第96話 一国の王女の決意
「はぁ~」
「「「「疲れた~~!」」」」
俺たちは示し合わせたかのように、一斉に口から吐き出した。
俺たちはフォーペウロの貴族たちが集う親睦パーティーに招かれており、終わりを迎えるのをよそに別室にいた。
格式張った社交界という戦場にい続けたメリス以外の俺たちは疲労困憊だ。
勇者一行などともてはやされてはいるが、あくまでも魔王討伐に関しての話である。
「堅苦しい場はやはり慣れないな」
「ああキツイ。あんなに四方八方から貴族の視線に晒されるくらいなら、魔物の群れに突っ込む方がよっぽど楽だわ……」
「全くだぜ。貴族相手の作法を一挙手一投足までチェックされてみろ。胃に穴が空くどころか、全身の筋肉が凝り固まって石像になっちまいそうだぜ」
「あたしは何年ぶりかだけど、社交の場ではどうもね。魔法の術理に関する談議ならいくらでも付き合う自信はあるのにさ……」
俺だけでなく、シャーロットやジャード、ロリエはぐったりしながら壁や椅子にもたれかかっている。
貴族たちの品定めするような、あるいは利用しようとする下心が透けて見える視線を受け続けるのは想像以上に骨が折れる。
特にウチの女性メンバーはドレスアップもあって、いろいろと目立ったからね。
これだったら、酒場でエールや酒のつまみを食べている方が遥かに楽だよ。
「皆様、お疲れ様でした。冷たいお水でもいかがですか?」
「助かるよメリス。恩に着る」
「メリス、私にも……」
「あたしも!欲しい!」
「俺も頼む」
そんな中、メリスだけは疲れた様子を見せずに飲み水の入ったコップを用意してくれた。
パーティで唯一の貴族出身であり、侯爵令嬢というバックボーンを持つ彼女にとって、この程度の夜会は日常の延長線上に過ぎないのだろう。
その立ち振る舞いは依然として優雅そのものであり、おまけに慈悲深いから、このような気遣いが身体に染みてならない。
「……」
「リュウトさん、どうかされましたか?そんなにじっと見つめて」
「あ、いや。何でもないんだ。メリスも疲れてたりしないか?」
俺の問いに、メリスは柔和な微笑みを返した。
「ふふ、お気遣いありがとうございます。ですが、こうした社交の場は幼い頃から教育として叩き込まれて参りましたから。身体に馴染んだようなものです」
「そっか。やっぱり、積み重ねが違うんだな」
生まれや育ちのアドバンテージを考慮すべきだとしても、王侯貴族絡みのジャンルにおいてはメリスがパーティ内で一番頼りになる。
聖女で侯爵家の貴族令嬢でパーティにおけるサポートの要にして緩衝材なんて、シャーロットやロリエとは違った意味でのとんでもスペックな女性だと思う。
その時、ノックの音が部屋に響いた。
「皆様。わたくしです。よろしいでしょうか?」
透き通るような、それでいて威厳を感じさせる声。
「失礼いたします。皆様がこちらで休息されているとお伺いしたので、参りました」
優雅なお辞儀をしながら入って来たのは四聖女の一人にしてフォーペウロの第一王女であるレイニース様だ。
純白のパーティドレスと顔周りに付けられている宝石の数々もあって、美しさと品がまざまざと滲み出ている。
「どうか、そのままで。楽になさってください。皆様、この度はパーティーに参加していただき、誠にありがとうございます。王女殿下として、心からお礼を申し上げます」
彼女は優雅ながらにして、親しみやすさを感じさせる所作で頭を下げた。
「そ、そんな、滅相もないですよ」
「わたくしたちを聖なる湖まで守り抜き、これから魔王軍との決戦に赴こうとする皆様を相手にこれ以上の無礼は許されません。こうして自ら赴いたのも、わたくしが好きでやっているだけですから」
レイニース様はふっと表情を和らげた。
王族でありながら、自身の立場を誇示せず、相手への敬意を忘れない。
『正しき権力者ほど、その力を謙虚に行使し、礼儀を尽くすべきである』って言葉を聞いたことがあるけど、それをそのまま形にしたような女性だ。
「他の聖女様方はまだ会場に?」
シャーロットの問いに対し、レイニース様は頷いた。
「ええ、現在も参加されている方々と交流を深めておりますわ。わたくしがこうして一足先に抜けて参りましたのは、皆様の今後についてお話を伺いたかったからでもあるのです」
今後のことか。
確かに四聖女の聖なる湖での儀式を終えたから、必要な物資の補給と装備のメンテナンスが終わり次第、魔族領に乗り込むつもりだ。
その旨をレイニース様にも共有した。
「なるほど。万全の準備を整え、最短で魔王城を目指されるのですね」
「ええ。長居をすれば、それだけ魔王軍にこちらの動きを察知されるリスクも高まりますから」
「そうですか」
シャーロットとレイニース様は真面目な表情を見せる。
今は束の間の休息だが、フォーペウロを発って魔族領に近づけば、そこは毒気と魔物、そして魔族が支配する死の土地だ。
一度足を踏み入れれば、旅の過酷さは一気に跳ね上がり、心からの休息や安眠など望めないだろう。
「魔族領への突入にあたり、必要な物資がございましたら、何なりとお申し付けください。食料や高純度のポーション、旅に必要な魔導具。リクエストがあれば、王国の宝物庫を開いてでも、ご提供いたしますよ」
「よ、よろしいのですか? そこまでしていただいて……」
ありがたいことこの上ない提案に俺たちは思わず目を丸くする。
だが、レイニース様は毅然とした態度で言い切った。
「皆様は魔王軍との戦いに終止符を打つ切り札です。その歩みを止めるわけには参りません。わたくしレイニース・ドゥ・フォーペウロは皆様の勝利を信じ、支援を惜しまないことを誓います」
その言葉には一切の打算がなかった。
純粋な願いと未来を託す決意を俺たちは垣間見る。
「ありがとうございます。レイニース様」
俺とシャーロットが最初に深く頭を下げると、ロリエやメリス、ジャードもそれに続いた。
疲労はまだ残っているけど、不思議と身体は軽かった。
最悪の敵が待つ魔族領への旅路にこれほど心強い追い風はない。
俺たちは決意を新たにするのだった。
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