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  作者: 月桂樹
7/7

しゃべり続ける神

「今日、我が部隊に新しい任務が下りた。」


ヒナタは三人の新人の前に立ち、腕を組んだまま、いつもの無表情で告げた。

その後ろでは、マキがいつもの穏やかな笑みでお茶を淹れている。


「お前たち三人が訓練している間、任務は全部マキが一人でこなしていた。だから次の任務は、彼女を休ませるためにも、全員で向かう。」


マキは驚いたように目を瞬かせた。

「わ、私は大丈夫ですよ、本当に――」


「休む権利はある。」

ヒナタはきっぱりと言い、再び新人たちへ向き直る。


「よく聞け。天空島から降りてくる脅威にはいくつかの種類がある。神、霊獣、そして伝承に登場する人間型の存在だ。神は上位三部隊のみが担当し、強さによってどの部隊が対応するか決める。」


そこで一度言葉を切る。


「ついさっき、上位の神が天空島と人間界を繋ぐ結界を強引に突破した。」


リンの目が大きく見開かれた。ユウジは背筋を伸ばし、ダイチでさえ真面目な顔になる。


「か……神と戦うんですか?」リンは声が震えた。


「戦うのは 俺 だ。」

ヒナタが訂正する。「お前たちは見るだけだ。では準備しろ。」



---


市場は地獄絵図だった。


屋台は倒れ、野菜や果物は石畳に散乱し、魔力の爆ぜる音が空気を裂きながら、一般人は必死に逃げ惑っている。

その中心に、小柄で子供のような姿だが、空気が揺らぐほどの力を放つ存在が立っていた。


スクナヒコナ。


神は緑色の魔力を帯びた球体を連続で放ち、建物を爆発させ、瓦礫が舞った。


「人間ども!」

「我が兄はどこだ?!答えろ!!」


ギンッ。


空中にヒナタが現れ、二つの魔力球を刀で同時に切り裂いた。

魔力は霧のように消え去る。


スクナヒコナが振り返る。「なに――」


言い終える前に、ヒナタがすでに目の前にいた。

一閃。肩から腰へ斜めに走る致命的な斬撃。


血が石畳に飛び散る。


神はよろめき、傷口を押さえたが――

それはゆっくりと、しかし確実に再生し始めた。


「再生能力か。」

ヒナタは地面に着地し、回復速度を観察しながら呟く。

「これを耐えるやつは少ない。」



---


市場の端で、リン、ユウジ、ダイチの三人は呆然とその光景を見ていた。


「今……神の魔法を普通の刀で斬った?」リンが震え声で言う。


「いや、あれは普通じゃない。」ユウジは冷静に分析する。「あの一撃、ほとんどの神なら即死だ。でも再生してる。」


「たいした神様だな。」ダイチがぼそり。


ヒナタは再び動き、神は反撃すらできず、斬撃だけが続く。

神の魔法は防がれ、反撃は潰され、再生は追いつかない。


「……魔法すら使ってない。」ユウジが呟く。「純粋な剣術だけで、上位神を圧倒してる。」


「再生を上回る量で、傷を与え続けてるんだ。」リンが気づく。


突然、ヒナタが彼らの横に現れた。三人は飛び上がる。


「正解だ。」

「大半の神ならもう死んでいる。だがこいつは特別だ。再生持ちは珍しい。だが限界はある。十分なダメージを短時間に与え続ければ抑え込める。」


ヒナタは神を振り返る。傷に覆われ、立ち上がろうとし、また崩れる。


「俺には生命力がないから封印はできない。マキは休ませている。お前たちは上級共通魔法がまだ使えん。だから部隊まで引きずっていく。」


彼は言う。


「……手伝え。」



---


再生し続ける神を運ぶのは、聞こえるよりもはるかに厄介だった。


スクナヒコナは、怪我だらけでも口だけは止まらない。


「分かってない!!」と、四人がかりで運ばれながら叫ぶ。

ヒナタが片腕、ユウジとダイチがもう片腕、リンが足を持っている。


「奴らが兄を連れ去ったんだ!!」


「はいはい。」ヒナタは無表情で歩く。


「本気だ!!オオクニヌシが……兄が……天空島から消えたんだ!!」


「そうか。」


「助けてくれ!!人間に連れ去られたんだ!!」


三人は困惑し、ダイチは重量にうんざりしていた。



