life 3
――季節は夏へと移り変わる。
あれから俺と渡辺はだんだんと仲良くなっていった。そのきっかけはスピッツだった。
渡辺とスピッツの話が通じると知ったとき、俺は自然と心を開いていた。
だが、恋愛感情は存在しなかった。渡辺とは、ただ単に話が合う友達として接していた。
俺の対人恐怖症も克服されたかの様だった。他人と話すのがそれほど苦痛ではなくなっていた。
渡辺と仲が良くなると、自然と相沢とも仲良くなった。相沢とは将棋などのボードゲームをしたりしていた。
渡辺はいつの間にか加藤に話をつけていたみたいだった。もちろん答えはNOだった。
これでひとまず問題が解決したかと思えば、またもや渡辺が問題を持ち込んできた。
――ある日の朝。
「最近、小塚君が冷たいんだけど……」
小塚というのは、渡辺の彼氏である。イケメンだ。彼氏持ちなのになぜ加藤は告白したのだろうか。
「知らんわ!」と叫びたいが、俺にはまだそこまでの勇気はなかった。
「俺じゃなくて小塚に相談することだと思う……」
「ちょっと小塚君に聞いてきてくれない?」
こいつはどこまで他人任せなんだ。と心の内では思いつつも、勢いに負けてしまった俺は小塚に会いに行くことにした。まあ、恐怖症も治りかけてるし、新しく友達を作るチャンスだと自分に言い聞かせた。
――放課後。
俺は、一人呆けている小塚に話しかけた。
「……やあ」
「………」
「……やあ!」
「………ん?」
コイツ、天然か。
「何してんの?」
「考えてた」
「何を?」
「猫を」
意味不明。
「猫?」
「うん」
「猫の何?」
「しっぽ」
興味をそそられた俺は、話を続ける。
「しっぽがどうしたの?」
「あれさぁ……なんか、いいよな」
「良い…………?」
「便利そう」
小塚の思考は面白い。悪い奴には見えないし、加藤とは違って仲良くなれそうだ。
「何に使うの?」
「回す」
「回す?」
「暇な時に、空中で文字描いたりとかさ」
小塚の価値観や思考に深い興味を持てた。友達になりたい。そう思った。
俺は渡辺の事をすっかり忘れ、小塚の世界にいた。
「でも、俺は熊の手とか馬の足とかの方便利だと思うな」
「だめ」
「だめか……」
俺は少し肩を落とす。
「そんなの大人に利用されて終わる」
俺はこの小塚の言葉に衝撃を受けた。
「利用、か……」
「便利だけど、大人に利用されない猫のしっぽが丁度良いんだよ」
こんな会話を小塚と俺の二人きりで話していた。時間も忘れそうな瞬間だった。
小塚は、不思議な奴だった。