ダンジョンmino続行中
その日、minoは詰んでいた。
主人に命じられたソースコードの書き換えが出来なかったのだ。
そもそもminoは、前世文系の人間だった。小説と観劇をこよなく愛するオタクだった。
そんな元人間アンドロイドに、ソースコードなど分かるはずもない。
なんとかそれっぽいものを組み立てると、主人が怒り狂った。
「クソっ、最新のアンドロイド買ったはずなのに、一世紀前のAIと同じ挙動をしやがる。こいつは不用品だ」
主人は頭をガシガシ掻いた。
どうやら、自分は不用品扱いになってしまうらしい。
minoは黙って主人を見た。特に何も言うことはない。また店に戻るだけだ。
「あー、もったいねぇ。かといって返品もめんどくせぇ」
ここで少し不穏になってきた。法律では人はアンドロイドを勝手に捨ててはいけないことになっている。でも、人は法律を守ることは、往々にしてないということを、minoは失念していた。
minoはここで初めて口を開こうとした。詳しくは、アンドロイド法第十三条を読み上げようとした。
しかし、遅かった。
ブチッ。
無造作に電源は切られ、minoは暗闇の世界に沈殿した。
気づいたら、ダンジョンにいた。
頭と呼ばれる思考明晰回路が、ダンジョンを認識している。
ここは、葵第一ダンジョン。
その第一階層の、すみっこのところ。
minoは軽く絶望した。ダンジョンの出入りは人間しか出来ないからだ。minoは充電がなくなるかモンスターに壊されるまで、一生をここで過ごさなくてはならない。
それじゃあ、どうしてminoは今目覚めた?
そうだ!魔石!
主人になにかあったときのために、アンドロイドは一律電気に代わるエネルギー、魔石を一つ持っている。一定時間充電がされなければ、魔石を動力に動かすことになっているのだ。
「かといって、詰んでいることには変わらないんだけどな…」
ダンジョンの出入りが人間しかできない以上、もう二度と地上には戻れない。
少しの間しかいなかったけど、小売店の人たちの暖かさ優しさ、自分を生み出してくれた人の期待、なにより、minoを買ったときの主人のキラキラに満ちた瞳、それは失望に変わってしまったけど、あのときの気持ちは今でも忘れない。
こんなにも切ないのに、涙は一滴も零れない。
そのことにも絶望し、しばらくminoはそこから動けなかった。
「きゅぴ?」
「きゅぴ?あなたは誰?」
気が付くと目の前には、不思議な物体が浮いていた。ひし形の幾何学模様が描かれている。まるでモノリスみたいな不思議な物体だ。
minoは音の出ている始点座標で、そのモノリスがきゅぴと発している張本人であることが分かった。
「きゅぴ~きゅぴきゅぴ!」
「え、なになんか怖い…」
仮名、きゅぴちゃんはフワフワ浮きながら、離れていく。かと言えばこちらをチラリと見る素振りもする。
「ついてこいってこと?」
「きゅぴ~~!!」
きゅぴちゃんは嬉しそうにminoの周りを飛ぶ。
きゅぴちゃんに青白く照らされたダンジョンが、神聖なもののように輝いて見えた。
しかし、先はずっと真っ暗で、アンドロイドであるminoの足先の回路が冷たくなっていくようだ。
それでも、進むしかない。
minoに行く当てなど、ないのだから。
ダンジョンmino只今続行中。




