夜空人物語
プロローグ
突き刺さるような冷気を感じながら夜空を見ている。星座なんて全く知らないのだけれど、星と星を結んでいると不思議と気持ちが落ち着いてくる。今この星はなんで輝いているのだろう。今この星を見てそんなことを考えている人は、世界中に何人いるのだろう。むしろその星から地球を見ている宇宙人でもいるんじゃないか。
ただ、確かなことは僕は今この夜空に助けを求めているんだ。どうしようもない僕を救ってくれた彼女の為に。無限に広がる夜空を繋いでいくことで何か不思議な力が宿るのではないかと。
〜夜空人物語〜
人はみんな都合の良い考え方をするものだろうか。僕は正に典型的なその考え方だ。何かを成し遂げたわけでは無いのだけれど、何者かになれると信じていた。幼少期から特に困ったこともなく、それなりに充実した毎日を過ごしていたと思う。周りが必死になって勉強やスポーツに打ち込んでいるのも、何か泥臭く感じていた。余裕を持っていざというときに本気を出す。そんなことをカッコいいとさえ思っていた。
ただ現実はそんな僕に着実に牙を向けていた。気付くのが遅かった。いや、気付かないフリをしていたんだ。
そんな僕の事を心配をしてくれていた幼馴染の女の子。僕の初恋の人だ。小さい頃から何事にも一生懸命に慣れない僕に色々とおせっかい、いや気にかけてくれていた。僕はそんな彼女に淡い恋心が芽生えていった。小中高と幼馴染として接してくれた彼女に、僕はこのまま自然と付き合って、この先も一緒にいれるのだと都合良く考えていた。やっぱり告白は男の僕からしたほうがいいのだろうと考えていた高3の春。卒業するときにでもと楽観的な17の僕。彼女、星野桜子に彼氏ができたことを知った18になったばかりの今の僕。
12月25日が僕の誕生日だ。毎年隣の家の桜子がどうせ暇なんでしょと連絡をくれて、コンビニで買ってきたケーキを僕に渡してくれた。僕もクリスマスだからと理由をつけてケーキを用意していた。それを一緒に食べながら他愛のない話をするのが恒例行事だった。当然今年もと疑わない僕のもとに届いたのはケーキだけだった。
甘いものが大好きなはずの僕の舌は、それを拒んでいた。誕生日とクリスマスが一緒にくるのが昔から気に食わなかったが、そんなことよりも重いものが刻まれた気がした。
冬休みが終わると学年中で噂になっていた。ビッグカップルの誕生だと。桜子は容姿端麗、才色兼美、文武両道、どれもが当てはまる。高校生になってから僕が幼馴染だと知らないクラスメイトは僕と親しげにしている彼女を見て不思議がっていた。なんで冴えない僕なんかといった具合だ。
そして噂の彼氏はその桜子の男版とでもいうべきか。サッカー部のエースで成績優秀、顔も良ければ性格も良い。現実をみると僕はただ幼馴染というだけで、幻の優越感に浸っていた道化師だ。桜子の隣にいて笑われる存在だと痛感した。
いつもと変わらない学校が、異国の地のように感じていた。だが、そんな居心地が僕を変えていくきっかけの一つにもなった。淡い思いは儚く散ったのだが、何かに向かうことのなかった僕が掲げた小さな目標。いや、最大の目標。せめて幼馴染として恥ずかしくない男になろうと。外国に行くと世界観が変わるだとか言う人がいるけど、僕は隣の家からの発信だけで大きく世界が変わったよ。まずは勉強だ。先生や親には反対されたがこの時期に志望校を大きく変えた。できるできないではなく、やらなきゃいけないと思ったからだ。
急に人が変わったかのように勉強し始めた僕に周りは驚いていたが、桜子だけはいつもと変わらずに接してくれていた。誰もが受からないだろうと思っていた志望校に僕は合格した。周りは奇跡だと持て囃してくれたが、そうじゃない。奇跡なんかじゃなく僕は実力で勝ち取ったんだ。なんてカッコいいことをいうのはまだまだ早く、本当に運の良さも重なっての合格だったと思う。だけど、やると決めてやり切った達成感。それに伴って結果が付いてくる成功体験はこんなに晴々とした気持ちになるものだと初めて知ったのだった。
