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  作者: 月桂樹
3/7

皆を打ち破ったDランク

リンは拳を鳴らした。

ユウジは肩を回した。

ダイチはヒナタに向かってドラマチックに指を突きつけた。


「覚悟するがいい、下民! この俺、王子ダイチが――」


「始めろ。」

ヒナタは静かに言った。


三人は同時に飛び込んだ。


リンは低く構え、ヒナタの足を狙う。

ユウジは右側から、刀を半分抜いた状態で斬りかかる。

ダイチは……ただ叫びながら正面から突撃していた。


ヒナタの手が刀へ伸び――


そして彼は 消えた。


「なっ――」

リンは目を見開き、急ブレーキをかけてユウジに突っ込みそうになる。


ドスッ。


ダイチが地面に顔面から倒れ込む。後頭部には綺麗な靴跡。


「一人目。」

ヒナタは背後から落ち着いた声で言った。


リンは振り向く。「いつの間に――」


ドスッ。


後頭部に衝撃。景色が回り、リンは袋のように崩れ落ちた。


「二人目。」


ユウジはすでに動いていた。

反射が他の二人より一瞬早い。振り返りながら、後ろから来る一撃を読むように刀を構える。


しかし、刀が斬ったのは――空気。


「なっ――」


ドスッ。


ユウジの顔面が土に沈む。


三秒。

それだけで終わった。


ヒナタは訓練場の中心に立ち、刀を 鞘に納めたまま、表情一つ変えない。

まるで軽い準備運動を終えただけだ。


「話にならない。」



---


リンはうめき声を上げながら、腕を震わせて起き上がった。

頭が ガンガン する。


「い…今の……なんだよ……」


「今のは教訓だ。」

ヒナタが歩み寄ってくる。


「一番隊に弱者は要らない。」


三人が洗濯物のように地面に散らばっているのを見下ろす。


「一ヶ月だ。」

ヒナタは続ける。

「一ヶ月以内に、俺に刀を抜かせることができなければ――何人かは切り捨てられる。

王族だろうが関係ない。」

気絶寸前のダイチを一瞥。

「金持ちでも関係ない。」

ユウジにも視線。

「そして、球体がつけたランクなんてもっとどうでもいい。」


最後にリンを見る。


「どうしてSランク二人とAランク一人が、Dランクに三秒で負けるんだ?」


リンは瞬きをした。「……え、Dランク?」


「そうだ。」


「今、俺らをボコボコにしたのに?」


「その通りだ。」


ユウジはゆっくり起き上がり、頬に土をつけたまま言った。

「あり得ない……Dランクは生命力が500以下の奴だぞ。どうやって――」


「今どきの侍は弱い。」

ヒナタが遮る。

「生命力に頼り、刀に封じられた神に頼り、力任せの戦いしかできない。

“戦士”が何なのか忘れている。」

背を向けて歩き出す。

「だから、Dランクがこの国で最強の副隊士なんだ。」


三人は呆然とした。


やっとダイチが顔を上げる。

「お……俺たち、勝ったか……?」


「勝ってない。」

リンとユウジが同時に答える。


「そ、そうか……」

ダイチは再び地面に沈んだ。



---


数分後。

マキが湯気の立つ茶の盆を持ってやってきた。


「初日から大変だったみたいだね?」

優しい笑顔。


「刀すら抜いてねぇんだよ……」

リンは震える手で茶を受け取る。

「気づいたら、俺ら全員地面に転がってた……」


「それがヒナタくんだよ。」

マキは盆を置く。

「厳しいけど、最高の指導者だよ。」


「最高の指導者?!」

ダイチが飛び上がる。

「王族に手を出したんだぞ! 処刑もできるのだぞ、我は!」


「やってみたら?」

マキは明るく言う。

「たぶん負けるけど。」


ダイチはしぼんだ。


ユウジは茶を飲みながら真面目な顔。

「マキ……Dランクってどういう意味なんだ?

あんな速度、あんな技術……生命力が低い奴にできるわけない。」


マキの笑顔が少しだけ柔らかく消える。

彼女は膝を揃えて座り直す。


「ヒナタくんはね……特殊なの。

彼は史上初めて、“生命力ゼロ”で侍になった人なの。」


「ゼロ?!」

リンは茶を落としそうになる。

「いやいや、それ死んでるって意味じゃ――」


「そう思う人も多いよ。」

マキが頷く。

「でも生命力って、本当は命の強さとは関係ないの。

刀の神との相性、力の出力……そういう“生まれつきの数値”に名前をつけただけ。」


「つまりヒナタは……全くない。」

ユウジが呟く。


「うん。

神の加護もない。

能力もない。

エネルギーもない。

本当にただの人間。」

マキは微笑む。

「だからこそ危険なの。

彼の速さも、精度も、反応も――全部“実力”。

鍛えた身体、経験、そして剣技。

それだけで最強になった人。」


リンは震えた。

「化け物かよ……」


「それが一番隊だよ。」

マキは続ける。

「みんな何か変なのか、何か欠けてるの。

ヒナタくんは生命力ゼロ。

私は女――本来なら侍にはなれない。

でもミナト隊長は古いルールが嫌いだからね。」

ダイチを見る。

「あなたは能力の制御ができないから送られた。王宮を吹き飛ばす前にね。」


ダイチは青ざめた。

「あれは……たった一つのシャンデリアだ……」


次にマキはリンを見る。

「そしてリンくんは……うん、良く言えば“全部欠点で、特に長所なし”だね。」


「言い方!!」

リンが叫ぶ。


「だって皆そう言ってたよ?

999はただのシステムバグだって。」


「俺、ここにいるんだけど!?」


「ごめんごめん! 悪気はないよ! 客観的にはそう見えるだけ!」


「改善しろその言い方!!」


最後にマキはユウジへ。

「ユウジくんは逆。

欠点ゼロ。

完璧な技術。

天才中の天才。

あとは経験さえ積めば最強になれるよ。」


ユウジは茶を吹きそうになった。

「は、はぁ!? ぼ、僕はそんな――」


「赤くなってるよ?」

リンがニヤニヤ。


「なってない。」


「なってる。」


「黙れバグ野郎。」


「ほう、今度はそういう言い方か。」


マキはクスクス笑った。

「二人とも仲いいね。」


ダイチは突然立ち上がる。

「俺が能力を制御できないだと!? 馬鹿な!

完璧に扱える! 見せてやる!」


刀を抜き、金色の光が微かに灯る。


「見よ! これが――」


光が強くなる。

揺れる。

暴走する。


そして 爆発した。


ダイチは吹っ飛び、木に激突。


茶器は宙を舞い、リンは避け、ユウジは深いため息。


マキだけは穏やかな笑顔で見守っていた。


木からずり落ちたダイチは、髪を焦がしながら言った。


「今のは……わざとだ。」


「どこがだよ。」

リンが呆れた声を出す。



---


その夜。

リンはベッドに仰向けになり、天井を見つめていた。


体中が痛い。

プライドもボロボロ。


……なのに、笑いがこみ上げてくる。


「一ヶ月……」

リンは呟く。

「一ヶ月で、あの人に刀を抜かせてやる……」


窓の外では月が明るい。


訓練場のどこかで、ヒナタはきっとまだ剣を振っている。


リンは目を閉じた。


――待ってろよ、ヒナタ。



---

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