初恋
彼の顔はほんの数秒(とは言っても私にとっては永遠に思える時間だったが)で百面相を再現した。まずは驚いた顔。次にうつむき、悩んでいるような顔。そういえば彼女がいるとも聞いてなかった。自分の早とちりに顔から火が出そうだ。そして彼の最後の顔は……、きっぱりと決意をしたような、そんな顔で。口を開いた。
誘われるがままに彼のサークルに行ってみると、新しいサークルにしては型破りなほどの大人数が集まっていて、面食らった。彼がすごい人物だということはその後知ることになる。
もちろんそこにいた人たちは全員入部。大学一騒がしいサークルのできあがりだった。
みんな何十人という仲間で集まり、毎日楽しく過ごす。まさに夢のようなサークルだったに違いない。
でも……、そんな中でも私は一人だった。
何でかな? どうして誰も私と仲良くしてくれないのかな?
大勢の中での孤独は言葉では表せない。
……どうでもいいよ。みんな楽しんでるんだから。私が無理に入ってその空気を壊したくない。私が孤独でいればみんな幸せなんだ。
「楽しくなさそうだね。」
聞き覚えのある声に後ろを振り向くと、彼は私を誘ったときと同じ笑顔でそこにいた。
え……? このサークルの創始者が私のところなんかに……?
「いや、俺もあぶれちゃってさ。一緒にお話しできないかなー……なんて。」
……嘘だ。後ろでこっちをちらちら見ている人たちが大勢いるじゃない。それなのにあぶれたなんてありえない。
「周りなんて気にしないでさ。話そうよ。趣味は何?」
「……裁縫。」
「じゃあ僕にマフラーでも編んでよ!」
「え……。」
多分このとき私は彼を好きになったに違いない。……ずいぶんと遅い初恋だった。
この後のことは語らずとも分かるだろう。