その成功体験を糧に僕は色々なことにチャレンジし、充実して有意義なキャンパスライフを過ごしていたと思う。そうそう、この大学では桜子の彼氏である月川流星も通っている。今は一番の親友である。そして僕は彼女と一緒に今度の休みの予定を考えている。18のクリスマスの僕からはとても想像できない人間関係とライフスタイルだ。4人でいると少し自分だけが浮いた存在に感じるときもある。僕以外の3人が優秀すぎるせいなのだけれど。このまま、4人で楽しく大学を卒業するのだと思っていた。これも都合の良い考えなのか
大学生活最後のクリスマス。僕の誕生日でもあり、個人的にはなんとも感慨深い日だ。4人でパーティーをする。これは大学初年度から始まった恒例行事であり、当たり前のように予定が組まれる。開催場所は僕の下宿先だ。毎年僕は3人を下宿先で待ち構えている。3人はパーティー用の買い出しに行っているのだが、誕生日だからという理由で僕はゆっくりしていてと。それはそれで悲しい気もするが、本当は誕プレを3人で選んでくれているのを僕は気付かないフリをしている。今年はやけに時間がかかるなと思っていたが、3人が戻ってくることはなかった 。
1時間、2時間過ぎても連絡が取れない。今までちょっとしたサプライズはあってもこんなことは無かった。色々な考えが頭を巡るがどれも最悪なイメージだ。とか思ってたら着信がきて、軽い口調が聞こえて…なんて都合の良いことを考えた矢先に着信音が沈黙を破る。
「翔大丈夫なの!?」
「母さん?どうしたの?」
電話口の母は一瞬安堵したようだが、一息整えてから僕がこの状況に求めていた答えを話してくれた。「事故…暴走車が…轢かれて…病院…今夜が…」電話を切ると僕は外へ飛び出した。冷たい空気がナイフのように突き刺さる。
どうやって辿り着いたかは覚えてないが、僕は病院に着いた。きっと大したことない。3人とも念の為に病院に来ただけで、ひょこっと顔を出してくれるに違いない……
流星は全身打撲だが命に別状はない…
桜子は頭を強く打って意識が無い……
彼女の伊織は内臓の損傷が激しく予断を許さない……
僕は…僕だけが…僕が…できること…何も…な…い
深夜の漆黒に吸い寄せられるように、僕は病院を出て只々歩く。小さな公園を見つけると僕は大の字に寝転んだ。あぁ、こんな時でも夜空って綺麗なんだ。夜空を見つめる。目と眼が合う。
夜空に浮かぶ眼と僕の目が合うと、それは段々と近づいてきた。頭が混乱して幻覚でも見ているのだろうか。一瞬強い光が夜空を照らすと反射的に目を閉じた。再び目を開くと小さな女の子が僕の顔を覗き込んでいた。
「久しぶりに地の人に見られちゃったよ」
「ちのひと?えっとこんな遅くにどうしたの?お母さんとかは?」
「あー、この姿だと変なのかな?じゃあほいっと」
一瞬の間に5歳ぐらいの女の子だったはずの姿から成人女性の姿に変わったのだった。
「何百年ぶりかな〜?余は夜空人、汝の願いを叶えてあげようではないか」
「夜空人?願いを叶えてくれる…?」
「そうだよ、地の人は昔から星に願いをしているじゃないか。その幾千もの願いを叶えているのが夜空人」
理屈や正当性なんてどうでもよかった。今は得体の知れない存在に縋るしかないと思えた。
「僕の大切な人達が今大変な状態なんだ…治すことはできるのか?」
「えーと、男の子の怪我を治すのは簡単だね、でも女の子二人は無理だね」
「えっ?それはどうしてなんだ?」
「彼女達の魂はもうここにはないから、それを呼び戻す力は残念だけど余にはないのだよ」
「つまり…2人は…死ぬのか…?」
「うん」
微かな希望は死を決定づける絶望へと変わった。
「…それじゃ、僕の願いは何も無いよ…」
「ほんとにいいのか?せっかく余を見つけたのに、夜空人に出会る確率は君たちでいう宝くじに当たるよりも遥かに難しいのだよ?余の力ならそれぐらいの金額ぐらい簡単に出せるぞ」
