失恋
風が去り、完全に静かになった駅のプラットホーム。答えはたったの3文字だった。
「ごめん……。」
彼の発した言葉の意味が分からなくて、体が硬直した。多分、告白が成功しても硬直はしたのかもしれない。でも、その後の行動は大きく違った。
心の中の何かが一瞬で崩れ落ちた。
「…………っっっ!」
駅の天井は鉄骨がむき出しで、その頑強そうな感じが私のあふれそうな涙を押さえてくれる。まだだ……。まだ泣いたらだめなんだ。彼に、聞きたいことがある。
「ど、どうし……て……?」
さっと変わった彼の表情はさっきまで見せていたものとは違うものだった。
何かと戦う前の神妙な表情。覚悟を自分にかけている。そんな感じ。
そしてまたきっぱりと決意した顔で彼の抱えている何かを話し出す。
「俺は、特定の誰かを愛せないんだ。」
「え……?」
どういうこと? そ、そんなことで私の告白を蹴るの?
「分からないんだ……。」
彼はさらに続ける。
「何が……?」
「好きという感情。」
好きという感情……?
「友達に友情を感じることと、彼女に愛情を感じることとの違いって何なのかって考えたらキリがなくなっちゃった。」
自虐的に笑う彼の表情はそれだけで私を苦しめた。そんな表情をしないで……。
でも、だったら……。
「そ、それじゃあ私以外にも西君に告白した人って……。」
「いっぱいいるよ。」
……なんということなの。それじゃあ私以外にも私よりもすてきな人が告白して、散っていったってこと? 今更ながらにすごい人だと思い知る。
「だけど……。」
「だけど?」
さっきまでの笑みとは全然違う笑みをみせて彼は言った。
「ここまで真剣に告白してくれたのは君が初めてかもしれない。」
……え? え?
「目を見れば分かるよ。今までの人は結構『あなたとつきあえば箔がつくのでよろしくお願いします。』みたいなのとか『私なら落とせる!』みたいに俺を景品のように見てるのとか。とにかく言葉だけはきれいなんだけどね。」
「……。」
その話を聞いているうちに涙は止まっていた。私を認めてくれた。それだけで崩れた何かが元に戻っていた。
だから、たぶん、一生でこれだけだ。こんなこと頼むのは。
「……最後に一つだけ頼みたいことがあるの。」
「……何を?」
「キ……ス……。」
涙がまたあふれ出す前に、彼の優しい笑みを見ながら。神様、それくらいは……いいでしょう?




