life 1
長くは続かせません。サクッと終わらせます。
――――これは、一人の高校生の物語――――
俺の名前は佐藤航。
高校2年になった俺は、昔あったトラウマのせいで他人と触れ合うのを恐れていた。一種の対人恐怖症ってやつだ。
だから俺はこの高校生活で友達はおろか、他人と喋った事なんて数えるほどしかないし、これからもずっとそのままだろうと思っていた。
そんなある日の昼。
「佐藤君、だよね……」
一人の女子生徒が、話しかけてきた。確か、同じクラスだった気がする。よく覚えてない。
学校内で他人、それも女子に話しかけられるなんて思ってもいなかったし、そもそも家族以外の人と話すのが久しぶりだったから俺は何も返せないでいた。
「後で話があるので、放課後に図書室に来てください!」
女子生徒はそれだけ言うと、そそくさとその場を後にした。
「…あいつの名前、なんだっけ……?」
訳が分からない俺は、極端にビビりながら午後の授業を受けた。
――放課後。
結局緊張が治まらないまま、俺は図書室へ向かった。
そこにはさっき話しかけてきた女子と、もう一人女子がいた。もちろん名前は知らない。
「あ、来たよ」
「うん、そうだね」
二人は近づいてくる俺に気付くと、呼んでくる。
「……あ、どうも…」
とりあえず二人に挨拶する。個人的にはさっさと帰りたい気分だった。
「突然だけど、相談があるの」
「はあ」
「同じクラスに加藤君いるよね?」
………誰だよソイツ。
とは言えない俺は、取り合えずうなずく。
「はあ」
「彼、私に告白してくるんです」
………知らんがな。
「はあ」
「佐藤君、代わりに加藤君に私の気持ち、伝えて?」
………ああ、つまり自分で言うのは気が引けるってことね…
「いや、そういうのは自分で言ったほうが……」
間違った事は言ってないはずなのに、なぜか自分の声が小さくなるのが悔しい。
「ほら、だから言ったじゃ~ん」
連れの女子生徒が口を開く。なんでいるんだよコイツ。
「あ、ウチ相沢です、どうせ名前知らないでしょ?いつも寝てるし、誰とも話さないし」
余計なお世話だ。
「あ、私は渡辺」
聞いてねーよ。
「…じゃあ渡辺さん、そういう事は自分で言ったほうが…」
「……」
「いい……と思います…………」
他人と話すのは久しぶりだから、どうしても声が小さくなる。でも伝えたからどうでもいい。面倒事には巻き込んでほしくない。
「………うん。ごめん」
?何でそこまで落ち込むんだ?その加藤君とやらは嫌われ者なのか?俺にはクラスがどうなってるかは全然わからない。
俺がそんな事を考えていると、相沢が話しかけてきた。
「ねえ、アドレス教えてよ」
「あ、私も」
もう一刻も早く帰りたかった俺は黙って頷き、慣れない手つきで二人に赤外線送信し、逃げるように帰った。ちなみに俺の携帯で家族以外に初めて番号が登録された瞬間だったが、そんなことはどうでもよかった。さっさと寝て、今日のことは水に流したい気分だった。
――その夜。
2通のメールが入ってることに気付いた。少し緊張してメールを開く。
1通目は相沢からだ。
件名:ど~も~
本文:相沢で~す。登録ヨロシク!
普通だった。脅迫とかされるかも、とか思ってたのは思い違いだったようだ。
2通目は渡辺から。
件名:こんばんは
本文:渡辺です。きょうは急にごめんなさい。加藤君には自分で伝えます。これからも仲良くしてね!
個人的にはもうどうでもよかったから、二人に「了解です」とだけ返信して、泥のように眠った。