「そんなの意味ないんだよ…もう消えてくれよ…」
「そういう訳にはいかないのだよ、願いを叶えるのが夜空人としての使命だから」
「2人を助ける以外の願いなんて意味がないんだよ…」
「なんだ、助けたいのか?それなら助けに行けばいいではないか」
「それは…?」
僕は目の前に現れた非現実的なものを安易に利用し、何の代償も無しに対価を得ようしていたことに気付いた。
「もし…僕があの時一緒に居れば…」
「余は夜空人、汝の願いを叶えようではないか、さぁ願いはなんだい?」
「僕をあの日…12月25日に戻してくれないか…?」
「心得た、但し余ができるのは君をその日に戻すだけ、あとの結果は君次第だよ」
「それで充分だよ、ありがとう夜空人」
「では、行ってきなさい」
〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜
「君はまだ助けられていなかったんだね、そろそろ…かな」
夜空人として初めて叶えた願いは些細なものだった。幾多の願いを叶えていくことで夜空人としての力を付けていく。そうすれば叶えられる願いがより強大になっていく。もちろん生死に関わることも。夜空人達にも規則がある。特定の地の人に深く干渉してはいけない。それは時として最大の禁忌を犯してしまうからだ。私はその禁忌を犯した。初めて願いを叶えた少女。それっきりのはずだったのに私は成長を気にしていた。毎晩のように夜空に願う少女は毎日心と体に傷を負っていた。何年も見ていたが私は眼を合わすのを堪えた。願いは一生に一度。
少女は奴隷だった。初めて叶えた願いは暖かい食事が食べたいだった。その願いを叶えたあとは、毎晩私に感謝と労りを願ってくれていた。私にもう一度会って直接お礼が言いたいと。
そして少女の命が消えかかった時、私は眼を合わした。
「夜空人様…?また会えた…あのとき…初めてあんなに美味しい食事…」
「そんなことはいいんだ、早く願いをいえ、今の私はなんでも叶えてあげられる!」
「じゃあ…泣かないで…笑って…私は天国でお母さんとお父さんに会うから…」
「心得た…」
私は願いを叶えた。そして禁忌を犯した。願いを改変したのだ。
少女の消えかかった命の灯火に再び炎を宿し、死んだ両親を蘇らせ新しい土地に三人を住まわせた。少女にとっての天国を作った。そして、少女に人としておぞましい行為を繰り返していたとても醜いものをこの世から消した。最大の禁忌である。人を殺したのだ。それから少女がどうなったかは見ていない。私は禁忌を犯したことにより、夜空から追放された。だが、私の叶えた願いの力は今までの歴史の中で例が無いほど強大なものであり、特例として創造主の観察下に置かれたのだった。そして何百年の時を得てまた夜空へと、帰ってきた。使命を果たせと。
いつものアラーム音と共に僕は目覚めた。すべてが夢であってくれと思いながら日付を確認する。12月25日と表示される画面がそれを否定した。最悪な記憶が蘇ってくるが、目の前には希望が溢れていた。大丈夫だ。僕は今日起こる惨事を知っている。それを回避すればいいだけ。未来を知っている僕には簡単なことだ。そう安易に考えていた。三人が買い出しに行っていた時間帯をどうにかすればいいだけの話。早速僕はグループチャットにメッセージを打つ。「ごめん、今日下宿先の都合が悪くて場所を変えたいんだ」これで大丈夫なはず。そう信じていた。
僕の思惑通りに事は進んでいた。あの時のあの場所付近には絶対に行きようのない状況を作り出せた。だけど、現実は甘くなかった。僕が適当に店をネットで探し、たまたま空いていた店。そこでまた惨劇は起きてしまった。突然の爆発。気付いた時には僕は救急車に乗っているようだった。「大丈夫ですか?聞こえますか?」救急隊員の質問に答えていく。僕は多少の火傷はあるけど、特に大きな怪我はしていなかった。病院に着いてからは色々な説明をされたがどうでもよかった。僕は救急車の中で聞こえた2名死亡という言葉が頭から離れていなかった。
