第74話 厄介な薬
「とにかく、皆と合流しないことには話にならないな……」
俺は突如として飛ばされた暗闇のような空間の中にいる。
見渡す限りに広がるのは何も無い虚無感を連想させる漆黒と無音。
聞こえるモノがあるとすれば、自分の足音や何かしらのアクションをした時に起きる衣擦れ、心音と呼吸音だけだった。
ぼんやりと眺めてみても、行けども行けども、何も変わらなさそうだし、進んでいったとしても、無味乾燥な景色が続きそうだ。
そんな中で最初に俺がしたこと。
「まずは観察からだな」
俺は<感覚操作>&<魔力確認>を発動させ、周囲を見極めることから始めることになった。
最初に嗅覚と触角、味覚を鈍らせるのと引き換えに視覚と聴覚を可能な限りまで鋭敏にさせながら、異物や違和感を感じ取ることが今の状況の打破に繋がるって判断したからだ。
そこから魔力の乱れを見極めるために集中力を高めていく。
「むっ!この感触は?」
俺が違和感を気取るには長い時間を要しなかった。
目に見える、耳に聞こえる、鼻で嗅ぎ分ける、様々なパターンで突破口を開くためにも、この窮地を脱するために俺は絶やすことなく、持てる感性を研ぎ澄ませていく。
短いようで長く、長いようで短い試行錯誤を繰り返して数刻の時が経った。
「うぉっ!?」
ふとした瞬間、誰かが俺に助けを求めるような微かな声が俺に響いた。
そして、俺は走り出すのだった。消えゆこうとする声の主の下へと……。
◇———
「アースバインド!」
「皆様!ごめんなさい!ホーリーバインド!」
「お前ら!止めるんだ!」
「「「「うぁ……」」」」」
俺やシャーロットが消えた後、滞在予定の村にいるロリエやメリス、ジャードも追い込まれようとしている。
村長がいなくなった途端、もてなそうとしてくれたはずの村人たちは鍬や鋤など、人を傷つけるのも容易な道具を持っている。
全員、虚ろな目をしており、ゾンビのように襲って来ている。
傷を負わせてしまわないようにロリエたちが立ち回っている。
「メリス!こいつら呪いや魔法で操られてるんじゃねぇのか?」
「その可能性は高いです!ですが、原因を突き止めるためにも、まずは拘束した方が固いです!」
「そうね。魔物とかならともかく、正気を失っているだけの人間ならば、動きを止めるのに苦労しないわ!スクロールリリース!マテリアルジェイル!」
「「「「「ぐぅううう!」」」」」
ロリエは魔力で形成された牢獄を作り出すスクロールを起動し、村人たちを閉じ込める。
村人の総数が百を超えない人数なのもあり、まずは自分たちの身の安全を確保することに成功する。
「ふぅ、とりあえず、今はこれで凌いでおきましょう」
「しかし、今起きている状況はどう見ても普通じゃないよな?」
「そうですね。確認してみましたところ、魔法や呪いの類かもしれませんが、そうではないような気がしなくもないんですよね」
「どういう意味だ?」
「もしもこの方たちが魔法はもちろん、呪いでおかしくなっているのでしたら、わたくしやロリエさんの魔法で解くことは可能です。しかし、先ほど試みましたところ、効果がほとんど見られなかったんですよ」
「つまり、この人たちが操られているのは魔法ではなく、薬のようなモノであるってことよ。それも、非常に強力なタイプのね」
ジャードの疑問に対し、メリスとロリエが見解を示した。
魔法に関する知識が豊富な二人がそこまで言い切るならば、間違いないだろう。
「なるほどな。俺たちは良しとするが、それよりもシャーロットやリュウトのことだ。目の前のこれって……?」
「ええ。前にギルダスの部下が仕掛けたのと同じタイプね」
「この中にお二人が閉じ込められているとしたら……」
三人はすぐ側にある黒い球状のドームを見ながら険しい表情を見せるのだった。
◇———
「くっ、うぅ……」
亜空間に放り込まれたシャーロットは魔王軍の幹部の一人であるテーゲムと相対していたが、状況は芳しくなかった。
「うっ、はぁ……」
(何よこれ?魔法?いや、発動した素振りは全く無かった)
シャーロットは肩で息をするように片膝をつけている。
その身体には電流を浴びせられたかのように痺れ、理性を失いかねないような熱さが湧き立っている。
「おやおや?随分と気持ちよさそうな姿をしているじゃないか?」
「お前、何をばら撒いた?」
「どうやら魔法による仕業ではないと理解しているようだね?いいよ。その理解力に免じて教えてあげる。おっ!浮かんできた」
するとシャーロットの周りには黒味を帯びた紫色の瘴気が滲み出ており、全身を包むように覆われている。
「これは魔法じゃない。俺が自ら調合した特製の媚薬と言えば分かるかな?」
「媚薬だと?」
「俺の身体から絞り出された体液には正常な判断力を失わせる麻薬のような成分が含まれていてね。それを活かしたお手製の薬の効果は見ての通り、勇者でさえ抗えないほどに効果覿面だ」
「ぐぅ……」
(知らないうちに吸い過ぎたか?さっきよりも熱くなっているような……)
テーゲムは自分の指の皮膚を噛み千切り、流れる血を滴らせながら語る。
神武具に選ばれた者は毒を始めとする有害な物質や状態異常を及ぼすスキルから守ってくれる加護が施されていると言われている。
だが、害をもたらさない薬や物質ならば話は別だ。
「いくら神武具に選ばれた勇者と言えども、薬は対象外のようだな。そりゃそうだろ。良薬まで拒んでしまったら、身体の傷や風邪だって治せなくなるんだからさ」
「ク、クソ……」
返す言葉が無くなったようにシャーロットは苦虫を嚙み潰したような表情を見せざるを得なかった。
立ち上がろうとしたものの、さっきよりも効いてきたのか、身体の火照りが一層強まっているかを教えるように呼吸が荒くなっている。
「さて、そろそろ頃合いかな?」
そこへテーゲムがシャーロットの下に近づいて行き、懐から黒い液体が入った瓶を取り出す。
「味合わせてあげよう。快楽の極みから一転、忌まわしい世界へその身を投じるんだ」
「うっ……あぁ……」
(ダメだ。身体が言うことを聞かない。だ、誰か。誰か……)
心身ともに限界を迎えようとしたシャーロットは悶えるように倒れ伏せており、テーゲムは下卑たような笑みを見せながら瓶の蓋を開けようとしている。
その時だった。
「何?」
(弓矢?まさか?)
テーゲムの背後から一本の弓矢が通り抜け、正確に射貫かれた瓶は粉々に砕けながら液体が地面へバラ撒かれると共に蒸発した。
「シャーロットから離れろ!」
「うお?」
そこへシャーロットから引き離さんばかりの剣戟が飛び、テーゲムは咄嗟に身を引いた。
頬には小さくも確かな傷が付いている。
「貴様。どうやってここに?」
流れる血を拭いながらテーゲムはその相手の顔を見ると、驚きと怒りの表情が張り付いた。
「シャーロットの声が聴こえたから。それだけの話さ」
「リュウ……ト……」
間に割って入ったのはこの俺だった。
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