば!」
佳恋の心中をまったく察せない魁斗がかける言葉を必死に探していると、丁度二人は生徒会室に着いた。
これで空気を一新できると思った魁斗の淡い期待をよそに、佳恋は部屋の扉をバンッ、と乱暴に開けた。どうやら、かなりお怒りの様子だ。