僕は病院を抜け出し、あの公園へと走った。夜空を見上げ幾千もの星を紡いでいく。(もう一度現れてくれよ…もう一度…今度は…)また強い光が、僕をつつみ込んだ。ゆっくり目を開くと夜空人が現れた。
「夜空人、もう一度僕を…」
夜空人は黙って僕を見つめている。(今度は今日起こったあらゆる事故事件を調べてから戻る、万全を期すんだ)そう思っていると、夜空人が口を開いた。
「もう一度戻すことは可能だよ」
「良かった、だけどちょっと待ってくれないか」
「可能だけど…そうやって君は繰り返しているんだよ、次で10000回目だ」
「えっ…」
「10000回…?」
「さすがに余も飽きてきたよ」
「記憶は引き継げないのか…?」
「いや、9999回目の時に君の心が折れたみたいだね、これで最後にする、駄目だったら記憶を消してもう2度と現れないでくれと、それが最後の願いだったよ」
「じゃあなんで…」
「それは余でもわからない、だがまた余は再び君に出会ってしまった、さぁ願いをいえ」
夜空人の問いに僕は躊躇していた。そんなに繰り返しても救えなかったのか。それに今回で本当に最後になるのかも知れない。僕が黙っていると呆れたような顔をした夜空人は静かに語りかけてきた。
「君は何回も危険を回避しようとしていたが、そもそもが間違っているのだよ、人の運命を変えるということは生半可なものでは無い。まして自分の都合の良いように事象を変えるということは、同等かそれ以上の対価を払わなければいけない。余達、夜空人が叶えている願いはいわば等価交換のようなものであり、少しだけ手助けしているだけに過ぎない」
「それは…つまり…?」
「あとは君が考えることだ」
(僕にできること、わからない)
「君に2人分の命を救う価値がある人間なのかということかな。まぁもう君を見るのは飽きたよ。どちらにしても最後だ…」
僕は自分自身を思い返した。何事にも本気になれず中途半端な自分。そんな僕はあの日以来変わったと思っていた。いや、変わったはず。今の僕には記憶は無いが9999回も挑んでいたんだ。それにそこで終わったはずだったのに、あと一回の奇跡が残されている。
「夜空人…君に名前はあるのか?」
「余の名前…?しいていうならシリウスとでも名乗ろう」
「シリウス…今までありがとう…もう一回僕は戻るよ」
「よかろう、まぁ期待はしていないがな」
口元が少し笑っているように見えた。次の瞬間僕は再びあの朝に戻った。とても穏やかで静かな朝だった。
「大犯罪者のシリウスさんも丸くなったね〜」
「アルデバランか…何百年ぶりだ」
「あの男に執着してあんたもまた過ち繰り返しちゃうんじゃ〜?」
「お前の仕業か…?」
「俺は夜空人としての、使命を果たしただけだぜ。あの男の彼女というやつの願い。彼氏の心が折れたとき助けて欲しいって願いをよ」
「ふん、お前の力では根本的な問題までは解決できないようだな」
「あんたも全盛期の力はまだなんだろ〜それに飽きたとかいいながら毎回食い入るように見てたじゃねぇか〜」
「…久しぶりの夜空を懐かしがっていただけだ」
最後のチャンス。僕は何千回も繰り返したであろう思考の中で唯一試していないだろうと思うことに行きついていた。シリウスの言葉を幾度も頭の中で反芻し、間違っているかも知れないが今までの僕では到底辿り着けなかった答え。これで本当に最後だ。僕が2人の命を救う覚悟はできた。僕はその準備を始めた。(父さん、母さんごめん、僕にできる等価交換…これ以上のことは思いつかない…)伊織、桜子、流星、ごめん…そして、ありがとう…
とても怖くて、悲しい…でもこれで運命を変えるんだ。僕がいなくなることで…僕の心は夜空の漆黒。さようなら…
死んだらどうなるんだろと思ったことがあるけど、今僕は死んでいるのか?この思考はなんなんだ?ずっとこのままなのか?何か聞こえる…?
