第45話 動き出す者たち
第二章の開幕です!
魔族領にある岩でできた大きな屋敷のような建物があった。
その周辺は人間が住まう領地と魔族領の境目付近であり、魔物たちが跋扈している、力の無い者が踏み入れるのは自殺行為同然に危険な場所であった。
その建物の一室には二人の魔族が集まり、ある話をしていた。
「それで、ギルダスの回復はどこまで進んだのかしら?」
「はい。身体の方は全快に近づきつつありますが、力の源である核を一部損傷しているのもあり、歩くだけならばともかく、戦闘に参加するのは困難な状況です」
ソファに優雅な振る舞いで座っている女性がギルダスと言う人物の安否を確認している。
王族や貴族に仕える従者が着ているだろう執事服のような衣装に身を包み、濃いねずみ色の七三分けにした髪型にメガネを掛けた男性が淡々と報告している。
「そう。あの戦いからまだ一週間しか経っていないとは言え、そこまでしか進んでいないのね。何をしているのかしら?」
「申し訳ございません。ピッチを上げるよう、至急急がせますので!」
「無理に急がせなくてもいいわ。ギルダスは戦闘能力に焦点を置けば、今いる魔王軍の幹部の中でもトップクラスよ。ゾバル。気持ち早めながら、丁寧に回復を進めるように指示をしなさい」
「承知しました」
ゾバルと呼ばれる配下らしき魔族は足早にその場を去って行った。
「あのギルダスを戦線離脱に追い込むなんてね。忌々しい限りだわ。勇者パーティ。だが、その内の一人は再起不能にしたのだから、成果としては十分ね」
立ち上がりながら雨風が吹く天候を見据え、辺りを轟かさんばかりの落雷から発せられた稲光によって照らされた女性はそう呟いたのだった。
腰と脇の間まで伸びた黒に近い深紅色の髪に凹凸のハッキリとした身体つきをしており、それをまざまざと売りにしているかのように、露出度の高い黒いドレスを着ていた。
特に、鮮血のような赤味が交じった、宝石のように輝く瞳は見ていると、思わず引き込まれてしまいそうになる妖しい魅力も感じさせる。
「勇者パーティの存在は魔王様の脅威になるのもまた事実。抹殺に力を注がなければならなければね……」
同じく魔王軍幹部の一人であるメーディルがそう呟くのだった。
「失礼します。メーディル様」
「はい?」
その時、メーディルを呼ぶ声が部屋に届く。
扉を開けて入ってきたのは漆黒のローブに身を包み込んだ女性であり、フードの隙間からでもその美貌が垣間見える。
「失礼します。お耳に入れていただきたいことがございます」
「何かしら?」
ある調査に出向いていたであろう女性はその結果を報告した。
「なるほど。その情報や要素、利用できるかもしれないわね。お疲れ様」
労いの言葉を掛けられた女性はゆっくりとフードを脱いだ。
素顔が露わになったその女性は……。
「ありがたきお言葉でございます。メーディル様のお役に立つことが私の幸せでございますがゆえ」
その名はシェリー・ベルローズ。真の正体は人間と魔族のハーフであったのだ。
◇—————
「以上になります!」
「そうか、お疲れさん!報告書を提出したら、今日は上がりだ」
「はい!」
日が落ちようとする夕方、俺は巡回業務を終えて隊舎に戻り、直属の上司であるゾルダーさんに完了の報告をした。
「リュウトさん。お疲れ様です」
「お疲れ、リュウト」
「お疲れ様です」
報告書の作成に取り掛かろうとしていると、同じく巡回から帰って来たシーナ副班長とアンリに声を掛けられた。
「リュウト。今日は給金日だから、第六班で飲みに行かない?」
「良いですね!」
言われてみれば、今日は月々に支払われる給金日だったな。
明日は非番なのもあり、俺は飲みの誘いに乗った。
「シーナ副班長。私たちも終わらせて、さっさと行きましょう!」
「それもそうね!」
飲みに行くのが楽しみなのか、シーナさんは足早にゾルダーさんの下へ向かった。
それからしばらくして……。
「「「「「乾杯!」」」」」
仕事終わりの夜、俺は城下町にある酒場で第六班の面々とグラスを交わしている。
「あ~!仕事終わりに飲む一杯は格別だわ~!お替り!」
「早っ!」
「前から思っていたんですけど、シーナさんってお酒強いですよね?」
「少なくとも、遊軍調査部隊の中ではトップレベルの酒豪だからな」
場所は俺の歓迎会の時に使われたお店であり、店内の中心にある長机と長テーブルが置かれた席で飲み食いしている。
キンキンに冷えたエールと美味しいピザや唐揚げを肴に盛り上がっている。
「ところでリュウト。お前がウチの部隊に来てからそれなりの月日が経とうとしているんだが、どうだ?慣れてきたか?」
「はい。概ね覚えてきました。冒険者時代の時とは違ったやりがいを感じつつあります」
「そうか。そう言ってくれるなら俺も嬉しい限りだ」
ゾルダーさんの言う通り、俺がエレミーテ王国騎士団遊軍調査部隊に来てから二ヶ月が経っている。
入隊してから今日に至るまで通常業務の他にも高ランクの冒険者パーティと合同調査プロジェクトに加わって、魔族と遭遇して、王都が奇襲された事件が起きて、本当にバッタバタな日々を送っていたんだなって改めて思う。
