第7話 【Sideガルドス】低迷の予兆
『戦鬼の大剣』ガルドス視点のお話です!
—————何故だ……?何故だ……?
俺たちAランクパーティ『戦鬼の大剣』はスティリアから北東にある『セデレーシス炭鉱跡』と言うダンジョンに潜っている。
それはエレミーテ王国に点在する数あるダンジョンの中でも古くからある大型のダンジョンであり、俺たちはAランクになってから何度も潜ったことがある。
依頼内容は第6階層のフロアボスにして、リスクレベルAのミノタウロスの牙や爪、及びそれに類する素材の採取だ。
『戦鬼の大剣』におけるそのダンジョンの最高到達点は第12階層であり、ミノタウロスを倒した経験もあるのだが、今回は第5階層で手間取っている。
少なくとも、入った段階ではメンバー全員のコンディションは万全だったぞ。
—————それなのに何故だ……?何故、こんなに苦戦しているんだよ?
「ビーゴル!奥から魔物の群れがまた集まって来ている。どうにかしてくれ!」
「ちょっと待ってくれよ!俺だってギリギリなんだよ!クソッ!」
「ジョン!もっと弓矢を撃ちまくれよ!」
「必死で撃っているけど、これが精一杯なんだよ!」
「グゥウ!」
先日、ウチのパーティを脱退したリュウトに代わって加入したのはジョンと言い、ジョブはレンジャーだ。
ジョンは『セデレーシス炭鉱跡』にも劣らぬ規模のダンジョン攻略の経験もあり、ここへ赴く前に弓矢の腕前を確認しておいたのだが、悪くはなかった。
しかし、こんな状況になったのは原因がある。
「お前がトラップに気付けないせいで、今度はロックヴォルグの群れが襲って来たんだぞ!」
「そんなこと言われても!しかもトラップだって———」
「だー!もう!じれってえな!」
茶色い岩石の皮膚や鋭い牙が特徴的なロックヴォルグはリスクレベルCの魔物であり、近接戦を得手とするAランク冒険者ならば数体相手でも無傷で倒せるくらいだが、群れで襲って来ると相当に厄介な集団へと化ける。
そもそもの話、今いる階層に着くまでジョンが誤ってトラップに引っ掛かることが複数回あり、その度にゴブリンやオークの集団と戦闘になっては消耗している。
以前はこんなことがほとんど無かっただけに切羽詰まっている状況だ。
俺が長剣で、ビーゴルがトゲ付き金棒で応戦するも、押され始めている。
「皆、下がって!ブレイズストーム!」
「「「「「グガァアアアア!」」」」」
「よし!ナイスだぜ!アキリラ!」
俺たちがどうにか踏ん張ったお陰で、魔力を練り上げたアキリラは強力な炎の渦をロックヴォルグの群れに向けて放った。
魔術師のアキリラが使える魔法の中でもかなり強力だ。
何とかなったと思い、俺はその場でグッと拳を握りしめながら口角を上げた。
しかし、それはまやかしであると気づかされた。
「ガァアア!」
「きゃあーーっ!」
「なっ?アキリラ!」
まだ生きているロックヴォルグの二匹がアキリラに突進し、その内の一匹によって彼女はフッとばされた。
「ぐうっ、うっ」
「ガァアア!」
「うわあああ!」
もう一匹のロックヴォルグは鋭い鉤爪を生やした前脚を振り下ろし、アキリラは身を捩って躱すも、左脇腹を斬り裂かれてしまう。
太い血管が切れたのか、内臓の一部をやられたのか、血がしとどに溢れ出ている。
「うっ、うぅうう……」
「この野郎!」
「クソッタレ!」
俺は背後からロックヴォルグの延髄を斬り裂いてトドメを刺し、ビーゴルが金棒を勢いよく振るって他の個体を追い払う。
「リリナ!回復魔法を掛けてアキリラを復帰させろ!」
「無理よ!」
「何だと?!」
俺はリリナにアキリラを治すように指示するも、帰ってきたのは拒否の言葉だった。
「魔力回復ポーションも切らしているのよ。ここを乗り切ったとしても、そんな状態でミノタウロスに挑もうとするなんて自殺行為よ!」
「くっ!」
リリナに現状と退いた方が良い旨の進言を受け、俺は決断した。
「チッ!撤退するぞ!」
アキリラはリリナとジョンに担がれる形で走り、俺とビーゴルがロックヴォルグの集団をどうにかして抑え、安全圏にして帰る階段のあるセーフティエリアへ逃げ込んだ。
「はぁ、はぁ……」
「アキリラ、しっかりしろ!リリナ!早く回復魔法を!」
「今やるから!ヒーリング!」
急かされたリリナは回復魔法のヒーリングを使い、それに加えて、傷ついた肉体の回復効果があるポーションも併用しながら治している。
「アキリラ、大丈夫か?」
「まだ完璧じゃない。外傷用の包帯も欲しいけど、手元に無くて……。ガルドスやビーゴル!持ってたりする?」
「持ってねえよ」
「同じく。ジョンとかが持ってんじゃねえの?」
リリナのお陰で止血と斬られた脇腹の裂傷は治し、万全な状態にするためなのか、外傷を治すのに効果がある包帯も欲しいと言うが、俺もビーゴルも自分用の分だけで使い切っている。
