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  作者: 月桂樹
2/7

ようこそ、スクワッド・カオスへ!

第1師団の敷地までの道のりは……気まずかった。


原因は湊ではない。彼は前を歩き、ポケットに手を突っ込み、人生の意味でも昼飯のメニューでも考えているような顔で黙っていた。

気まずさの原因は、凛の横を歩く歩く災害そのものだった。


高道ユウジ。


十歩ごとに、ユウジは凛を横目で見てはニヤッと笑い、また前を向く——まるで見えない勝負に勝ったとでも言いたげだ。腹立たしいにもほどがある。


「なあ」凛が小さくつぶやく。「そんな顔して歩いてたら、マジで固まるぞ」


「何か言った、いとこ?」

ユウジは甘い声で言うが、目は『殺すぞ』と言っていた。


「いや。独り言」


「ふーん。できれば静かに考えてくれ。フロックの独り言なんて聞きたくないから」


凛の目がピクッと動く。「フロック?俺、お前と同じ点数だっただろ!」


「お前が取ったのは“バグ”だ」ユウジは袴の埃を払うふりをしながら言った。「違いが分からんのか」


凛が反論しようとしたその時、湊が突然立ち止まった。


「着いた」

淡々とした声。


凛は顔を上げ——固まった。


第1師団の敷地はとにかく広い。

複数の訓練場、伝統的な道場、完璧に整えられた庭園、そして歴史書に載っていそうな本館。

どこを見ても清潔、豪華、そして金がかかっている。


「ここに住むのか…?」凛は目を見開いた。


「ここに住むのは俺な」ユウジがニヤリと修正する。「お前は客」


「二人とも黙れ」湊が振り返らずに言った。「新入りはお前らだけじゃない。あと一人来る」


「あと一人?」ユウジが眉をひそめる。「誰——」


「道を開けろ!王族のお通りだぁぁ!!」


後ろから怒鳴り声。

図々しい上にやたらと鼻につく声だった。


振り向くと——


同い年くらいの少年が大げさな身振りで歩いてくる。

金の刺繍、龍の紋様、何重にも重なったローブ——もはや小さなテント。

髪は完璧、姿勢は「俺は偉い」と叫び、後ろには荷物を持たされた疲れ果てた従者が二人。


「平民どもよ、よく聞け!」少年は胸を張る。「我こそは第三王子・大地!貴様らより明らかに優れた隊員だ!頭を垂れよ!」


沈黙。


凛とユウジは目を合わせた——人生で初めて意見が一致した瞬間だったかもしれない。


「本気か?」凛が小声で。


「……多分な」ユウジが困惑した顔で返す。


「頭を垂れろと申した!」大地が足を踏み鳴らす。


「いや、無理」凛。


「断る」ユウジ。


大地の顔が真っ赤になる。

「貴様ら、私が誰だか分かっているのか?!私は王族だぞ!父上は国王だ!敬意を——」


「そしてその敬意で何をさせるつもりだ?」

湊の低い声が背後で落ちた。


大地の動きが止まる。

ゆっくりと振り返ると、無表情の湊が立っていた。


「い、いや……その……序列を……確認……?」


「序列なら教えてやる」湊は冷たく言う。「俺が隊長。お前らは全員、実力を見せるまでは同じ“雑魚”だ。王子、お前もな」


大地は口をパクパクさせる。


「だ、だが私は王族——」


「たとえ創造神でも興味ない。俺の隊ではただの新人だ」

湊は踵を返し、本館に向かって歩き出した。「時間を無駄にするな。ついて来い」


大地はその場で口を開けたまま固まる。従者は必死に笑いをこらえていた。


凛はニッと笑った。

「ここ……面白くなりそうだ」



---


館内に入ると、ほのかな茶の香りと、凛の脳を一瞬で停止させるほど美しい少女が目に入った。


部屋の中央で、流れるような動きで茶を淹れている。

長い黒髪をすっきりと結び、上品で控えめな稽古着。

彼女が顔を上げて微笑んだ瞬間、凛の思考は終了した。


「ようこそ」彼女は柔らかく言う。「新しい隊員の方々ですね。私は真木リョウです。よろしくお願いします」


凛は口だけ動かし、声が出ない。


珍しくユウジも固まっていた。


大地でさえ、怒り途中でフリーズする。


「……や、やあ?」凛はようやく声を絞り出した。


「こんにちは」ユウジは早くも平静を取り戻し、妙に優雅に前に出た。

「高道ユウジです。あなたのような洗練された方に会えるとは光栄です」


真木は驚いたように瞬きをする。「あっ……ありがとうございます?」


「俺、凛!」凛はユウジを押しのける勢いで出る。「高道凛!こいつとは関係ない!いや、関係あるけど近くない!とにかく、よろしく!」


真木はクスッと笑った。「とても元気ですね」


凛の心は爆発した。


「どけぇぇ平民ども!!」

大地が二人を押しのけ、片膝をついて真木の手を取る。

