第38話 それぞれの思念
「復興作業が大体進んでいることは良しとするが、今回の事件を引き起こした元凶の足取りは掴め切れていないと言うのが現状と捉えてよいのだな?」
「はい。各主要機関と連携しながら、引き続き探っていく所存です」
「うむ。それならば、このまま頼むぞ」
「ハッ!」
とある部屋の執務室にいるのは遊軍調査部隊のトップを務めるモーゼルであり、一人の人物が悠然とした佇まいで伝えられた情報を聞き受けている。
黒に近い灰色の短髪を逆立てた髪型に整えられた顎髭を生やしながらも、その眼は研ぎ澄まされた剣のように鋭くかった。
明らかに身体の衰えを覚え始めるだろう年齢にもかかわらず、その身に纏っている覇気は歴戦の戦士と遜色ない重厚感すら漂わせている。
それこそ、普段は明朗快活でありながら、有事の際は毅然とした振る舞いで対処に当たるモーゼル隊長すらもその人物と相対している限り、毅然とした対応を終始一貫で余儀なくされるほどにだ。
「それにしても、王都に張られた結界を潜り抜けて魔物の、それも魔王軍が生み出したキメラの集団を発生させるとはな。頭を痛めそうになる要素が増えてしまうのは厳しいモノだな」
「仰る通りでございます」
その人物こそ、エレミーテ王国の秩序と治安を守る騎士団の本隊を含めたすべての部隊を束ねる人物こそが……。
「こうなると、防衛はもちろんのことだが、攻勢に出る側の戦力にも一段階以上のテコを入れる必要が出てくるな」
エレミーテ王国騎士団の団長であるシュナイゼル・ヴァラゴスその人である。
シュナイゼルは件の王都襲撃事件を重く受け止めており、今後の対策や動きについて各部隊の隊長や副隊長と詰めている。
結界の内側からトラブルが起きてしまっただけに、その進め方も慎重だ。
「今回はSランクを始めとする高ランクの冒険者パーティ数組もいたから被害規模も比較的軽く済んだものの、そうでなかったらって考えると、怖気を覚えそうだな」
「はい。仰る通りでございます」
「して、モーゼルよ。一つ気になっているのだが、良いか?」
「はい。何か?」
シュナイゼルはモーゼルとそんなやり取りを交わしていると、一枚の資料に映る写真の人物を見やりながら口を開く。
「今回は一人の冒険者が魔族に身を墜とした末、遊軍調査部隊に所属している隊員の一人が聖女のセアラ様の助力があったとは言え、最終的に討伐したらしいな」
「はい。その隊員とはもしや?」
「ああ。このリュウト・ドルキオスと言う男なんだがな」
男の顔写真を見せられたモーゼルは少しばかり表情を崩した。
「その彼に関係する報告書や資料について、私の方でも目を通してみたのだが、一ヵ月と半月ほど前までは冒険者だったらしいな」
「はい。リュウトは入隊してすぐに目を見張るような成果を挙げており、遊軍調査部隊の中でも早い段階で一目置かれております」
「なるほど。本隊の中でも彼の話はそれなりに上がってきていてね。今後が気になる隊員と噂している者も増えているんだ」
「そうですか」
シュナイゼルの眼にはリュウトへの期待と好奇心が込められているようにも見える。
騎士団のトップが一介の隊員に個人的な興味を抱くのは相当レアであるだけにだ。
「他の部隊の隊長らとも話を擦り合わせながら、近くに開かれる各隊の上層部を交えた会議が開かれる。その時に今後のプランや対策を決めよう。先ほども言ったように、遊軍調査部隊を中心に事件を引き起こした人物の動向を追いかけるように!以上、下がってよい」
「ハッ!失礼します!」
モーゼルは敬礼をした後に執務室を去るのだった。
「ふぅう。この国を。いや、この国の秩序とそこに住まう国民の安全を守るのが我々エレミーテ王国騎士団の本懐だ。今回の一件で起きたことを反省した上で更なる対策を講じなければならんな」
シュナイゼルは執務室に映る王都の景色を見ながら決意を新たにするのだった。
「それにしても……」
道を歩く騎士数人を見ながらシュナイゼルは独り言を呟いた。
「我が団の遊軍調査部隊に属するリュウト・ドルキオスか……。もしかすると、エレミーテ王国騎士団に無くてはならない稀有な人材になるやもしれないな」
◇———
「町も大分元に戻ってきましたね」
「そうだな。騎士団も力を貸してくれたのもあるけど、とにかく、良いことだ」
俺は復興が進んでいる城下町をアンリと共に巡回していた。
猫の手を借りたいくらいに困っている住民がいたらたまに手伝うなどをすることもあったけど、大した手間にはならなかった。
「あんなことがあったのに、王都に住まう皆はもう立ち直っているな……」
「脅威を乗り越えることができたのですから、いつまでも落ち込んではいられませんよ」
「言えてるな」
そんな時、アンリが口を開く。
