RPGのモブに男主人公の姿で転生した俺、バッドエンド回避して女主人公とラスボスを助けたらなぜか修羅場になった
―『プリテスタファンタジー』。
いわゆるRPGというこのジャンルには主人公を男女選択できるものがある。この『プリテスタファンタジー』もその一つであり、よく見掛けるごく普通の作品だ。
しかし、この手の作品に思っていたのだが、モデルや台詞も別々に用意されているにもかかわらず、片方の主人公を選んでしまうと、もう片方の主人公の出番がないというのも勿体ないよな、と思ったりしたことがあるのは俺以外にも居るんじゃないだろうか?
そして、俺はというと、その手のゲームでは必ず男を選んでいる。いや、だって女の方を選ぶのって俺が男というのもあってストーリーに入り込みにくいし……なんか恥ずかしくて。
とまあ、そんな話は置いておいて―
「―それで、俺は夢でも見ているんだろうか?」
俺は鏡に映る自分の姿に思わず首を傾げながらそう口にする。というのも、なぜか目が覚めると、俺はその『プリテスタファンタジー』の世界に居たのだ。
「ただ……ここ、俺の知ってる部屋じゃないんだよなぁ……しかも、まだ子供だし」
そう言って、俺は鏡に映る自分の姿を色々と見てみる。まだ十歳そこそこの子供の見た目ではあるが……うん、間違いなく俺が極めた『プリテスタファンタジー』の主人公の見た目で間違いない。親の顔ほど見たからな。
とはいえ、簡単に信じることができない俺は自分の拳を作ると―自分を思いっきり殴った。
「痛ぇ!? な、何すんだ!? ……ふむ、やっぱり痛いな」
一人芝居をうってみたが、普通に痛い。夢じゃないらしい。
――まず、状況を整理しよう。
俺はこうなった原因を探るため、軽く今日までの記憶を遡ってみる。
社会人になって入った企業がブラックで、毎日死に掛けて、上司のミスに付き合わされていつもサビ残を強要され睡眠不足のせいで起きてるんだか寝てるんだか分からなくて―
「―はっ!? い、いかん……! 社会という現実のあまりのヤバさを思い出して思わず気絶しそうだった……! ……よし、忘れよう」
そう思うと、俺は綺麗さっぱり昔を忘れた。うん、忘れた。
「しかし、それはそれとして、結局ここはどこなんだ?」
『プリテスタファンタジー』の主人公はもともと王国生まれで、親は居ないものの、他の弟子と一緒に子供の頃から普通の家に住まわせてもらってるはずだけど―
「……どう見ても、お世辞にもここが『普通の家』とは言えないよな」
ボロボロになった壁や天井、そしていたるところに無理矢理付けた板……雨でも降った日には間違いなく浸水するだろうこの場所を普通の家とは間違っても言えない。おまけにベッドだって埃だらけでほとんど布切れ状態……ここ、本当に人が住む場所なのか?
「まあ、ちょっと、外でも見てみるか……よっと……って、おおおお!?」
窓の外を見てみると、真ん中に城が建っていて絶景だった。そして、それはまさに『プリテスタファンタジー』の中にあった城であり、俺がその世界に来たことを証明した。
「まさか、生きて『プリテスタファンタジー』の城を実際に拝める日が来るとは……感慨深いな。いや、生きてる……のか?」
まあ、そんなことはどうでも良いか。
そうして、俺が窓から見える景色に感動していた時だった。
―カンカンカンッ!
「ん? なんの音だ?」
例えて言うならフライパンをお玉で叩いたような……いや、そんなベタなこと今時しないよな。しかし、扉の向こうから聞こえてくるその音はそうとしか言いようがなく、俺が疑問に抱いていると、やがて扉が開かれた。
「ちょっと、シュウ? お昼だけど、具合でも悪いの?」
「え? 俺の名前?」
心配そうな顔で扉を開いてきた女性が発した言葉に俺は思わず声を上げてしまう。
俺の生前の名前は最宗 修……しかし、この『プリテスタファンタジー』の主人公の名前はマフィだ。
男女ともに使える名前に設定されていて、俺の姿はその男主人公だし、マフィだと思っていたんだが……。
「えっと、あの……それって俺の名前?」
「え……? ちょっと、まだ寝ぼけてるの? もしかして、頭でも打った?」
そうして、俺が戸惑っていると、少女はずかずかと中に入ってきて、わきにフライパンとお玉を置いて俺の下へとやってくる。さっきのってやっぱりあれだったのか……。
そして、俺よりも少し年上であろう彼女は、俺のおでこに手を置くと、心配そうな顔で声を掛けてきた。
「熱は……無さそうね。大丈夫? 私のこと分かる? エリシルよ」
「あ、あ~……」
すると、なんか少し記憶っぽいのが流れてきた。そうだ、彼女の名前はエリシル……この孤児院の年長者だ。
どうやら、俺は過去のこっちでの記憶と現実の記憶が同時に存在しているらしい。
とはいえ、こっちの記憶は映像として記憶されているというか、あまりはっきりはしておらず、現実の記憶の方が強く残っている。
ただ、今みたいに何かきっかけがあれば思い出せるみたいだし、上手く使えばこの世界で変に思われずに生きていけそうだ。
「ごめん、エリシル。もう大丈夫。まだ起きたばかりだから寝ぼけてたみたいだ」
「本当に? 風邪とかひいたりしてない?」
「大丈夫大丈夫」
「もう、しっかりしてよね。それより、ご飯できてるから早く食堂に来て」
「すぐに行くよ」
そう言って、扉の向こうに消えるエリシルを見送ると、俺は頭の中に出てきた『引っ掛かり』に両腕を組んで考える。エリシル……エリシル……はて、その名前をどこかで聞いた記憶が―
「―あ」
あれだけ『プリテスタファンタジー』をやり込んでいた俺ですら、エリシルという名前にすぐに行きつかなかったのも無理はない。
何故なら、エリシルはこの『プリテスタファンタジー』のラスボスであるミュライトの姉であり、孤児院で一緒に住んでいたが……物語開始時点で、すでに死んでいたのだから。
◇
「―いただきます」
そう挨拶するものの……俺達の前に置かれたのは何切れかに分けられたパンとほとんど水の状態のスープだった。これが昼飯……。
孤児院の中には少し歳は違うものの、俺くらいの子供が十人くらい机に座って食事をとっていた。俺も含めて、全員孤児なんだよな……。
そうして俺がここでの記憶を少し思い出していると、隣に座っていた少女が不機嫌な様子で声を向けてきた。
「何? 食べないの?」
「え? あ、いや、食べ―って、ミュライト!?」
俺は思わずその少女の顔を見て驚き声を上げてしまう……間違いない、子供の時を見たのは初めてだけど、この『プリテスタファンタジー』のラスボス、ミュライトだ。
そんな俺にミュライト―いや、この孤児院での俺の記憶ではミュラと呼ばれていた彼女は不機嫌そうな顔をさらに不機嫌にさせて声を返してきた。
「は? 何、いきなり?」
「あ、いや、はは……何でもないよ……」
「あっそ」
そう言うと、ミュラはまるで興味をなくしたように自分の食事へと戻っていった。マジかよ……本当にあのミュラが居るよ……。
そうして、俺が驚いていると、そんな俺達に気付いたエリシルが声を掛けてきた。
「ミュラ? あんまりシュウをイジメたらダメよ?」
「ううん、そんなことしないよ」
「そう? それなら良いけど、みんな仲良くしないとね」
「うん」
って、えええええ!?