「…おい…翔!…どうした?!」
僕は流星の声で我に返った。僕の頬は涙で濡れていた。
「お前ぼーっとしてたと思ったら泣いて…大丈夫か?」
「えっ…あっ…?流星…?」
「怖い夢でもみたの?はは」
笑っているのは桜子。
「大学生活最後のパーティーだから感極っちゃったの?ちょっと私も…」
少し涙ぐむ伊織。
「みんな…いる…」
「そりゃそうだろ、どうしたんだよ?じゃあそろそろ買い出しに」
「だめだ!」
思わず叫びながら立ち上がろうとする流星の腕を掴む。
「はっ?何が?」
困惑する流星。僕は構わず続ける。
「買い出しに言っちゃダメなんだよ…」
「はぁ?いや、買い出しはもう行ったろ?」
「えっ?今買い出しにって…」
「あぁ、買い出しに行ってきたもので準備始めるかってとこだろ?」
「そうだよーお腹減ってきたしさ、早くやろうよ」
僕の不安をよそに楽しいパーティーへの準備が始まっていく。僕はこれから何か起こるのではないか怯えていたが、夜が深くなるにつれその心配は夜空に吸い込まれていった。輝く星に守られている気がした。
もう大丈夫なんだよな?よくわからないけど僕たちは生きてる。あの惨劇は乗り越えた。僕は運命を変えることができたのか。「なぁ、夜景でも見に行かないか?」流星が突然提案をした。こんな寒いのにこれから外に行くなんてと思っていたが、彼女達も乗り気だった。「よし、じゃあ行こうか、ちょっといい場所をみつけたんだ」もう日付が変わっていた。
僕は通算10001回目の12月25日に終止符を打ったんだ。流星の車で目的の場所に着いた。そこはあの公園だった。あの時は気付かなったがちょっとした丘の上にある公園で、そこから夜景を眺めた。
みんなが夜景を見ている時、僕は夜空を見上げていた。
「流れ星でも探しているのか?」
流星が僕にそう言うと、桜子が話に割り込んでくる。
「流星の名前の意味話してあげなよ」
「あー、なんか妊娠中になんか色々問題があったらしくて生まれてきても健康では無いみたいな?それでも親は産む決断してさ、その間毎晩のように夜空に願っていたらしい、それである日流れ星を見つけて願いを叶えてやるとかみたいな話なんだけど」
「それで流星…」
「まぁ話を盛ってロマンチックにしたんだろうけどな」
「私はその話が大好き」
桜子が満面の笑みで答える。
「私も小さい頃によく願い事してたよ」
「桜子の願いは叶ったの?」
「うーん、わかんない」
「わからない?どんな願いだったんだ?」
「それは秘密…でも叶っているのかも知れないし、まだなのかもしれない…」
「なんだそれ」
僕たちは夜空の星々の中で思い出を語り合った。この光景をシリウスは見ているのだろうか。今もどこかで夜空人としての使命を果たしているのだろうか。人の願いの先には人がいて、その先の願いにも人がいる。星と星を結んで星座を作るように、願いを紡ぐことで愛や友情、平和に希望といったものを作ってくれているのではないか。
あの日以来、夜空人に出会うことは無かった。僕達は当たり前のように大学を卒業し新米社会人として毎日右往左往している。各々が新しい場所、新しい環境での生活が始まったが結びつきは変わっていない。これからまた様々なことが起こるのだろう。そこには多くの喜怒哀楽が存在し、それを受け入れ、時にはあらがいながら生きていくと思う。もし、また僕に絶望が襲ってきたときは夜空を見上げ、今度は僕がこう言うんだ。
「僕は天川翔、願いを叶えさせてやる、そこで見てろよ」
全天で最も輝く一等星、シリウスに向けて。
完
〜エピローグ〜
「君の願いを叶えよう、さぁ願いを言え」
「うーんとね、翔が死んじゃうってときに助けてほしいかな」
「その願いは難しいな」
「ダメなの?なんで?」
「その願いを叶えるにはお嬢ちゃんの築いてきたものが浅すぎる」
「???」
「…つまりこれからもっと良い子になりなさいということだ」
「わかった!わたしがんばるよ!」
「心得た、その時が来た時に判断しよう」
「うん、ところであなたおなまえは?わたしはさくらこだよ」「余に名前はない」
「ふーんじゃああなたはシリウス、一番光ってる星だよ」
「ふん…好きに呼ぶがいい」
fin




