想いをのせて、詩を歌う
久しぶりの短編です。主に彼女目線の小説ですが、温かい気持ちになれると思います(多分)。御意見・御感想をよろしければお願いします! 真稀
粉雪ちらつく12月−−−。カップル行き交うアーケード街。深々と手足が冷たくなってくる中で、私は独り・・・歌を唄う。
去年のクリスマス、一人の男が安らかに、息を引き取った。
彼の名は、松崎雪耶。享年、18歳−−まだ若すぎる、歳だった・・・。
雪耶と私、藤堂沙月は同じ高校のクラスメイトであり、同時に・・・付き合っていた。言わば恋人、だった。いたって普通の恋愛をし、いたって普通の恋人同士。
ただ−−
彼は身体が、弱かった。
あまり激しい運動が出来なかった。それは彼にとっての劣等感・・・。スポーツをする事が出来ない彼を支えていたのは、音楽−−。
『いつか俺も、心にずっと残り続ける歌手になる』
それが、彼の口癖であり、夢だった。そんな夢を追う彼が、私は大好きだった。今も彼の部屋には彼の綴った、多くの譜面が残っている。
それは、見る人によってはただの紙切れなのかも知れない。
でも−−
それは彼の遺した遺産であり、私にとっての宝物−−−。
『俺は・・・夢を追い続けた。でも、結局・・・叶わなかったなぁ・・・』
病床に伏せた雪耶は、淋しげに、そう呟いた。それは彼が口にした、精一杯の悔しさ・・・。そして、夢敗れた者の、現実−−。
「私が、その夢を、引き継ぐ・・・だからさぁ、もう少し、頑張ってよぉ!!」
「沙月・・・俺は、自分の夢を押し付ける・・つもりは、ないよ」
途切れ途切れの呼吸で、雪耶は泣いている私に優しく諭した。
「雪耶の、夢・・・は、私の・・・夢、だから。だから、無理に、叶えようと・・・してるんじゃ、ないよ」
「そっ・・・か、じゃあ、もう少し・・頑張って、みなくちゃ、な・・・」
優しい笑顔は、少し儚い面影を残し−−−。
私に夢を、託してくれた。
その三ヶ月後−−
私に夢を託した彼は、静かに、息を引き取った・・・。
彼の夢を引き継いで、私は夢中で、音楽の知識・技術を学んだ。とても厳しく、大変な毎日−−。でも、今も私を支える彼の声が、私の心の奥底で聞こえる。
辛いなんて、思わなかった。
苦しいなんて、思わなかった−−。
だって、音楽を通じて、私は彼を・・・夢を追いかけていた雪耶を、見つめていたから−−−。
一通りの知識・技術を身につけて、私は一つの壁に、遮られた。
(歌詞、どうしよう・・・)
そう、歌う為に必要な、譜面に綴られた、想い−−。
いくら知識や技術を身につけても、歌えないなら意味がない。彼への想いを歌にしようか−−。最初はそう思った、でも、違う・・・。
何かが、違う−−。
(私は、同情で心を掴みたいんじゃない)
人の同情を誘う事なんて、私は簡単だと思う。悲恋・悲劇を歌えば、哀しみを浮かべ、同情する。けど違う、彼はそんな事を歌にしようとする人じゃない・・・。なら、何を−−−。
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気がつくと、私は自然と彼の眠る場所にいた。今日は24日・・・それは、彼の月命日だった。
「元気だった?って、死んだ人に言っても意味無いか・・・」
もちろん、返事など返ってくるはずも無い。ただ、何となく話し掛けただけ・・・。
「私、今壁にぶつかってる。詩、書けないんだ・・・」
素直に、今ぶつかってる悩みを打ち明ける。なぜだか、心が軽くなるような気がして・・・。
「あれ?」
墓前に飾られた花・・・その花瓶の下に、ビニールに包まれた『何か』。自然と私の手が、その『何か』を掴み、中を確認する。
『藤堂沙月様へ』
そう書かれた、封筒。その中には、二通の手紙と一枚の譜面・・・。私は二通の手紙の内の一つに目を通す。
『藤堂さんへ この手紙を読んでくれる事を嬉しく思います。息子の雪耶を本当に支えてくれて、ありがとう。息子も、本当にあなたの事が、好きでした。この手紙の他に、息子からの手紙と譜面を入れておきます。 最後に、雪耶の夢を引き継いだあなたを、応援しています。 雪耶の母より』
私は、感謝の気持ちを素直に手紙から受け取った。そして、もう一枚の手紙に視線を送る・・・。
『沙月へ この手紙を読んだ時、俺がもうこの世にいない事は、自分でもわかっているつもりだよ。少なからず、俺は未練を残してこの世を去る事になるけど、沙月はきっと、夢を叶えてくれると信じてる。 ただ、いい加減俺の事は忘れろよ。沙月ならきっと、死んだ俺よりもいい男を見つけられるからさ・・・。 最後に、俺が書いた譜面を入れておくよ。俺が全身全霊を賭けて書いた、たった一つの詩・・・。歌ってくれたら、うれしいからさ』
文面は、そこで途切れていた。文字の所々が、滲んでいる・・・。それは雨か、それとも−−−。
「あ・・・」
私の心を映したように、降り出した一滴の雨・・・。慌てて手紙をバッグに仕舞い、私は彼に軽く声を掛け、家へと戻る−−。
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彼の書いた譜面・・・いや、詩。
届かぬ想いと知りつつも、健気に生きる一人の少年を表した、バラード。
同情とは違う、何か温かいものを私は感じた。
同時に、燻っていた悩みはどこかへ消えて、私は自分なりに考え、悩み、一枚の譜面を書き上げた。それは、彼の詩とは対になる、少年を想う少女を綴った詩・・・。ハッピーエンドとは少し違うけど、悲恋とも違う・・・。彼が私を想ってくれたように、私も彼を想っていた。だから書けた、この詩・・・。
二つで一つ−−
そう、メロディも浮かんで来た。自然に口ずさんでいる自分に、思わず笑みが零れてしまう。
「よし!」
彼の遺してくれたギターを抱え、私は今日も、街へ出る。
もう、クリスマス・イヴだ。粉雪舞う、ホワイトクリスマス・・・。
雪耶を失って、半年。そして、歌い続けて、半年・・・。あれからいくつかの曲を作った。でも、私は必ずあの詩を歌う。
行き交う人は足を止め、私を通して、雪耶を見つめる。
ねぇ、見てる?みんなが雪耶の詩を、聞いてくれてるんだよ。まだまだ、一つ階段を、夢に繋がる階段を上っただけかも知れないけど、私、頑張るからさ・・・だから、見守っててね。
世間は、クリスマス・イヴ。そして、儚く散った、雪耶の命日。
だから、私は歌う−−。
彼を歌い、今を歌う−。
彼を愛したあの時を、彼の綴ったあの詩を−−−。
突然閃いて書いた短編です。読みづらかった方、すみません(汗)。私はこういった経験はありませんが、なぜか無性に書きたくなったんですよねぇ。この度は、本小説を読んで頂き、本当にありがとうございました!!次作品もより一層の進歩した小説を書き上げるつもりです。今後とも、応援して下さい。 真稀より