あ、あのミュラが笑ってる!? 傍若無人で、顔色一つ変えないあのラスボスが!? お、俺は夢でも見ているのか……いや、もう、この状況自体夢みたいなもんなんだけど。
しかし、そんな天使みたいな笑顔も一瞬。エリシルが他の女の子のご飯粒を取ってあげているのを見たミュラは、俺へとその顔を向けると、そんな笑顔はどこへやら、少しラスボス時代を連想させる冷めた顔を俺へと向けてきた。
「……あんたのせいで、エリシルに怒られたじゃない」
「あ、やっぱりミュラだな」
「はあ? 何言っているの?」
「あ、いや、ごめん、何でもない」
「変なの……」
そう言って、ミュラは眉をひそめつつ、再び食事へと戻る。まさか、ミュラってエリシルにあんな顔するとは驚いたな。作中では笑顔とか絶対に見せなかったし……いや、俺にも見せてくれないけど。
しかし、そんなことを考えながら俺がミュラを見ていると、ふとミュラは何か勘違いしたらしく、パンをちぎると、俺に向けて皿を差し出してきた。
「……あげる」
「へ……?」
「ご飯、足りないから見てたんでしょ? 良いよ、あげる」
「いや、別に俺は―」
「良いから」
そう言うと、半ば強引に皿を向けてくるミュラ。そんなミュラに驚いていると、机の向こうでエリシルが笑顔で俺達を見ていた。
「あ、ありがとう……」
「……ん」
そうして、俺の反応に満足したのか自分の食事に戻っていくミュラ。こんな優しい子がラスボスになるのか……
ラスボスとして主人公の前に現れるのはおよそ七年後。
そんな光景を横目に、俺は必ず彼女達を守る決意を固めたのだった―。
◇
「―おぉ、自分のステータスが見えるのか」
部屋に戻った俺は、自分のステータスを表示して驚いていた。ちなみに孤児院だから本来は相部屋だが、今は孤児が少ないため、一人一人部屋が割り当てられている。
というわけで、俺は周りの目を気にすることなくこういうことが試せていた。
「ステータスは……『プリテスタファンタジー』の画面そのままだな。え~と、俺のレベル1で、ステータスは……さすがに詳しい数字は覚えてないけど、やっぱり、マフィとほとんど同じに見えるな。ただ……何だこれ? スキル『』って……空白じゃないか。本来ならキャラのスキルとか色々あるのに、『』って……まあ、見た目が主人公でも、今のポジション的にゲーム未登場のモブキャラだし、仕方ないか。それにしても、このステータスってこの世界の標準なのか?」
ゲームの世界ではあるが、ストーリー上に「ステータスを確認して」なんて言う作品は稀だし、『プリテスタファンタジー』の中ではなかったしなぁ……。
「よし、この世界で浮かない為にも常識のすり合わせをしておこう」
「―ステータス? 何それ?」
そうして、俺はひとまずミュラとエリシルの二人を呼んでステータスについて尋ねると、ミュラが怪訝な顔でそう返してきた。エリシルの方もミュラと顔を見合わせると、少し悩むような仕草を見せた後、声を返してくる。
「うーん、私も聞いたことないけど……あ、でも、スキルで相手のことを少し知ることができるっていうのがあるとは聞いたことがあるわ。すごい珍しいスキルらしいけど……」
そういえば、『プリテスタファンタジー』の中にそういうのあったな……弱点が見えたりとか。便利ではあるが、確かにあれは一部のキャラが覚えられるスキルだった。まあ、もちろん、自分の仲間のステータスは見れるけど。
――ということは、この世界でもそれは『プリテスタファンタジー』と同じってことか。だとしたら、これはなるべく秘密にした方が良さそうだ。バレたら騒ぎになりそうだしな。
そんなエリシルの言葉に考えごとをしていると、ミュラが訝しげな顔をしながら声を返してきた。
「それで? どうして、いきなりそんなこと聞いたの?」
「え? あ~……いや、窓の外でそんな話をしてた人が居たから気になってさ」
「そうねぇ、そういうスキルは珍しいからすぐに噂になるものね」
「まあ、そうだよなぁ……」
そう言って、俺はエリシルの話に頷き返す。やっぱり、これは隠しておいた良さそうだ……。
――それにしても、本当にこの孤児院が無くなるのか?
この孤児院は物語が始まる前に先代の国王によって取り壊されたらしく、そこで他の孤児達も犠牲になってミュラが復讐に燃えて王国を襲う……というストーリーだったと思うが、今のところそんな感じはない。
ゲームの設定だから詳しい日付なんかまでは分からないけど、もしこれが本当に『プリテスタファンタジー』の正史通りに進むなら、どこかで王国の軍が迫ってくるってことだよな……昼飯の量も少なかったし、経営が厳しいとかそういう理由があるんだろうか。
「あのさ、エリシルに少し聞きたいんだけど……」
「ん? なあに?」
「最近、王国からこの孤児院に何か言われたりとかしてない?」
「え……?」
俺の質問にエリシルが明らかに動揺した様子を見せる。しかし、すぐに笑顔を見せると、笑みを返してきた。
「何言ってるの? 王国がこんな小さい孤児院を気にするわけないじゃない……それも、窓の外から聞こえてきたの?」
「あぁ……うん、まあ、そんなところ」
エリシルの言葉に苦笑いで返す。もちろん、そんなことはなく、ゲームの知識で確認しただけだ。だが、エリシルの反応を見れば、充分分かる……すでに、正史に向けて孤児院崩壊のフラグは立っている。つまり、このままいけば孤児院は壊され、ミュラがラスボスになってしまう。
そんな俺達を交互に見ていたミュラだったが、ふと何を思ったのか俺の手を取ると、驚くエリシルと俺に声を返してきた。
「ねえ、シュウ。晴れてるし、遊びに行かない?」
「え? あ、うん、別に良いけど……」
「そうね。いい天気だし、二人で遊んでらっしゃい」
「うん、行ってくる」
「お、おい、ちょっと!?」
「いってらっしゃい~」
そうして、俺はミュラに連れられ、孤児院の外へと出たのだった。
「―さっきの話、エリシルの前ではしないで」
孤児院の外にある河原に連れて来られ、二人で川に向かって座っていると、ミュラがそんなことを言い出してきた。
「さっきの話? 王国が孤児院に何か言って来てるんじゃないかって話か?」
「そう……エリシルは秘密だ、って言ってたんだけど……わたしは聞かされたから知ってる。王国が孤児院を壊そうとしてるって……」
「やっぱり、そうなのか……」
「うん……ここを壊して、新しく何か建てるんだって。大人の言うことは分からないけど……そう聞いた」
俺の記憶だと、今の孤児院のある場所には工場があった。つまり、王国の発展のために孤児院を潰して工場を作ろうとしているのだ。
「今は孤児院の先生がどうにか話をしてくれてるから良いけど、いつまで居られるか分からないんだって……他の孤児達には秘密にしてって言われてたけど、シュウは知っちゃったみたいだから」
「教えてくれてありがとな。ただ、そっか……孤児院が無くなるのは困るよ」
「うん……せめて私達が独り立ちするまでは残しておく、って先生も言ってたけど……」
「……」
……残念ながら、それは叶わないことを俺は知っている。現に、物語開始数年前に孤児院は無くなっており、その孤児院がどこにあるのかすらゲーム内で語られる描写がない。
つまり、このままだと孤児院は間違いなく壊され……そして、エリシルや俺を含めたミュラ以外の孤児は生き残らないというバッドエンドだ。
――俺が死んだらどうなるか、なんてのは二の次だ。それより、エリシルや孤児達……それに、ミュラの将来をこんなところで潰させてたまるか。
そうと決まれば、『その時』のために力を付けておく必要がある。そういえば、ラスボスであるミュラは魔法の適正が高く、戦闘力も他の比じゃなかったな。
――どれ、悪いとは思うけど、ちょっとステータスを覗かせてもらうか。
とりあえず、ミュラ以上のステータスを身に付ければ、孤児院を守れるかもしれないしな。そうして、ミュラのステータスを確認してみたのだが―
「―こ、これは!?」
「……どうかした?」
「え? あ、いや……」
驚きのあまり俺が声を上げ、ミュラが声を返してくるが……俺はそれどころではなかった。
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Lv2
『女帝』
全ステータス上昇補正【大】
全状態異常耐性【大】
魔法【上級・全属性】
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――ミュラのステータスの数値が俺の比じゃない! すごいことになってるぞ!? スキル『女帝』……全てのステータスに強化補正が入り、全状態異常に耐性まである……これ、ゲームのまんまじゃないか!