ビーゴルがとある方角に視線を向けている。
「え?俺が?」
「ねえ、持ってるなら譲って欲しいの。お願い!」
「……。はい」
「ありがとう!」
リリナに頼み込まれたジョンは懐から取り出した包帯を譲ったが、その表情は呆れ気味のようにも見える。
「何だその面は?仲間がやられているんだぞ!」
「これは『戦鬼の大剣』に加入する前から俺が自腹を切って準備した物なんだぞ。それに、今回だって————」
「うるさい!黙れ!とにかく、撤退するぞ!」
アキリラの応急処置を何とか済ませてダンジョンから脱出してすぐに近くの街まで運び、治療院で万全に治してもらったものの、その後の空気は最悪だった。
◇—————
俺たちはスティリアに戻った。
「『戦鬼の大剣』の皆様。今回の依頼は失敗ということですね」
「そうだよ!茶化すな!」
「そんな気はありませんよ」
素っ気なく対応しているのはスティリア支部の冒険者ギルドの受付嬢をやっているリサさんだ。
「連携確認の意味で新メンバーを加えられてから下のランクを一度こなし、Aランク向けの依頼を受けるまでは良かったみたいですけど、今回は残念な結果になられたようで……」
「ぐぬぬぬぬ……」
そう、ジョンを加入させてから連携を確認する意味もあって、『セデレーシス炭鉱跡』ダンジョンに行く前にBランクの依頼を受けた。
何度も倒した経験のある魔物の討伐そのものは成功したため、手応えを感じてAランクの依頼を引き受けたものの、結果は失敗に終わった。
「今回の失敗を活かして、次は成功できる事を祈っております」
「はい……」
「チッ!」
淡泊な対応をされたのもあって怒りを覚えかけたが、ギルドの中で癇癪を起こすなんて恥ずかしい真似をするのもマズイため、俺たちは大人しく出て行った。
帰る道中でジョンに必要なアイテムを購入するように命じた後、拠点にしている邸宅で酒を煽ってストレスを発散させることにした。
あ~、腹が立つぜ。
翌日の昼下がり……。
「はぁあ?脱退するだと?」
「そうだよ。もうギルドにもその旨を伝えておいた」
何とジョンが『戦鬼の大剣』を抜けると言い出し、既に荷物もまとめていることから出て行く気満々なのが分かる。
「何だってそんな———」
「決まってんだろ!初めて入って受けた依頼成功の報酬の分配なんだけど、俺だけ少なすぎるんだよ。おまけに皆でやるべき雑用を全部俺に押し付けるとかあり得ないだろ?」
理由を聞くと、帰って来たのは理解しがたい主張だった。
「ふぅう。あのな、前線で戦っているのは俺とビーゴル。アキリラによる強力な魔法。リリナの回復魔法や補助魔法による戦線維持。戦闘における貢献度で報酬の分け前や待遇を変えていくのは当然だろ?その上、お前がトラップに引っかかったせいでてんてこ舞いになって、アキリラが大変な目に遭っただけじゃなく、俺らも恥をかいたんだぞ。それについて思うところは無いのか?」
「そうよ。アンタのせいで私は怪我したのよ。それについても謝ってすらいないしさ……」
「それはだな———」
「自分のミスで依頼を失敗した上に怪我人まで出してんだぞ。謝りもしないで棚上げしてんじゃねよ、このクズ野郎!」
「はぁあ?」
どうやらアキリラとビーゴルも俺に同調してくれているようだ。
リリナは無言を貫いているけど、そう言う意味だろう。
「これだったらリュウトの方がまだ使え———」
「前のレンジャーがどれだけ優秀だったかは知らないけど、ハッキリ言ってやってられねえよ!とにかく抜けさせてもらう!」
「チッ!勝手にしろ!」
テーブルをバンって叩きながらジョンは捨て台詞を残して去っていった。
積極的に魔物と戦っているわけでもないのに随分とわがままな奴だ。
「はぁあ。また新しいメンバーを募らなきゃだね」
「どうする?今度はシーフのジョブを持っている奴にでもするか?」
「まあ、それは追って考えるよ。今日はギルドに行って新メンバーを募る手続きをしてくるとしよう」
にしてもジョンの口ぶり、まるでリュウトの方が優れているとでも言いたげに思えたけど、あいつを碌に見てもいない癖に凄い人扱いするなんて変わり物なのか?
そんな考えが頭を過ぎりつつも、俺がギルドに出向いて到着した頃にはスッポリ忘れていくのだった。
だけど……。この時、可能性として全く考えもしなかったんだ。
俺たちAランクパーティ『戦鬼の大剣』崩壊のカウントダウンが始まっていることを。
いかがでしたでしょうか?
少しでも「気になる!」「面白い!」「続きが待ち遠しい」と思われましたら下の☆☆☆☆☆を★★★★★にしていただけると幸いです!
面白いエピソードをご提供できるように努める所存ですので、どうぞよろしくお願いいたします!