「リュウトさん。聞きましたよ。リュウトさんが倒した魔族って、かつてのお仲間さんだったんですよね?」
「ん?ガルドスのことか?」
「はい」
アンリが話題に出したのは魔族に身を墜としたかつての仲間であったガルドスとの戦いについてだった。
「私、生まれて初めて魔族を見たんですよ。見るだけで分かりました。その辺にいる魔物、それこそ、マッドオーガの方が遥かにマシだって思えるくらいのプレッシャーと恐ろしさを感じました。恐怖の余り、私は援護どころか、動くことも叶いませんでした。その時にこうも思いました。私はまだまだ弱いなって」
「アンリ……」
魔族化したガルドスを目の当たりにしたアンリは当時の状況を振り返っていた。
後で聞いた話なんだが、あの現場にアンリもいたものの、まともに動けていたのはシーナさんくらいであり、彼女にできたことと言えば、怪我人を安全な場所へ運ぶことと何とかして騎士団に状況を伝えるだけだった。
それでも、どうにか恐怖を堪えて責務を全うしようとするその気概は確かだと思う。
「そこに現れたのがリュウトさんであり、魔族を倒してくれました。それを聞いた時、私はただただ凄いって思うしかありませんでした」
「味方の助けがあっての結果だよ」
キラキラした瞳で語るアンリは活き活きとしている。
すると、今度は照れも混じったような表情になった。
「リュウトさん。覚えてますか?初めて私がリュウトさんと出会った日のことを?」
「初めてって?あっ!」
隊舎の前に来たところで聞かれたアンリの質問に対し、俺はその時の記憶を掘り起こす。
王都の近くの森林で彼女と出会った時の頃だった。
「マッドオーガに襲われていた私の前に颯爽と現れて、助けてくれました。今回起きた事件でも、魔族となったガルドスさんを倒し、皆を救ってくれました。初めて会ってから今に至るまで思うんです。リュウトさんは強いだけじゃない。心優しくて、律儀で誠実で向上心溢れる人だって。頼りがいのある人だって」
忖度抜きで俺を褒めるアンリ。
ここまで言われると、内心嬉しくなってしまう。
「今では心からこう思います。リュウトさんは騎士団に無くてはならない人です。そして……」
意を決するようにアンリは告げる。
「リュウトさんは心の底から尊敬する……私の憧れです」
その表情に嘘や迷いは無かった。
「そ、そうか」
「だからリュウトさん!同じレンジャーとして、同じ部隊の一員として、これからもたくさんのことを教えてください!よろしくお願いします!」
「……」
今度は指導を請うように頭を下げた。
まぁ、今回の一件をきっかけにアンリの中にある気持ちも変わったのだろうと思う俺だった。
「俺で良ければな」
「はい!よろしくお願いします!」
柄にもないような言い方にはなったけど、その頼みを受けることにした。
俺は「ただいま戻りました」と言って隊舎の中にある自分のデスクに戻り、明日の仕事について整理しようとしたその時だった。
「リュウト。戻って来たか」
「ソフィア副隊長。お疲れ様です」
俺の姿を見つけたソフィア副隊長が声を掛けてきた。
仕草からするに、俺のことを探していたようだな。
「モーゼル隊長がお呼びだ。すぐに来て欲しい」
「は、はい」
俺は言われるがまま、ソフィア副隊長に付いていった。
◇———
「悪いな。急に呼び出してよ」
「いえ、問題ありませんよ。それで、どういったご用件で?」
「用件の前に確認したいんだが、明日のお前の仕事ってどんなだっけ?」
「今日のように巡回や復興作業の手伝い、他にも、周辺の調査をしようと思ってます」
「そうか」
モーゼル隊長の執務室には一種の厳かさを感じさせる空気が流れている。
そこで伝えられたのは?
「リュウト。お前の明日の予定、とりあえず全部キャンセルな!他の班に仕事を回すことになったから!」
「はい?ですが、何だって急に?」
まさかの仕事キャンセル命令だった。
え?何?「俺、悪いことしちゃった?どうなるのか?」って考え始めたその時、ソフィア副隊長が「そんな説明では混乱しますよ」と言いながらモーゼル隊長を窘め、元の静かな空気になった。
「悪い悪い。言葉を間違えたな。明日の仕事をキャンセルさせたのはな。お前にはある場所へ赴いて、やって欲しいことがあるんだよ。その時は俺やソフィアも付いていく」
「え?やって欲しいこととは?」
疑問を抱きながら話をするモーゼル隊長は口を開いた。
「明日の正午過ぎ、先日の事件を解決に導いた功労者として、エレミーテ王国を治める国王陛下が謁見の機会をご用意された。それにリュウトも参加してもらうことが決まった」
「え?え、謁見……?」
モーゼル隊長の言った『謁見』の二文字を聞いた俺はその場でフリーズした。
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