そうして俺が驚いていると、さらに怪訝な顔をしたミュラから声が掛けられた。
「シュウ? どうしたの? さっきから本当に変だよ?」
「あ、いや……はは、いや、ちょっとな。ただ、さっきの話を聞いて、俺も頑張って孤児院を王国に渡さないようにできたらと思ってさ」
「そんなことできたら良いけど……」
ミュラの言う通り、今のままでは無理だろう。
だとしたら、それまでに強くなってみよう……俺は一人、そう心に誓うのだった。
そうして、翌日から俺は河原で筋トレや木刀に見立てた木で素振りでも始めてかれこれ一週間。正直、スキルに期待してたけど、『』なんてよく分からないものを手に入れたものの、どういったスキルか持て余した俺は期待するのをやめ、とりあえず黙々とトレーニングをしていた。
ちなみに、普段はミュラも何となく付き合ってくれていたが、「今日はエリシルと一緒に買い出しに行くから」と出掛けていて、今日は一人でやっている。
「まあ、ステータスを見れるのはすごいっぽいけど……かえって、相手との差が分かって絶望するだけじゃね、これ。現にミュラのステータスの差で絶望したしな……って、痛てて……筋肉痛が……まあ、良いや。一週間も経てば、少しくらいステータスも上昇してるだろ―って、ん?」
そんなことを言いながら、一週間ぶりにステータスを確認した時だった。
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Lv 2
『』
基礎ステータス上昇【鍛錬】
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俺はステータスに書かれた表記を見て、戦慄してしまった……一週間前までレベル1と表記されていた場所がレベル2に変わっていたのだ。
「レベルがアップして2になってる……しかも、ステータスもちゃんと上がってるぞ?」
しかし、驚いたのはそれだけではなかった。さらに、スキルの方に視線を向けてみると―
「スキルも更新されてる? 『』の空白のところに『基礎ステータス上昇【鍛錬】』ってのが増えてるな……もしかして、このトレーニングのおかげか?」
それとも、この世界だと普通のことなのか? ただ、ミュラにはこの表記はなかったしなぁ……単純にミュラはそんなにまだ鍛錬してないから、とか?
「うーん、分からん……ただ、ステータスの上がり方がなんかすごい気が―ん?」
そうして、俺が疑問に抱いていると、ふと少し向こうで誰かが木剣を片手に何かしているのが目に入った。見たところ、俺とそう変わらない歳にもかかわらず、努力家だな。ふむ、感心感心。
――あ、そうだ。ミュラが居ないから困ってたけど、あそこに居る子を剣の稽古にでも誘ってみるか。一人でやるより二人でやった方が効果的だしな。
そう思い、俺はその相手のところまでゆっくりと歩いていく。
「お~い、そこの君~」
「……?」
そうして、俺が声を掛けると、相手が気付いて素振りをやめて俺の方に顔を向けたのが分かる。そういえば、ここの川辺って『プリテスタファンタジー』だとマフィが昔剣の練習で使ってた設定だったよな。まあ、ストーリーでもたまに通るけど、それほど重要じゃないイベントだったっけ。
「もし良かったら、俺も剣の稽古してるから一緒にやらない―」
そんな風に考えながら、その相手のところまで歩いていったのだが―
「―か……って、まさか、マフィ!?」
「―え?」
あまり深く考えずに歩いていた先に居たのは、女性主人公であるはずのマティだったのだ。
「……どうして、私の名前を知ってるの?」
俺が女性主人公マフィの姿と瓜二つであることに驚いていると、目の前の少女は訝しげな顔でそう聞いてきた。驚いたことに、どうやら、やはり目の前の少女はマフィで合っているみたいだ……ただ、向こうからしたら、俺は知らない人なわけで、そんな奴から名前を呼ばれて明らかに警戒されていた。
――それにしても、どういうことだ? 俺も見た目は男主人公のマフィだし、マフィが同時に存在するなんことは……あぁ、いや、でも、考えてみれば、今の俺はシュウって名前だし、一応、別人ってことか?
そんな風に俺が考え込んでいると、マフィは警戒心を強めながら声を返してきた。
「ねえってば。私、あなたとは初めて会ったと思うけど……」
「ん? あぁ、ごめんごめん。いや、まあ……その、なに……風の噂、とか?」
「風の噂……? ……やっぱり、私が『落ちこぼれ』だからか」
「へ……?」
そう言って、マフィはため息を吐くと、明らかに落胆した様子で手にしていた木剣に軽く視線を落とす。あ~……そういえば、そんな設定だったな。
実はマフィは物語中盤以降はその実力を認められているが、序盤でも『落ちこぼれ』のレッテルを貼られていたのだ。お上から落ちこぼれ呼ばわりされて、自信を失くしていたけど、最終的には世界を救うっていういかにも正統派ファンタジーって感じのストーリーが良いんだよな。
まあ、そもそも、一番落ちこぼれ呼ばわりしていた貴族の婆さんが実は主人公の立場に嫉妬して言ってきただけなんだけなんだが……ともあれ、主人公として申し分ない実力を持っていながら、こんな風に自信がない性格になってしまったわけだ。
しかし、まあ俺はある意味、彼女の未来を知っているし、そもそも実力を周りが認めてないだけで、子供の頃からすごい方だったというのも知っている。ここから彼女は大変な運命を背負うことになるし、ここは正直に褒めてあげるべきだろう。
「いや、別にそういう意味じゃないから安心してくれ。むしろ、その年齢にしてはすごく良い腕だって聞いたんだよ」
「え? そんなこと、一度も言われたことないけど……」
「そんなことないって。さっきも横から見させてもらったけど、すごい真剣にやってたし、動きもすごかったよ。まあ、俺は剣の素人だからそう言われても嬉しくないかもしれないけど」
「ううん、そんな風に言ってもらえたことないから、すごく嬉しい……」
「それは良かった。あ、それはそうと、君も剣の稽古をしてるんだろ? もし良かったら、俺と一緒に練習しないか?」
「え? あ、うん、それは良いけど……それ、木剣じゃなくて、ただの木の棒じゃない?」
俺に褒められて素直に喜んでいたマフィだったが、ふと俺の持っていた木の棒を何とも言えない表情で見つめられてしまい、俺もため息を吐くしなかった。
「やっぱりそうだよなぁ……うーん、うちには木剣なんてないし、用意するツテもないんだよな」
「そっか……出来れば私が用意してあげたいけど、稽古場のものは持ち出せないし……風魔法なんか使って木を切れたら良いんだけど……」
「……魔法?」
そういえば、この世界にいきなり来たから忘れてたけど、『プリテスタファンタジー』では基本的にキャラクターが使える属性が決まっていて、主人公のはマフィとボスのミュラだけは全属性の魔法が使えるんだよな。
――ちょっと、マフィのステータスを拝見させてもらうか。
------
Lv3
『英雄』
全ステータス上昇補正【中】
全状態異常耐性【中】
魔法【初級・全属性】
------
