第95話 帰還してからの……
フォーペウロの王都を発ち、聖なる湖での儀式を完遂してから一週間。
魔物との小競り合いや儀式の最中の張り詰めた空気。
それら全てを潜り抜けて、俺たちはようやくこの巨大な城門をくぐり抜けた。
「ふぅ。戻って来たな」
「戻って来たわよ」
「何だかホッとするわ」
「四聖女様の護衛という大役を終えた後だから。緊張の糸が解けるのも無理もねぇ」
「言えてますね」
俺たちはフォーペウロの王都バアゼルホを発ってから聖なる湖に赴き、やることを終えて戻って来ること約一週間。
やり切った俺たちはその門前まで帰って来るのだった。
フォーペウロの騎士団のトップであるアルフラド団長や後ろに控える四聖女のアイラ様、カトレア様、フローラ様、そして、その一人にして第一王女であるレイニース様も微笑ましい様子で見ている。
アルフラド団長が歩み寄り、右手を差し出した。
「勇者パーティの諸君、見事な働きであった。貴殿らのお陰で、何事もなく儀式を終え、戻ることが叶った。フォーペウロの騎士団を代表して感謝する」
「いえ、大したことはしておりません」
アルフラド団長から労いと感謝の言葉を受け、シャーロットが代表してその手を取り、力強く握手を交わす。
戦場を共にした者同士にしか分からない、無言の信頼がそこにはあった。
俺たちはそのまま王城へと足を運び、女王陛下であるエリザナ様へ事の次第を報告する。
ようやく解放された俺たちが宿屋に転がり込んだのは、夕刻が過ぎかけた頃だった。
◇———
「……なあ、ジャード。誘ってくれるのは光栄なんだけどさ。正直、俺はまだこっちの空気には慣れないよ」
バアゼルホにある中央会館。
豪華なシャンデリアが天井を飾り、磨き上げられた床が鏡のように光を反射するこの国で特に格式高い社交の場。
俺とジャードはその一角にある個室で鏡を前に悪戦苦闘していた。
「……リュウトに同意だ」
普段は重厚な鎧に身を包んでいるジャードが窮屈そうに首元をさすった。
今日は女王陛下のご厚意で各領地の貴族たちが集う親睦パーティに招かれている。
ここまで来る廊下ですれ違った面々は歩き方一つとっても洗練されており、武器を振ることしか能がないだろう自分たちが場違いな場所に迷い込んだような気がしてならない。
「まあ、俺たちの本分は冒険と戦いだからな。なあ、ジャードはエレミーテ王国騎士団にいた頃、こういう場に出席したことは?」
「勲章ものの成果を挙げた際に、何度か出席させられたことはある。だが、何度出ても社交の場は苦手だ。剣を振っている方がよほど楽だ」
ジャードは濃い灰色の、仕立ての良いスーツを纏っている。
鍛え上げられた筋骨隆々な体躯のせいで、服が弾け飛びそうになっているが、それが逆に紳士的な猛者風情で様になっていた。
「贅沢な悩みだな。お前、背が高いからその格好、似合ってるぜ」
「お前こそな、リュウト。その銀の刺繍、お前の髪の色によく映えているぞ」
俺は俺で動きやすさを重視しつつも装飾をあしらった上等な銀色のスーツを借りていた。
普段身に付けている革鎧とは違う滑らかな布の感触を受けていると、どうにも落ち着かない。
「お待たせー!準備できたわよ!」
その時、個室の扉が勢いよく開いた。
俺とジャードは言葉を失ってその場に立ち尽くした。
「……どう、かな?」
最初に入ってきたシャーロットが、少し照れくさそうにドレスの裾をつまんだ。
彼女が纏っているのは夜の海を思わせる深い紺色のドレスであり、タイトなマーメイドラインのシルエットが彼女のすらりと伸びた長身と戦士として鍛えられた無駄のないラインを完璧に引き立てている。
いつもの女勇者と言うより、まるで一人の凛とした貴婦人のように見える。
「……うん。似合う。すごく素敵だ、シャーロット」
「そう?……あはは。リュウトにそう言われたら、ちょっとくすぐったいわね」
彼女は顔を赤らめて視線を逸らしたが、その口元はどこか嬉しそうに綻んでいる。
「私のも似合うでしょ!?」
続いて飛び込んできたのはロリエであり、彼女は新緑のような黄緑色のワンショルダードレスを選んでいた。
オーソドックスなデザインながら、勝ち気な彼女らしさを際立たせているようにも見える。
「良いと思うぞ」
「それだけ!?ジャード、あなたいつも一言足りないのよ!」
ぷりぷりと怒るロリエをよそに、その後ろからゆっくりと静謐な空気を纏って現れたのがメリスだった。
「お待たせいたしました」
メリスの衣装はチューブトップのような形をしたクリーム色のドレスであり、長めなフレアスカートが歩くたびに柔らかく波打つ。
首元で輝く小ぶりな宝石が彼女の透き通るような肌の白さを強調していた。
「メリス……。なんていうか、いい意味でレベルが違うな」
「うふふ。リュウトさんもお似合いですよ」
思わず漏れた言葉に、彼女は上品に微笑んだ。
「このような格好をするのも、随分と久しぶりな気がいたします。皆様の視線が少し気恥ずかしいですね」
彼女の所作一つひとつには隠しきれない気品が溢れてならず、聖女にして貴族令嬢という肩書きは伊達ではない。
三者三様、磨き抜かれた美しさに圧倒されそうだ。
「あれ?四聖女様たちも参加されるってことは、レイニース様にもまたお会いするんだよな?」
「はい。こういう場にはこの国の名だたる王侯貴族が揃いますから」
メリスの言葉に少しだけ背筋が伸びる。
魔王軍の幹部と対峙する時とはまた違う、独特な緊張感が胃のあたりを締め付けた。
その時、コンコンと控えめなノックの音が響く。
「失礼いたします。勇者パーティの皆様、ご準備が整いましたら、会場までご案内いたします」
扉の向こうから従者の丁寧な声が聞こえた。
「よし……それじゃあ、行こうか」
せっかく呼ばれた以上、このまま部屋に閉じこもっているわけにはいかない。
俺たちは扉を開けてパーティー会場に赴くのであった。
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