第73話 急転
魔王軍の幹部の一人が登場します!
「え?なぁ……」
「リュウト。一体何を言って——」
「皆!騙されるな!そのジョッキにおかしなモノが交じってるぞ!」
「何ですって?」
道中で立ち寄った村で村長たちからおもてなしを受けていた俺たち。
口に付けようとしたジョッキに違和感を抱いた俺はシャーロットたちに飲まないように声を張り上げた。
「な、何をおっしゃっているのでしょう?これはれっきとした——」
「ジョッキから微かにだけど、得も知れない酸っぱい匂いを嗅ぎ取ったんだ。それも毒のような類の何かだった」
「いや、普通のエールじゃないか?」
「<感覚操作>で嗅覚を鋭くした上で<鑑定>スキルによって判別した。高濃度の“ヴィロイン”が入ってる!睡眠薬もだ!」
「何だと?」
言い切る俺にシャーロットたちは驚き、村長らも顔を青くしている。
“ヴィロイン”とは薬物の一種であり、いわば麻薬である。
麻薬は摂取どころか、生成や栽培そのものが世界的に禁じられており、重罪は免れることはできない。
さっき俺が名前を出した“ヴィロイン”には非常に強力な幻覚・興奮作用が含まれており、少量でも及ぼす効果は絶大であり、過剰摂取すれば死ぬ恐れも出てくる。
それに加え、よほど注意しなければ気付くことも困難なほどに無味無臭であり、俺が嗅覚を鋭敏にしてやっと酢のような匂いを感じ取れるほどだ。
<鑑定>スキルも組み合わせなかったら、何も警戒することなく、“ヴィロイン”や睡眠薬入りのエールを飲んでしまうところだった。
「村長さん、何でこんなことを?違法薬物の所持や使用は犯罪に——」
「ちっ、バレちゃしょうがないな」
「ッ!?」
信じがたい状況を垣間見たシャーロットは村長を問い質すも、声色が変わっていることにも気付く。
明らかに雰囲気が違うと思わせるには充分だった。
「シャーロット!」
「はぁあ!」
「何?」
村長がシャーロットに襲い掛かろうとしたのと同じタイミングで俺も乱入を試みる。
次の瞬間だった。
「うおっ!」
「くっ!」
「この魔法陣は!?」
「さぁ、地獄を見てもらうよ。勇者様」
「お前は?」
村長は見る見るうちに姿を変えていきながら、中心に黒い魔法陣を展開している。
辺りに眩くも怪しい光が照らす。
数秒したら光が消えていくも……。
「なっ?シャーロットが消えた?」
「リュウトさんもいません!」
(今の魔法陣、まさか?)
突然のイレギュラーにジャードとメリスが困惑しているのに対し、ロリエは冷静に状況を読む。
その時だった。
「うぅう……」
「あぁ……あぁ……」
「な、何だ?」
「村人の皆様!どうされたのでしょうか?」
「様子が変だわ!」
俺たちをもてなそうとしてくれた村人たちは虚ろな目をしながらロリエやメリス、ジャードに迫ろうとしている。
勇者パーティの彼らがこの状況を理解する時間は一瞬だった。
村長に化けた何者かが諸悪の根源である。……と。
◇———
「何だ?ここは?」
シャーロットが気付いた時にいたのは辺り一面に広がる灰色が交じった白い砂が広がる砂漠のような場所だった。
泥のような土色が広がる空に枯れた木々が数本まばらに立っているくらいで、他は何もない殺風景な空間だ。
(分かる。あの時のギルダスの部下と同じようなやり方だ。そして、目の前にいるのは……)
瞬間的に置かれている場所がどんな物かをシャーロットは理解した。
双眸に捉える相手を見て、疑念は確信に変わる。
「お前。魔族か?」
「あぁ。その通りだ。こうして会うのは初めてだな。俺は魔王軍の幹部の一人であるテーゲムってんだ。会えて嬉しいぜ」
テーゲムと名乗る男の容貌は限りなく黒い肌に額から反りかえるように生える一本角と流れる血のように赤黒い瞳。
人間ではないと思わせるには十分すぎた。
「今いる場所って、さっきまでいた村や周辺とは関係性が全くないでしょ?一体何が目的なの?」
「目的?こんなシチュエーションになっても分からないとは、意外と頭が足りないようだな?勇者様」
「……」
(さっきリュウトが言っていた “ヴィロイン”を料理に混ぜ込み、毒殺を狙おうとするのが目的だとしたら、失敗した時の第二のプランであっても私を皆と引き離す理由は何なの?)
分かりやすい挑発に少しの怒りや戸惑いを覚えつつも、シャーロットは動揺を表に出さずに状況を分析し、打開策やテーゲムの真の目的を看破しようと思考を巡らせている。
同時に不意討ちで襲って来ようとも、いつでも戦闘態勢に入れるように聖剣エクスカリバーに手を掛けている。
「ほう、やるつもりか?いいだろう。その前に一つ教えてあげよう」
「何なの?」
「戦いとは、相手同士が武器を持って向かい合った瞬間に始まるのではない。相手が何者なのかを知った瞬間から始まるんだよ」
テーゲムが不遜に言い切った次の瞬間だった。
「んぁ?」
(何?身体が……)
突如として、背骨を抜き取られたかのようにシャーロットの全身から力が抜けていき、両膝が地面に着いた。
「はぁ……はぁ……。お前、何をした?」
「ちょっとした小細工だよ。言っただろ?戦いとは、相手が何者なのかを知った瞬間から始まる。……と」
そう言い切るテーゲムはシャーロットに醜悪な笑みを向けるのだった。
◇———
「ここは一体?」
シャーロットを助けるために村長の間に入った俺だったが、光に包まれたと思えば、見知らぬ空間に飛ばされてしまった。
真夜中の草原のように辺り一面に広がるのは途方もなく続く透き通ったような暗闇であり、シャーロットたちどころか、村人たちもいなかった。
魔族や魔物の気配は全く感じられない分、音一つ無い静けさが不気味さを増しているようにも思える。
「あの村長さんのことも気掛かりであるが、さて……。まずはどうにかして皆と合流しないとな……」
俺は小さな溜め息をつきながら、気持ちを切り替えるのだった。
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