――レベルはもう3か……俺より少し高いな。スキルは―やっぱり、原作通り『英雄』なんだな。『女帝』ほどじゃないけど、これで他のキャラより全体的にステータスが高いんだよな。さすがは主人公……もはや、モブの俺とは比にならん。しかも、このスキルのおかげでマフィだけ全属性魔法が使えたり、ステータスの伸びにもすごい良い感じに補正が掛かるんだよな。
ちなみに、俺がステータスを見ていることはやはりマフィにも分からないらしく、唸りながらステータスを見ている俺に首を傾げていたが、とりあえず、マフィのステータスを確認できた俺はついでに名乗ることにした。
「そういえば、名前を言い忘れてたな。俺はシュウだ。孤児院に住んでる」
「え? シュウも孤児院に住んでるの? 実は私も今はお師匠様のところに住まわせてもらってるけど、もともとはこの街とは違う孤児院で育ったんだ。あ、私の名前は知っているみたいだけど、一応自己紹介させてもらうね。私はマフィ、王都の稽古場で剣の修行をしてもらってるわ」
おっと、そういえばそうだった……マフィの言う通り、この『プリテスタファンタジー』のストーリーのすごいところは主人公とラスボスが両方とも孤児院育ちという共通要素を持っていながら別々の道を進んだ、というなかなかハードなのもウリなんだよな。
だからこそ、二人は最終決戦で熱いやり取りをしつつ、その最後に主人公も同情し、その時に初めてミュラが報われる……というなかなかに感動的な演出だったりする。とはいえ、それはそれで感動ではあるけど、やっぱりミュラにはあんな道を歩ませたくはない。
そして、その原因は孤児院とそこに居た孤児達……つまり、俺達を失ったからだ。ミュラに平和に暮らしてもらうためにも、死亡フラグを回避するために力を付けておかないとな。
「そっか。マフィも孤児院育ちだったなんて驚いたよ。じゃあ、俺達は孤児院仲間ってわけだ。よろしくな」
「あはは、孤児院仲間っていうのは変だけど……なんかシュウとはすごい気が合いそう。こっちこそ、よろしくね」
「ああ。それで、さっきの話なんだが、風の魔法が使えれば木剣が作れるかもって言ってたけど、マフィは魔法が使えるのか?」
「うーん……使えないことはないけど、器用貧乏っていうか……どれもまだ初級魔法の段階で不安定なんだ」
「なるほど……ちょっと見せてもらっても良いか?」
「え? 良いけど……」
やっぱり、魔法はファンタジーの醍醐味だからな。俺がここに来た時点で充分ファンタジーだし、案外、見ただけで出来たり―
「ウインドカッター!」
すると、その掛け声とともに俺の目の前で木に向かって手から風の刃を放つマフィ。だが、本人の言う通り、まだ扱いには慣れていないようで、目標から外れてしまい、木の幹ではなく、葉を少し切っただけだった。
「はぁ……やっぱりダメか。ね? 言ったでしょ? 私はまだ初級魔法でも扱いきれてな―」
「くそっ! ダメだ……! めちゃくちゃ魔法格好良いのに、全然使えるイメージが湧かない!」
「え、えぇ? だ、大丈夫、シュウ?」
「あぁ、すまん……魔法なんて非科学的なものを使えることが羨まし過ぎてな……」
「ひ、非科学的……? いや、別に普通のことだと思うけど……それに、私なんてまだ全然扱えてないし……」
「そんなことないって。ちゃんと風の刃が出てたし、俺からすれば、魔法が使えるだけで羨ましいよ……」
「んー……初級魔法なら割と誰でも使うことだけならできるはずだけど……」
「……マジで?」
「うん」
「俺でも?」
「できると思うよ?」
「な、んだ……と……?」
まさか俺が魔法を使える……? そんなバカな……。
いや、でも、考えてみれば、ここは『プリテスタファンタジー』の世界……元居た世界とは違うんだよな。確かに、『プリテスタファンタジー』の世界じゃ初級魔法は割と誰でも使えるけど……でも、それってパーティに加入するキャラだからじゃないのか?
あ、よく考えたら、ゲーム内だと敵のモブキャラも使ってきたし、もしかして、本当に使えるのか……?
「……よし、物は試しだ。やってみるよ」
「うん、やってみて」
そうして、俺も見よう見まねで木に向かって風魔法を唱えてみた。
「ウインドカッター!」
その瞬間、一瞬、木に向かって何かが飛んで行ったのが見えた。すると、俺は驚いて声を上げる。
「お、おお!? い、今、一瞬だけ木に飛んでいったよな!?」
「う、うん……でも、全然見えなかった……」
「う~ん、もしかして、コツを掴めてないからか……?」
「そうかも……私も練習中だけど、お師匠様からもう少し足から力を抜いた方が良いって言われてるんだ」
「なるほど……もう少し、足から力を……」
「でも、まさか、たまたま風属性と相性が良かったのことにびっくりしたよ」
「え? あれ? そういえば、この世界って確か属性は一つしか使えないんだよな……」
「うん、一般的にはそう言われてるね。ただ、私は珍しく全部使えるんだけど……そのせいか、全然魔法が上手く使えないんだ」
そういえば、さっきマフィのステータス見た時に『魔法【初級・全属性】』ってゲームと同じように書かれてたもんな。なるほど、だから器用貧乏ってことか……。
「いや、でも、全部の属性を実際に使うのってなんか難しそうなイメージあるよな。ゲームだと普通に使えるけど、やっぱり実際に撃つと、感覚が違うっていうか……これが多分、MPを使うって感覚なのか」
「ゲーム? 遊びのこと? それと、MPって?」
「あ……」
よく考えたら、この世界でそんなネタが通じるはずないか……まあ、でも、世間で生きていく上でこういうすり合わせはしておいた方が良いよな。ただ、MPって概念がないとしたら、何を消費して魔法を使ってるんだ? 魔力とかか?
そんな風に考えた俺がそこまで口にした時だった。
「ん……?」
突然、目の前の木から何やら轟音が響き、俺達は思わず声を上げてしまう。しかし、次の瞬間、その木は轟音とともに倒れてしまい、まるでその幹は刃物のようなもので切られたかのように綺麗な断面が現れた。
「木が……切れた……?」
「嘘……」
あまりの状況に言葉少なになってしまう俺達。しかし、次の瞬間にはマフィが大笑いをしてきた。
「なに笑ってるんだよ?」
「いや、だって、シュウってば、魔法を教えたばっかりなのに、いきなり一発で成功させちゃったから……私でもまだ狙って当てることはできないのにさ」
「そうなのか? うーん、とはいえ、まだ魔法を使ったって実感が湧かないな……」
「少しずつ練習していけば慣れてくると思うよ? って、全然当てられない私に言われても微妙だろうけど……」
「そんなことないよ。俺、魔法なんて初めて使ったし、マフィに言われるまで使おうとすらしてなかったからな。マフィのおかげで自分の新しい可能性を見い出すことができた。ありがとう」
「えっと、新しい可能性……? それは、よく分からないけど……うん。でも、シュウって不思議ね。初めて会ったはずなのに、なんかそんな気がしないっていうか……すごい気が合うんだ」
「え? そうなのか?」
「うん。実はさっき初めて話し掛けられた時も、本当はこの人なら大丈夫だって安心してたからそんなに警戒してなかったんだ。あはは、自分でもよく分からないんだけどね」
「安心か……」
もしかして、一応は同じ主人公同士だからか?