---


第一部隊に戻ると、彼らはスクナヒコナを訓練場の中央に放り投げた。


すぐに神が叫び始める。

「聞いてるのか!?兄がいないんだぞ!!神々が消えているんだ!お前たちは――」


「適当な妄言だろ。」ヒナタは歩き出す。


「ヒナタ。」

優しいが強い声が響いた。


マキだった。

いつものお盆もなく、ただ真剣な眼差しで立っている。


「話を聞くべきです。」


ヒナタの足が止まる。「命令は変わらない。」


「変えるべきかもしれません。」

マキは神のそばに膝をつき、優しく言う。「教えてください。何があったのか。」


スクナヒコナは驚いたように目を瞬かせる。

先ほどの荒々しさが崩れ、悲痛な表情が浮かぶ。


「兄……オオクニヌシが……三週間前に姿を消した。」

「誰も見ていない。痕跡もない。でも残された魔力痕と足跡は……神のものじゃなかった。人間のものだった。」


訓練場が静まり返る。


「人間に……?天空島に行けるのか?」ダイチ。


「行ける。」ヒナタ。「天空島へ繋がる門がある。だが開けられるのは隊長以上だ。」


「じゃあ、隊長が犯人?」ユウジが険しい顔で言う。


リンは首を横に振る。「そんな……侍が神を誘拐なんて……守る側なのに……」


スクナヒコナは乾いた笑いを漏らす。


「守る?英雄?笑わせるな。」


声は震え、怒りと悲しみが混じっていた。


「兄だけじゃない。何人もの神が消えている。力を奪われ、死体で見つかった者もいる。何も残らず失踪した神もいる。助けを求めた。調べようとした。でも……誰も動かない。誰も……気にしない。」


拳を握りしめ、震える。


「だから結界を破ってでも来た。助けを求めに。誰か……誰でもいいから……」


沈黙は重く、痛いほど深かった。


マキは涙を浮かべる。


リンは胸が締め付けられるような感覚を覚える。

自分が信じてきた“正義”が崩れる音がした。


「もしそれが本当なら……」

ヒナタの声は低く、今まで聞いたことのない鋭さがあった。


「犯人を必ず見つけ出す。必ず裁く。」


スクナヒコナはヒナタを見つめる。

「本当に……?」


リンが前に出た。拳を握りしめ、震えるが声は揺れない。


「兄さんを見つけます。絶対に。」


神の目が大きく開かれる。


「なぜ……?私は市場を壊し、人を傷つけたのに……」


「関係ありません。」リンは言う。「神をさらい、殺している奴らがいるなら――止める。侍は、そういう時に立ち向かうためにいるんです。」


ユウジもうなずく。「腐敗があるなら放っておけない。」


ダイチも腕を組んで言う。「侍になった理由は、見て見ぬふりしないためだ。」


マキは涙を拭き、微笑む。「封印なんてしません。あなたは助けを求めに来た。なら、助けます。」


ヒナタは三人を見て、わずかに誇らしげな表情を見せた。


「証拠が必要だ。慎重に動く。隊長が関わっているなら、上層部全体の問題だ。一歩間違えれば、我々は反逆者になる。」


彼は真っ直ぐに三人を見る。


「それでも進むか?」


リンは即答した。「はい。」


ユウジとダイチもうなずく。


スクナヒコナは震えながら小さな笑みを浮かべた。


「ありがとう……ありがとう……」



---


その夜。

リンは訓練場で一人、夜空を見上げていた。


雲の上に天空島がある。

そこで神々が消え続けている。


球体の測定値・999。

“バグ”と笑われた自分。


でも、今は関係ない。


助けを求める者がいる――それだけだ。


必ず見つける。

兄さんを。真相を。侍全員を敵に回してでも。


後ろで扉が開き、ユウジとダイチが出てくる。


「眠れなかったか?」ユウジ。


リンは頷く。「考えることが多くて。」


「だよな。」ダイチも空を見上げる。


三人は並んで立ち、雲の向こうにある天空島を見つめた。


これから向かうのは、想像を超える巨大な謎と闇。


だが――

三人なら歩いていける。



---

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