「麗しき乙女よ!私は第三王子・大地!あなたの美しさに心を奪われた!私と結婚を!」


沈黙。


真木、凛、ユウジ、そして去りかけた湊までが振り返る。


「今、こいつ——」

「言ったな」ユウジが呆然。


真木は微笑んだまま、そっと手を引く。

「大変光栄ですが……お断りします」


「なっ?!だ、だが私は王族で——」


「うるさい」湊が割り込む。「真木、こいつらを部屋に案内してくれ。これ以上喋ったら窓から放り投げる」


「はい、隊長」真木は小さく頭を下げた。


三人の少年たちは、忠犬のようについて行った。



---


案内は順調だった。——あいつが現れるまでは。


一瞬前まで誰もいなかった廊下に、突然、男が立っていた。


「うわっ!」凛は飛び退く。「ど、どっから出てきた?!」


男は答えない。

年齢は十八、十九。鋭い目、無表情、冷たく無口。

制服は完璧、刀は整然と腰に。


「失礼」

低く落ち着いた声だけを残し、通り過ぎようとする。


「ひ、日向くん!」真木が真っ赤になりながら叫ぶ。「気づきませんでした!今日の稽古はどうでした?あの……お茶……淹れてあります!えっと、その……!」


日向は一瞬だけ彼女を見る。ほんのわずかな会釈。

「ありがとう、真木。後でいただく」


そして消えた。


真木は胸の前で手を握りしめ、神に祝福されたような顔をしていた。


凛、ユウジ、大地は顔を見合わせた。


「今の……誰?」凛。


「日向宗介さんです」真木はうっとりした声で言った。「彼は……すごいんです」


「どうすごいんだ?」ユウジが聞くが、すでに敵意100%。


「侍団で一番の努力家です。毎日12時間も修行してるんですよ。隊長は“昔の侍を思い出す”って言ってました。才能や刀に封じられた神頼みじゃなく、純粋な技と鍛錬で強くなった人です」


「努力バカじゃん」大地がふんと笑う。


「“努力家”です」真木が睨む。「そして明日から、彼があなたたちの教官です」


「えっ、あの人が?!」凛が目を丸くする。


「年齢は関係ありません。日向さんは第1師団でも指折りの実力者です」


「最悪だ……」ユウジがぼそり。


凛は黙っていたが、心の中では一つの考えが響いていた。

あの人、真木さんに気があるとかじゃないよな……?


「安心してください」真木が何気なく言う。「日向さん、私に興味ないですよ。もう散々アプローチしたので分かります。彼は訓練に人生ささげてます」


「よかった……」凛が素で言ってしまう。


真木が眉を上げる。


「い、いや!悲しいって意味で!あなたのために!」


ユウジが吹き出した。



---


その夜、凛は新しい部屋で天井を眺めていた。


すごくいい部屋だ。

清潔な布団、明かり、窓。今までの人生で一番まともな部屋。


なのに頭にあるのは明日のことだけ。


第1師団の天才との訓練。

ユウジですら黙らせる男。


「まあ、死ななきゃ大丈夫だろ……」


目を閉じると、廊下の向こうから大地が糸の数について怒鳴る声が聞こえる。


——うん。馴染めそうだ。



---


翌朝


ドアを叩く音で凛は飛び起きた。


「起きて!今すぐ!訓練は10分後よ!」

真木の明るい声。


「10……はあ?!」

凛は飛び上がり、制服を着て、顔を洗い、全力疾走。


外に出ると、ユウジと大地はすでに整列していた。

朝からやたらと余裕の表情。


「来たか、寝坊助」ユウジ。


「寝坊したんだよ!訴えろよ!」


「静まれ!」大地が叫ぶ。「王族の私がいるのだ!すぐに訓練を始めよ!私は正午にマッサージの予約が——」


その瞬間、影から人影が現れた。


日向宗介。


昨日と全く同じ。冷たい、無表情、そして恐ろしく強そう。


「おはようございます」

彼は滑らかに刀を抜いた。朝日を反射して光る。

「今日から訓練を始めます」


「えっと……何するんですか?」凛が手を上げる。


「簡単です」日向は無表情のまま言った。「三対一。私に一撃でも当てられたら合格です」


「まじで?それだけ?」凛。


「それだけです」


「当てられなかったら?」ユウジ。


日向の目がわずかに鋭くなる。

「当てられるまで、毎日これを続けます」


「ふん!三対一など余裕だ!」大地が胸を張る。「一瞬で倒してやる、下々の者よ!」


日向は反応しない。

ただ静かに構えた。


凛はユウジを見る。

ユウジも凛を見る。


二日連続で、二人の意見が一致した。


これは地獄だ。


「始めろ」


日向宗介が言った。


そして地獄が始まった——。

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