まあ、詳しいことは分からないけど、ともかくマフィと仲良くすることはできたみたいだ。
俺の目標はエリシルや孤児院を王国から守って、ミュラが悪役にならず、みんなが平和に過ごせることだ。
当然、その中には今出会ったマフィも居る。少しイレギュラーではあるけど、ミュラが主人公であるマフィと仲良くなっておけば、ラスボスになる可能性はぐっと減るだろうしな。
そんな調子で、その日からミュラが居ない時はマフィと稽古をするようになった。
三人で一緒に稽古をしようかと思って誘ったことがあるんだが、見事なまでにタイミングが合わず、俺はミュラかマフィと二人きりでしか稽古はできなかった。
しかし、その甲斐あって、魔法と剣の腕は間違いなく上がっていた。
――このままいけば、王国からみんなを守れる。
そう思い、俺はどこか達成感のようなものを感じていた。
だが、俺はこの時、気にも留めていなかった。
ミュラとマフィ……それぞれ俺と二人きりで一緒に特訓していたことを本人達に話さなかったことがどういう結果を生むかどうかなんて―。
「―そういえば、最近、わたし達が河原で稽古してるの噂になってるみたいね」
孤児院でいつものように食事をとっていると、ミュラからそんなことを言われた。そんなミュラにいつものようにあまり味のしないスープを飲んでいた俺は声を返す。
「そうなのか? まあ、ミュラもすごい強くなってきたし、剣筋も良い感じになってきたしな」
そう言って、俺はミュラのステータスを確認する。
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Lv 15
『女帝』
全ステータス上昇補正【大】
全状態異常耐性【大】
魔法【上級・全属性】
『剣士』
武器ダメージ増加
剣撃【小】
------
ミュラのレベルは15になり、新しく手に入れた『剣士』のスキルのおかげで、『武器ダメージ増加』と『剣撃【小】』が使えるようになった。『剣撃【小】』は距離はそれほどではないものの、対象に衝撃波を飛ばすRPGでよく見掛けるスキルだ。
そして、俺はというと―
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Lv 30
『』???
基礎ステータス上昇【鍛錬】
魔法ステータス上昇【鍛錬】
魔法【初級・全属性】
武器補正上昇【鍛錬】
剣撃【小】
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見ての通り、相変わらずスキルが『』と空白のままなのは変わらないものの、ミュラと同じく『剣撃【小】』を覚えたわけだが……なぜか、レベルが30とすごいことになっていた。なんかレベル上がり過ぎじゃね?
いや、まあ確かに、ミュラが稽古の休みの時はマフィと稽古をしてるから多少上がるのは分かるけどさ……それにしても、上がり過ぎなような……しかも、なんかスキルがミュラと違うし……ミュラが『武器ダメージ増加』なのに、『武器補正上昇【鍛錬】』ってなんだ? こんなスキル、『プリテスタファンタジー』にはなかったぞ?
そうして、俺がステータスの表記に疑問を抱いていると、ミュラが声を返してくる。
「わたしよりシュウの方がすごいじゃない。いつの間にか魔法も使えるようになってるし、それで私の分の木剣も作ってくれたし……」
「ん? あぁ、あれか」
それは少し前のことだ。
いつものようにミュラを連れて河原で稽古をしようとした俺は風の魔法で木剣を作り、それをミュラに渡したのだ。
「ほら。やっぱり、形だけでも剣を使った方が稽古って感じがするだろ?」
「それはそうだけど……うん、まあ、ありがと……」
そんな感じでミュラはその木剣を使って稽古をしていき、以前よりも鋭さを増している。そうして、その時のことを思い出していると、ミュラが訝しげな視線を向けながら声を返してきた。
「それにしても、どうしていきなり剣の稽古なんてしようと思ったの? ……まさかとは思うけど、騎士団に入るため、とか言わないわよね?」
「そんなつもりはないから安心してくれって。まあ、強いて言えば、みんなを守るため……かな?」
「みんなを……? それって……」
そう言って、ミュラは少し向こうで俺達の話を聞いていたエリシルと顔を見合わせる。恐らく、例の王国が孤児院を潰そうとしていることを俺の話から察したのだろう。
二人は何とも言えない表情で俺を見てくると、他の孤児達には分からないよう配慮しながら声を返してきた。
「シュウ……気持ちは嬉しいけど、無理はしないでね? 先生もどうにか待ってもらうように話をしてもらってるから……」
「エリシルの言う通りだよ。怪我でもしたら危ないし……」
「大丈夫大丈夫。別に無理なんてしてないからさ」
「そう? なら、良いけど……」
エリシルが心配そうに返した後、急に雰囲気が暗くなってしまった……まあ、状況が状況だし、仕方ないが。
とはいえ、二人にそんな顔をして欲しくはない。よし、ここは稽古の思い出話でもエリシルに聞かせて笑わせてやるとするか。
「そういえば、あの時はすごかったよなぁ、ミュラ?」
「……え? 何の話?」
「俺の剣が木に刺さって抜けなくなった時だよ。いや~、あれは焦ったよな~」
「何それ、知らないんだけど……」
「ん? いや、二人で稽古をしてた時の話だぞ? それで、お前が風属性の魔法を使ってくれて、でもまあ、おかげで結局マフィの風属性の精度も上がったし、結果オーライだろ?」
って、あれ? それって、ミュラと稽古してた時じゃなくてマフィの時の話じゃね?
そうして、俺が疑問に抱いていると、なぜかミュラから凄まじいオーラを感じる。理由が分からない俺が首を傾げている中、ミュラはいつもよりも少し冷たい声を返してきた。
「……ねえ、シュウ」
「ん? どうした?」
「……稽古って、わたし達だけでやってるんだよね?」
「ああ、そうだな」
ミュラを誘った時はマフィが忙しくて一緒にやってないし。
「……そう。なら良い。あ、それと、今日もエリシルと買い出しに行くから稽古は休むから」
「ん? ああ、分かった」
ミュラにそう返すと、ミュラは再び食事を再開し、俺も同じように片手に持ったパンにかじりつく。そして、そんな俺達を見ていたエリシルも安堵したように笑顔を見せて食事へと戻っていった。
「今日もマフィを誘ってみるか」なんて、のんきに思いながら―。
「―ねえ、私達、良いコンビだと思わない?」
そうして、いつものように河原で稽古をしていたマフィに声を掛けて二人で木剣を打ち合っていると、マフィからそんなことを言われた。実際、マフィの稽古での成長は著しい。
ミュラとの稽古も同じくらいすごいが、マフィはミュラとはまた違った動きをするため、おかげでかなり経験を積むことができている。だから、俺はそんなマフィの言葉に素直に頷きながら声を返した。
「ああ、俺もそう思うよ。マフィと稽古しているおかげで、かなり成長できたしな」
「そっか、良かった……実は私達が稽古してるの、結構噂になってるみたいなんだよね」
「ん? そうなのか?」
「うん。すごい剣捌きをしてる子供達が稽古をしてるって」
はて? 似たような話をどこかで聞いたような……まあ、気のせいか。最近、強くなるのが楽し過ぎるせいでそんな風に思ってるだけだな。
そんな俺に、マフィは構えていた剣を下ろすと、汗を拭いながら笑みを返してきた。
「実際、私もシュウのおかげで、なんかすごい成長した気がするんだ」
「いや、実際、マフィは間違いなく成長してるぞ」
そう言って、俺はマフィのステータスを見る。
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Lv 17
『英雄』
全ステータス上昇補正【中】
全状態異常耐性【中】
魔法【中級・全属性】
『剣士』
武器ダメージ増加
剣撃【小】
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Lv17……これが『プリテスタファンタジー』の世界を基準に考えると、恐らくレベルの最大値は100だ。そして、まだ『プリテスタファンタジー』のストーリー開始前だというのに、Lv3だったマフィのレベルがここまで上がった……これはかなりすごいことじゃないか?