そんなことがあって、二ヶ月経過したとは思えない濃密な経験をしたからなのか、何年も勤めていたって勘違いしそうになる。
「リュウトさん、グラスが空いてますよ。お替りいただきますか?」
「じゃあ、もらおう」
「では、どうぞ」
「ありがとう」
俺のグラスが空になっていることに気づいたアンリがお替りのワインを注いでくれた。
気が利く子だな~。
「そう言えば、リュウトが前にいた冒険者パーティのメンバーで同期だった……リリナだっけ?」
「はい。リリナが何か?」
「あの子、エレミーテ王国の王族専属の医療部隊へ入ったんだってね!」
「はい。そうなんですよ」
シーナさん、もとい第六班の全員が知っていること、と言うか俺が教えたんだけど、リリナは王族専属の医療部隊に転職している。
リリナには難病に罹っていた姉であるエマさんがおり、今は王都の治療院に入院している。
その病気も聖女のセアラ様のお陰で克服し、エマさんは根治を目指して治療を引き続き受けている。
王都を奇襲された事件で多数の住民や騎士たちを出したものの、リリナも治療活動や前線の強化に貢献してくれた。
功績を認められた陛下の提案とセアラ様の推薦もあり、リリナは王族専属の医療部隊の一員になることが叶っている。
まだ見習いの段階だけどね。
「それにしても、そのリリナさんって凄いですよね。Aランク冒険者から王族専属、つまりは王宮で働けるなんてかなりの出世じゃないですか?」
「そうだな。冒険者が王族周りの何かしらの職業に就くパターンも無いことも無いが、結構なレアケースだ。確かジョブは僧侶だったか?」
「はい。冒険者時代の頃、リリナには俺や他のメンバーもよく助けられましたから。彼女の回復魔法や補助魔法は優秀ですから、上手くやっていけますよ」
「へ~。随分と信頼しているのね」
「えぇ、まぁ」
揃いも揃ってリリナをべた褒めだ。
本人がいたら大層照れることだろう。
俺が言うのもなんだけど、リリナは奔放で粗暴な人物が多い冒険者にしては謙虚で礼儀正しい人柄をしている。
王宮で振舞うべき作法を覚えていけば、人間関係においても不自由しないだろうって勝手ながら思っている。
「自分でも数奇だなって思いますよ。Aランクパーティからリリナは王族専属の医療部隊、俺は騎士団遊軍調査部隊の一員になるなんて、去年の自分が見たらビックリしますよ」
「かもな!」
「でも、私は良かったって思っていますよ」
「「「「「え?」」」」」
俺が呟くと、アンリは言った。
「いろいろあった末にリュウトさんはエレミーテ王国騎士団遊軍調査部隊に来てくれた。私にとってはとても大きな幸運です」
「アンリ……」
そう言うアンリは嬉しさいっぱいの表情を見せてくれた。
嬉しいことを言ってくれるじゃないか。
「ちょっと何?もしかして酔ってる?」
「よ、酔ってませんよ!」
「本当?素面で言ってるんだったらもしかして?」
「揶揄わないでください!モーゼル隊長やソフィア副隊長に言いつけますよ!」
「おっとそれはご勘弁!ごめんなさい!」
「「「「「ハハハハハハッ!」」」」」
騒がしくも楽しい宴席を過ごす俺たちなのであった。
◇—————
とある街の宿屋の一室。
「じゃあ、明日はエメラフィールに最速で向かうってことで!」
「うん。先ほど話した通りに行こう」
「ガールズトークも良いが、早めに寝ろよ」
「分かってるって」
一人の男性が扉を閉めた後、一人の女性が宿泊している部屋の中へと戻って行った。
「アイツったら心配性よね。気を使ってくれるのは嬉しいんだけどさ……」
「本当にそれ。あたしらの中では最年長とは言え、中々に小言がうるさいのよ。父ちゃんかよって話よ!」
「まぁまぁ。わたくしたちを思って言っているのはあなたも分かり切っていることでしょう?ちょっとした反省会くらいなら妥当案として考えてもよろしいかと?」
「ちょっと~」
その部屋には女性三人がいる。
「ちゃんとした反省会はさっきの飲みの席で済ませたでしょ!さぁ、寝ましょ!」
「まぁ、グダグダ意義の無いことを語り合うのも時間の浪費だしね」
「そうですね。わたくしたちも睡眠を取って、明日に備えましょう」
そう言って二人の女性がベッドに横たわって寝息を立て始める。
(今回の魔王軍幹部の一角との戦いの結果はお世辞にも、良かったって胸を張れる内容ではなかった。魔王討伐のためには、人材はもちろん、今以上の戦力補填が急務となっている)
黄昏ながら、窓の向こうに映る月を見やる女性の表情には憂いが張り付いていた。
(簡単に叶う望みとは思えないが、それでも……。それでも、本格的に目覚めようとしている魔王を討伐しなければならないんだ。そのためにも、あれが必要になり、あれを使いこなせる者を探さなければならないんだ!)
夜闇の中に輝く月光に劣らない陽光の如き金髪をなびかせながら、一人の女性がそう決心するのであった。
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