憤怒
彼は大きく深呼吸をすると意を決したような顔で話し始めた。
「副会長が……亡くなった。」
亡く……なった……? 死んだってこと……?
再びよみがえるざわめき。その言葉は、やっぱり……とか、どうしよう……とかみんな何かを知っているような言葉が多い。
私が一日休んでいる間に何があったのだろう。
「そこで今日はサークルの活動をせず、早めに帰ってもらおうと思う。副会長のお通夜の日程が分かったら知らせる。それじゃ、解散……。」
え? そ、それだけ?
私が戸惑っていると、すでに何があったか知っていたのだろう。人の塊が一斉に動き出した。みんな急いでいる。中には「襲われる……!」と青い顔でぶつぶつつぶやいている人も見かけた。
……聞かなくちゃ。何があったか。
人の流れが終わるのを待ってから壇上に上がり、解散を告げた後からずっと机とにらめっこしている彼のところへ行った。
見るだけで伝わってくる。彼が今どれだけ打ちのめされているのか。
「……西君。」
「……。」
反応が鈍い。
「西君!!」
彼の体を揺らして声をかけたらやっとこちらに気づいてくれた。近くで見るとその顔の青さが一層見えた。まるで幽霊だ。
「!? あ、ああ、夏目君か。どうしたの?」
「いや、こっちが聞きたいよ。昨日一体何があったの?」
彼は一瞬驚いた顔になると、でもすぐ元通りの顔になって、
「ああ、そうか。君は昨日休んでいたもんね。」
そう言うとまたうつむいて。
苦しんでいるのが痛いほど分かるからこっちも苦しくなるよ……。
「……君は俺のサークルがどういう目的でできたか知ってるよね?」
急に話し始めた彼の声にも活気が無い。
「ええ。民主主義を強調するこの大学の特性を生かすために大勢の人を集めて意見を通せるようにした……。」
政党みたいなものだ。自分の意見を通したい人たちが集まり、何とかして通してもらう。そのためにみんなで協力するのがこのサークルの存在意義であり、醍醐味でもある。
「そう。それがいけなかったんだ……。」
「え? どういうこと? ルールに則ってちゃんとフェアに活動していたのに。」
「そう。フェアな活動をしているサークルの中でこのサークルは最強に近い。だからこそアンフェアなことをされる対象になる……。最近、俺のサークルの意見が多く通るのを気にくわない人たちが脅迫してきていたんだ……。」
そう話す彼の拳が机に押しつけられて青くなっている。
「暴力に発展したのは昨日の話……。副会長は何人かで帰っている途中に襲われ、刺された。」
振り上げられた拳は少し元の色を取り戻したかと思うと次の瞬間机を破壊した。
「こ、こんなことになるなんて……! 副会長は……、佐藤は何も悪いことしてねぇだろうがぁ!」
もう一度机に穴が開く。なんて力……。
そういえば、彼と副会長は親友だと聞いたことがあった。
「夏目君、俺は……このサークルをたたもうと思う。」
発せられた言葉は衝撃で。
「え……。」
そのまま彼は壇上を降りるとまっすぐ帰ってしまった。