しかし、このレベルって概念、実は俺にしか分からないらしく、ミュラに聞いた時は―
「はぁ……何の話?」
と返され、マフィに聞いた時は―
「レベル……?」
と不思議そうな表情で返されてしまった。しかしまあ、この二人だけで決めるのは良くないと思い、エリシルにも聞いてみたのだが―
「レベル? え~と……人の名前か何か?」
とまあ、こんな感じでレベルという概念を持っているのが俺だけだと判明したわけだ。ただ、この確認のせいで、俺が記憶の混濁をしていたこともあり、どこか「可哀想な子」を見るような目で対応されたのはいささか遺憾である……くそ、現実世界ならゲームをやってる子供なら誰でも知ってるよ!
「あ、そういえば、お師匠様から聞いた話なんだけど……」
「ん?」
そんな風に俺が不名誉な扱いを嘆いていると、ふとマフィは真剣な表情でこんなことを教えてくれた。
「なんか最近、街の中を王国の騎士が巡回しているから気を付けなさいって言われたんだ」
「騎士団……? あぁ……そういや、居たな、そんなの」
あれだ、『プリテスタファンタジー』じゃラスボスのミュラに倒されてばっかりの名前もない味方キャラだ。
ただ、これも微妙に複雑な話なんだが……実は序盤の騎士団は完全に味方とは言えないキャラだった。というのも、『プリテスタファンタジー』では序盤は国王が騎士団を取り仕切っているものの、中盤以降ではその娘であるお姫様が騎士団に命令を下しているのだ。
この国王なのだが、実はかなりの悪人だったことが発覚する……そもそも、ミュラがラスボスになる理由を作った人間というのが、この国王なのだ。
序盤の黒幕であり、騎士団に命令して孤児院を襲ったのがこの国王なのだが……そんな国王に対して、亡き王妃の意志を継いでいた王女様は正義感に溢れており、その王女を国王の幽閉から解放するのが主人公の序盤の目的の一つだ。
しかしながら、名前もなく、顔すら流用されている騎士団は文字通り脇役キャラであり、国王の命令だろうと、王女様の命令だろうと、とりあえず命令を受けて「おおおおおっ!」と歓声を上げながら突進するだけの存在であり、同じ顔が流用されているため、「あれ? さっきお前、やられてなかったっけ?」などと心の中で何度もツッコミを入れたくなる脇役中の脇役である。
とはいえ、国王の命令で孤児院を襲ったことは『プリテスタファンタジー』では事実であり、この状況では警戒しておくに越したことはないだろう。そのため、俺は情報収集もかねて、マフィに声を返した。
「その騎士団が巡回してると何か問題があるのか?」
「知らないの? 騎士団って全然良い噂を聞かないんだよ? 王様に逆らった人を王都から追い出したり、目に付いた土地を無理矢理手に入れたりしてるって噂だよ」
「序盤で死ぬ悪役の鏡みたいな奴だな……いや、本当にストーリー序盤で死ぬボスだったわ」
「ストーリー序盤……? ボス……? えっと、何の話……?」
「あぁ、いや、クソみたいな王様だって言いたかっただけだよ」
「……それ、王様の耳に入ったらヤバいから気を付けてね?」
おっと、いかんいかん……ミュラやエリシルを狙う非道な輩に思わず本音がもれてしまっていた。それに、主人公であるマフィも戦って、その前にその国王のせいで色々あって苦労するんだよな……やっぱクソだな、あれは、うん。
「ん……? あ、見て。ほら、噂をすれば騎士が来たわ……」
「あれが騎士団か……さすがにゲームと違って使い回しじゃないとはいえ、やっぱり、どれもこれも似たような顔ばっかりだな」
「ゲーム……? よく分からないけど、騎士団に目を付けられたら大変よ……だから、騎士団を見たらこうやって隠れた方が良いわ」
そうして、俺が『プリテスタファンタジー』での苦労を思い出していると、マフィが俺を連れて岩陰へと連れ込み、俺達はその陰から騎士団の様子を伺うことにしたのだが……ゲーム内での理不尽な怒りが収まらず、俺はマフィの言葉を聞く余裕もなく一人呟いていた。
「くそ、あいつらのせいでミュラがラスボスになるし、マフィがどれだけ面倒なことに巻き込まれたと思ってるんだ? 一発、いや三発くらいは殴ってやりたい気分だぜ……」
「え? ミュラ? ラスボス……? えっと、誰のこと? それに、私? あの、心配してくれるのは嬉しいけど、でも、私はまだ騎士団から嫌がらせを受けたりはしてないから……」
何やらマフィが今の俺はそれどころではなかった。俺が男主人公版のマフィを操作してた時も国王と戦う時は敵として戦うし……味方の時は弱いくせして、敵だと強いとか反則だろ。おかげで何度ゲームオーバーを経験したことか……。
「まったく、マフィを危険な目に晒しやがって……許せん」
「え?」
「ん? どうかしたか?」
「え、あ、いや、何でもないけど……」
「そうか? なら良いが」
なんかやたらマフィが動揺している気がするが、まあ騎士団の連中に目を付けられたくないって言ってたし、この状況なら緊張くらいするか。
「それにしても……あいつらが向かってる方向、孤児院の方じゃないか?」
俺はそんな騎士団の連中にどこか胸騒ぎを覚えながらそう口にする。おかしい……孤児院が襲撃を受けるのはまだ先のイベントのはずだが―
――いや、待てよ? 確かに、孤児院が壊されるのはまだ少し時間があるが……そもそも、それ以外に騎士団から襲撃を受けていた可能性もあるんじゃないか?
