表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
プランズボード  作者: 有本楓
プロジェクト1
10/14

軽音楽部

 二人が部室前に着いた時には、辺りはすっかり暗くなっていた。


 ここまで来ると、中から演奏が聞こえてくる。この曲は確か、最近見たドラマの主題歌だった気がする。ボーカルも凄く上手い。


 利奈は、スライド式のドアを無遠慮に開けた。すると、目の前にもう一枚ドアが見える。恐らく、音漏れを少しでも防止するように二段構えになっているのだろう。


 靴を脱ぎ、ドアとドアの間で二,三分待っていると、演奏がやんだ。中のドアもスライド式だったが、こちらはノックをして静かにガラリと開ける。


 「こんばんは、生徒会役員会長の吉野利奈と」


 慣れた風に自分の紹介を終えた利奈は、魁斗に目配せする。


 「同じく生徒会役員企画係、平野魁斗です」


 見よう見まねで自己紹介を終えた魁斗は、改めて部屋を見渡す。


 中々に広い部屋なのだろうが、音楽機器が所狭しと並べられているため、少し圧迫感がある。部屋に居たのは、男女四人。


 魁斗の自己紹介が終わったのを確認した利奈は、仕事を果たすため、恐らく軽音部の長であろう、ドラムの後ろにいる金髪の女子に話しかけに行った。


 他にどうしろとも言われていない魁斗も、後に続こうとするが、


 「おい、平野」


 低いが清涼感のある声で、歩みを止められた。


 声の主は、ドラムの前方でスタンドマイクに向かって立つ男子だった。


 茶髪をワックスやスプレーで固めてお洒落な格好をした細身の男子は、肩からかけていたギターを丁寧にスタンドに置き、魁斗の方へ歩いてくる。


 「お前、生徒会なんてやってたんだな」


 魁斗との距離を一メートルほど残して、その男子は止まった。


 親しげに話しかけてくる人物の顔を確認するべく、魁斗が顔を見ようとすると、今更ながら相手の身長が高いことに気づく。


 「もしかして俺のこと知らないか?」


 「……ごめんなさい。全く覚えてません」


 背が低いわけではない魁斗ですら、目を見て話そうとすると見上げなければならない。だが、爽やかな笑顔のせいか、将又細身のせいか。不思議と圧迫感はなく、むしろ抱擁のような安心を感じる。


 この人が利奈話したらどうなるのだろうか。


 面白そうな絵面が頭に浮かんできた時、男子が口を開く。


 「俺は、お前と同じクラスの佐々木周平だ。もう忘れるなよ?」


 「えっ! ご、ごめん。覚えとく」


 まさか、自分と同じ学年でさらに同じクラスだったとは。尚も爽やかな笑顔を振りまく周平を包むオーラから、確実に先輩だろうと思っていた魁斗は驚きの表情を隠せなかった。


 それにしても、人の年齢というものは見た目だけでは分からないものだ。部長と対談中の利奈と、目の前の周平を見比べてそう思う魁斗だった。


 「おう。よろしくな! にしても平野、お前最近どうしてたんだよ」


 恐らく引きこもっていた時のことを言っているのだろう。同じクラスだから知っているのは当然だと頭では解りながらも、指摘されてぎょっとしてしまう魁斗だった。


 「あ、いや……その……」


 しばらく魁斗が何も言えずにいると、


 「悪い。そんなつもりじゃなかったんだよ。言いにくいなら言わなくていい」


 少し顔をしかめて謝った周平は、さらに続ける。


 「なんにせよ、元気そうでよかった。これからはずっと来るのか?」


 「あ、ああ。そのつもり」


 そうか、と微笑む周平。


 こちらの話が終わっても、利奈達の方はまだのようだった。今から利奈の元へ行ってもどうしようもなさそうなので、魁斗は周平と話していることにする。


 「佐々木は、ギター担当?」


 「うん。ボーカルもやってるけどな」


 どうやら、先程聞こえた歌声は周平のものらしい。


 「さっきちょっとだけ聴こえたけど、歌上手いんだな」


 すると、


 「……。ああ、ありがとう」


 引きつったような笑みを浮かべる周平。


 「ん?」


 周平の様子が少しおかしいことに気付いた魁斗。照れているのだろうか、とも思ったがどうやら違うようだ。


 「まだ、ギターもボーカルも始めたばっかりだからさ。上達したらまた聞いてくれよ」


 「え、そうなんだ。じゃあ、また来ようかな」


 魁斗には始めたばかりに思えない演奏だったが、それは自分が素人ゆえかもしれないと思い直し、何も追求しなかった。


 「おう。よろしくな」


 周平がそう言った時、丁度利奈の方も話が終わったらしい。


 「かいとくん、おまたせー」


 「すみません。着いてきておいて、何もしなくて」


 トコトコと歩いてきて周平の横に並んだ利奈は微笑む。やはり、身長差は激しくまるで親子のようだ。


 「いいんだよ。かいとくんもきっちり仕事してたから」


 利奈以外の全員が、明らかに働いていなかった魁斗の様子を見ていたため、頭上にハテナマークを浮かべる。が、気にしていない様子の利奈はその間に、靴を履いて帰る用意を終えていた。


 慌てて利奈に続く魁斗。


 「お邪魔しました。失礼します」


 礼節を弁え、頭を下げる二人。


 魁斗は、また教室で、と言う周平に手振りで合図し、先に外側の扉を開けて去っていた利奈を追う。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