公式の設定資料でも『プリテスタファンタジー』ではミュラは孤児院を失い、その復讐のため、ラスボスになったと書かれている。しかし、逆に言えば、それは細かいことが分からないということだ。
「―悪い、マフィ。今日の稽古は中止だ」
「え? どこに行く気?」
「決まってるだろ―」
俺は胸騒ぎをおさえるべく軽く深呼吸すると、木剣を片手にマフィの下から去ると、孤児院の方に向かいながらこう返した。
「―俺の家族が居る家に、だよ」
「―か、帰って下さいっ! 今、先生はこちらに居ないんですっ!」
残念ながら、俺の不安は的中したらしい。
俺が急いで孤児院に戻ってくると、孤児院の前には騎士の格好をした男達が偉そうな態度でエリシルとミュラ、そしてその後ろで涙を浮かべる孤児達の前に立ち塞がっており、エリシルを守るようにして立つミュラを嘲笑うようにして声を上げていた。
「ふん、お前達のようなドブネズミが誰の許可を得てこんなところに家を建てているのだ? 陛下は我々にすぐにでもここを取り壊せ、と命令しているのだぞ?」
「まったくだ。こんな汚いものがこの神聖なる王都にあるなど、景観が損なわれるどころの話ではない。このようなただの粗大ゴミの寄せ集めなどに居続けたら気絶してしまいそうだ」
「はっはっはっ! 違いない!」
「くっ……! エリシル、下がって! こいつらは私がやるっ!」
「ミュラ……! いくらあなたでも……!」
そう言って、ミュラがいつも稽古に使っている木剣を構えると、騎士団の男達から馬鹿にするような笑い声が響いた。
「はっはっはっ! なんだそれは?」
「稽古用の木剣ではないか! そんなもので何をすると言うのだ、貴様は! ん~?」
「あ、あんた達くらい、わたし一人でも倒せるわっ!」
「ミュ、ミュラ!」
「お前のような子供がこの騎士たる我らを倒せるだと?」
「あっはっはっ! これは面白い! 子供というのは実に愚かだな! 貴様のような子供が我々に傷一つ付けることなどできぬわ!」
「っ……!」
「ふぅ……しかし、面白いものが見れた。貴様のその醜態に免じて、今日は見逃しておいてやろう」
「ほ、本当ですか……?」
「うむ、慈悲深い我々に感謝するのだな。もっとも―」
そう言って、エリシルが背を向けて去ろうとする騎士団達にほっと胸をなで下ろした時だった―その瞬間、騎士が剣を引き抜くと、背の低いミュラを超えてその剣をエリシルへと向けたのだ。
「―一人くらいは見せしめに殺していくがなあ!」
「エリシ―!?」
それに気付いたミュラがエリシルの名を叫ぼうとしたが―それは届くことなく、驚くミュラの目の前で『それ』は宙を舞ってしまっていた。驚いたミュラが目を見開く中、宙を舞っていた『それ』はゆっくりと地面に落ちていき―「カラランッ!」と鈍い金属音を立てていた。
「はっはっ―ん? なっ!? お、俺の剣はどこだ!?」
そんな中、エリシルの首を切り落としたと高笑いをしていた騎士団の男は 『それ』……つまり、自分が持っていたはずの剣が飛んでいったことに今さら気付き、声を上げていた。
そして、その渦中で今まさに剣でその首を狙われていたエリシルは状況が掴めず、ミュラもまた声を上げていた。
「な、何が起こったの……?」
「わ、分からないけど……」
「なっ……!? な、なんだ貴様は!?」
二人が困惑した表情を見せていると、少し離れた場所で呆然と立ち尽くしていたもう一人の騎士が俺の存在に気付いて声を上げる。俺は今まさにエリシルの首を狙っていた騎士の剣からエリシルを守るべく、二人の前に体を滑り込ませていた……そう、エリシルに剣を向けていたはずの騎士団の男の剣を吹っ飛ばしたのは俺だったのだ。
「い、一体、何が起き―なっ!? いつの間に……!?」
そして、そのことに気付かず、目の前に突然現れた俺に驚愕した男が声を上げる中、ミュラとエリシルに前に立った俺は剣を吹き飛ばした木剣を肩に乗せると、ミュラとエリシルが声を驚いて声を上げていた。
「こ、シュウ……?」
「シュウ……今、何をしたの……?」
「ん? ああ、エリシルが危なかったらそこのおじさんの剣をこれで飛ばしてあげたんだよ」
「おじ……!?」
俺の言葉に眉間にシワを寄せる騎士の男には目もくれずに俺は持っていた木剣に軽く視線を向けて答えてやる。すると、自分の持っていたはずの剣を俺に飛ばされたことに気付いてない騎士団の男は、俺の前に立ち尽くしながら俺と剣を交互に視線を送りながら声を上げていた。
「小僧! 貴様、一体、何をしたのだ!?」
「ん? 何って、おじさんの剣を突いただけだよ?」
「なっ!? つ、突いただけだと!? ふ、ふざけるなっ!」
「いや、ふざけてないし、本当のことなんだけど。そんなことより、ミュラ、エリシル。それに孤児達も怪我はしてないか?」
「え……? あ、うん……」
「わ、私達は大丈夫だけど……」
「それなら良かった。みんなに怪我をさせたくないからな」
とりあえず、ミュラとエリシルに聞いてひと安心する。ともかく、今は目の前の状況を解決するべきだな。
そう考えた俺は再び騎士の男の方に振り返ると、そのステータスを見ながら唸り声を上げた。
「うーん……それにしても、ステータスを確認したけど、レベル10か……まあ、レベル自体はそれなりに高いけど、スキルはないし、ステータスに補正もない……これ、ゲーム内の名前のあるキャラクター基準で言えば、レベル2……いや、1くらいのステータスだな。まあ、本来ならまだゲームがはじまる前だし、この世界だと騎士はこれくらいが普通なのか?」
「貴様! さっきから一人で何をブツブツと言っている!? 一体、私に何をしたのだ!?」
「だから、これで突いただけだって」
「いい加減なことを言うな! そのようなもので、我が剣を弾くことなどできるわけがないッ!」
「まったく……おじさん、その歳でそんなにカッカッしてると、さらに年を取ったら職場の爺さんみたいに周りから頑固ジジイ呼ばわりされるから気を付けた方が良いよ? それに、いきなり人に剣を向けるなんて危ないことしたら駄目だし、向こうなら即逮捕だからね」
「き、貴様……先ほどからわけの分からないことをごちゃごちゃと……! この俺を愚弄しているのか!?」
「いやいや、元社会人としてアドバイスしてあげただけだよ。……それよりさ、おじさん達は騎士団だよね? 王国の騎士様がこんな辺境に何の用かな?」
「何の用……だと? ふんっ! 薄汚いガキめが……やはり、所詮はドブネズミ! 口の利き方も知らんのか! 良いだろう……どうせ、本格的な作戦はまだ先だ。その前に一人くらい殺しておこうかと思ったが、見せしめに貴様から殺してくれよう!」
そう言うと、騎士の男が笑みを浮かべる。ふ~ん、本格的な作戦ねぇ……。
「ねえ、それってどんな作戦なの?」
「何? ふんっ! 今から死ぬ貴様に教えてやる必要はないが……所詮は子供、理解もできぬ貴様には冥途の土産に教えてやろう! 間もなく陛下はこの孤児院もろともネズミ共を一掃するつもりなのだッ!」
「そうだ! 貴様らのようなドブネズミ達が居なくなれば、これでこの街も綺麗になる……そうして、ここに新しく工場を建て、国を安泰させようとお考えなのだッ! 貴様らはその礎となるのだ、光栄に思うのだな! はっはっはっ!」
「そ、そんな……」
「っ……」
いかにもゲームの敵キャラらしく勝手にベラベラと喋ってくれる騎士達の言葉にエリシルが両手で口元をおさえ、ミュラが憎々しげな目を騎士へと向けていた。いや、ほんと、口が軽くて助かるよ。悲しいけど、こういうところも『プリテスタファンタジー』の原作通りだ。
そんな風に俺が感心していると、騎士の男達は片方が剣を取りに行くと同時にもう片方も剣を引き抜く。そんな二人に俺が木剣を構えると、男達は「はっはっはっ!」と嘲笑しながら声を返してきた。
「馬鹿め! 仮に本当に木剣で不意を突いてやったのだとしても、二度もそんなものに掛からぬわ!」
「子供らしくそのおもちゃで遊んでいれば良かったものを……自らその命を捨てに来るとは愚かな奴よ! 死ねぇ!」
「シュウ!?」
そうして、男達が俺に向かって剣を振り下ろし、ミュラとエリシル達の俺を呼ぶ悲痛な声が聞こえたが―次の瞬間、俺はその二人剣の柄の部分に木剣を当てると、それを受け止めていた。
「な、なんだとおおお!?」
「こ、こいつ、ガキのくせに俺達の剣を受け止めているッ!?」
「なんだ、やっぱり所詮はレベル10か……いや、ステータスで見たらレベル1か2か。悪いけど、これじゃあミュラやマフィと普段からやってる稽古の模擬戦の方がよっぽど経験値が貯まるよ」
「なっ……!? 我らの剣がガキの稽古ごっこなどに劣るだと!?」
「き、貴様! ふざけおって……もう許さんぞッ!」
「許さないのはこっちだよ。ミュラや孤児院のみんなを危険な目に遭わせやがって……それに、お前らさっきエリシルを殺そうとしてたよな? ……タダで帰れると思うなよ?」
「っ……!? ほ、ほざけぇ!」
そうして、俺の視線に一瞬怯んだものの、男の一人が剣を構えて再び突撃してくる。しかし、俺は今度はそれを受け止めず、軽く体を避けてかわすとその横に蹴りを入れてやる。
「ぐはっ!?」
すると、騎士が横に吹き飛んだいき、それを横目にもう一人の騎士が苛立ちを隠さずに突撃してきた。
「貴様ぁ!」
「そういう馬鹿の一つ覚えって、まさにモブって感じだからやめたほうがいいよ?」
そう言いながら騎士の攻撃を避け続けると、息の上がった騎士が苛立ちと疲労で顔を真っ赤にして声を上げていた。
「く、くそっ! くそっ! なぜだ!? なぜ当たらんのだっ!?」
「そりゃそっちのレベルが10に対して、俺のレベルは30だしね。ゲームっていうのはレベルが離れてたらステータスに差がありすぎて基本的には勝負にならないんだよ。あ、まあ、例外もあるけどね。ゲーム内で低レベル攻略する時とか」
「な、何をまたわけのわからないことをっ……! くそっ! このっ!」
その間にも俺が剣をかわしていると、その後ろで伸びていた壁に飛ばした騎士が頭を振って起き上がろうとしていたのが見えた。そして、剣をかわしながら俺はその男と目の前の騎士を縦に並べると、手に持っていた木剣に力を込めて声を返した。
「エリシルにあんなことをしておいて、本当なら生かしたくないところだけど……ここだと孤児達も見てるし、血なんて見せられないからな。それに、おじさん達を生かして帰した方が都合が良いかもしれないからね」
「が、ガキの分際で何をほざくか!」
「だから、帰ったら王様に伝えておいてくれないかな?」
俺は目の前の男に生まれて初めて……それこそ、現実世界ですら感じなかった殺意を向けたものの、どうにかそれをおさえると、目の前の騎士が恐怖に顔を歪ませたのが分かる。
「なっ―ぐふっ!?」
「く、来るな―がはっ!?」
「うがっ!?」
そして、次の瞬間、剣を振りかぶろうとしてがら空きになっているその胴体に剣の柄で思い切り叩き付けると、騎士の鎧にヒビが入り、直線上に居たもう一人の騎士に向かって飛んでいき、二人が声を上げる。
俺はそんな二人にふぅとため息交じりにゆっくりと近付いていくと、騎士は両方とも孤児院の周りにある石の塀にぶつかり、痛そうに声を上げていた。
「く、くそっ……! お、おのれ……! ガキが……! 我々、騎士にこんなことをしてタダで済むと―」
しかし、そんな騎士達に近付いた俺は、笑顔を向けながらもその怒りをおさえながら声を掛けた。
「もし、また孤児院に―みんなに手を出そうとするなら次は容赦しないから、ってさ」
「っ……!?」
「―お師匠様、こっちですっ!」
「ん? これはマフィの声?」
そうして、ボロボロになった騎士が恐怖に竦み上がっていた時だった。突然、マフィが姿を現したと思ったら……何やら聞き覚えのある声が聞こえてきたのだ。
「―お前達、そこで何をしている?」
「なっ……!? お、お前は【剣聖】!?」
「【剣聖】……?」
その肩書きにも聞き覚えがある。それって、マフィの師匠の―
「あ」
そうして、顔を上げると、そこには俺どころか男達よりも一回り大きく、それでいて美しさも兼ね備えている女性が立っていたのだ。
「お師匠様……?」
『お師匠様』―主人公であるマフィにもそう呼ばれていた彼女は名前をフェレールという。『プリテスタファンタジー』において王国の中でも恐れられる存在の一人であり、もとは王国の騎士団の団長だった人だ。
しかし、ゲーム開始前にとある事件で大怪我をしてしまったせいで戦うことができず、パーティに加入しないNPCであり、主に主人公に稽古を付ける序盤にだけ登場するキャラクターだ。でも―
――見た感じ、怪我を負ってない……そうか、この時代じゃまだフェレールが怪我を負うイベントが発生してないってことか。
これもまた、ゲーム内イベントじゃなくて、もはや設定資料のレベルの話だけど、ともあれ、今の彼女は現役……そんな彼女に明らかに動揺した様子を見せた騎士達は両腕を組んで迫るフェレールに
「私が居ない間に騎士もずいぶん落ちたものだ……それで、お前達はこんな小さい子供達の前で一体何をしていたのかと聞いてるんだが?」
「くっ……!」
「く、くそ! 【剣聖】を相手にするのは分が悪い……お、覚えていろッ!」
うわ~、これまたテンプレな捨て台詞を吐いていくな……ほんと、さすがはゲーム内で登場する雑魚キャラなだけあるよ。
しかし、そう吐き捨てた騎士達がフェレールの横を通って通路に逃げようとした時だった。
「―おい、忘れ物だ」
「は……?」
フェレールの言葉に騎士達が訝しげな声を上げた次の瞬間―騎士達の胴体に思い切りフェレールの拳が入り、完全に鎧が砕け散った。
「がっ……!?」
「あが……!?」
そして、騎士の男達は「ゴロゴロガッシャーン!」と勢い良く音を立てて通路を転がって飛んでいく。それがフェレールによる制裁だと気付き、俺達は思わずぽか~んと口を開いてしまっていた。
――うわ、すげぇ……さすがは【剣聖】。確かに、もしフェレールがゲーム内で現役で戦えてたら、ゲームバランス的に問題だな……。
そうして、俺が飛ばされていった騎士に驚いていると、ふと俺の目の前にフェレールが両腕を組みながら立った。え? 何? 俺、何かした?
困惑する俺がフェレールの後ろで恐る恐る視線を向けてくるマフィと軽く視線を合わせると、『プリテスタファンタジー』よりも少し若いフェレールは威厳はそのままに、俺に向かって声を掛けてくる。
「さて……それで、お前がシュウか?」
「え? あ、はい、そうですけど……」
「マフィから話は聞いている……悪いが、少し顔を借りるぞ」
「―へ?」
え? 何? どういうこと?
突然のフェレールの登場に俺はミュラとエリシルと困惑しながら顔を見合わせてしむ。
ただ、一つだけ言えることがある。
あの時、騎士の男はエリシルの首を狙っていた……つまり、ここでミュラはエリシルを失い、失意の中、さらに孤児院で他の孤児達も失ってラスボスになったんだ。
だが、俺はそのエリシルを助けることができた……物語を変えることができたんだ。
――これなら、ミュラもエリシルもマフィも……みんな死なずに平和に暮らせる方法が見つかるかもしれない。
どうして、俺がこの世界に転生したのか……それが分かった気がする。
騎士に殺されて若いうちに死んでしまったエリシル、そのエリシルの死をきっかけに一人孤独に復讐に身を焦がしたミュラ、そして、同じ孤児という境遇にもかかわらずそんなミュラをその手で倒し、絶望するマフィ……例えそれがゲームのストーリーだったとしても、俺はみんなにそんな悲しい思いをさせたくはない。
転生前まではゲームの中、でも今は俺にとってここが現実なんだ。
そんな強い思いを抱き、俺はこの世界で自分のすべきことを決意したのだった―。
※連載版開始しました!
【連載版】RPGの脇役はバッドエンドを許さない~RPGのモブに転生したからバッドエンド回避して女主人公とラスボスを助けたらなぜか修羅場になった~
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